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ゲイには需要もクソも無いじゃなイ!!

その日、立川健太郎たちかわけんたろうは荒れていた。


12月の深夜の寒さにも、終電がない時間帯にも、男らしい名前を付けた両親にも、腹が立っていた。

それでも健太郎が一番腹を立てているのは、かれこれ1ヶ月間毎日通い詰めたゲイバーの大好きな店長が目の前で友人に取られた事だった。


1時間前。

健太郎はバーで飲んでいた。健太郎も周りも少し飲みすぎていた。

だって大好きな店長もいるし、気の合う仲間たちも集まって。店内はハイスピードの飲みコールと暴露大会のどんちゃん騒ぎで、皆動物のように騒いでいた。


「実はあたし達付き合ってまーす!!」


友人は大好きな店長の腕に絡みつき、言っていた。

それが1時間前の出来事である。



「ほんっっと死ねばいいワ!!!あの腐れビッチ!!!!」


健太郎はあの甲高い友人の声を思い出して、大量の涙と罵声をたれ流していた。

もう腸を3度ほど煮えたぎらせ、流し込んだ胃の中のアルコールがグツグツと熱くなっている。


新宿二丁目。12月深夜の路上は冷え切っている。


財布を忘れて飛び出してきたが、もうあの店には戻れない。泣きながら飛び出してきた健太郎を追うものも散々怒鳴りつけたせいで、もう誰もいない。


赤紫色の頭髪のてっぺんは黒くなっていて、その黒を左右にふらふらと揺らしながら、健太郎は千鳥足で新宿の街をただ歩くしかなった。


「なぁに見てんのヨォ。酔っ払いのオカマがそんなに珍しいかしラ!!!!」


健太郎の容姿はよく目立つ。

肩まで伸ばした髪を赤紫色に染め。顔には厚化粧。毛皮の目立つ上着の下には赤いバラの描かれた派手なシャツを身に纏っている。


「見せ物じゃないのヨ!!!!!」



涙で化粧はドロドロに崩れ落ち、服の薔薇とも相まって、それはピエロ顔の狂気を演出していた。それを通行人が早足に通りすぎては横目でチラチラと見てくる。

避けるように健太郎は歩く速度を早めた。


腹が立つ。

これは見せ物なんかのために用意した勝負服では無いのだ。

これはあの忌々しい出来事のために用意した勝負服では無いのだ。

歩く先々の目線が健太郎を挑発した。


ーーにゃぁん。


「…ニャァん?」


猫だ。


健太郎の背後で猫の声がした。それに思わず歩みを止めた。


路地裏のゴミ袋の隙間から小さな子猫がこちらを見ている。


「あーらあらあらあららラ〜?子猫チャン〜〜?こんな小汚い街にどうしたノかしラ〜〜?」


子猫は驚いたようにミャッっと声をあげてパタパタと走り出して行った。


「アタシもアンタも可哀想な子猫ちゃんネ。。。そうヨ。これはアタシの為に選んだ服で、あんなやつ関係ないワ」


呂律は回っていなかった。


今回の出来事は1度目では無い。

今回はバーの店長だが

先月はゲイだけが通うナイトクラブのディスク・ジョッキーに恋をしていた。

毎月のペースで健太郎の恋は終わっては大荒れして、振られた翌日の朝には立ち直っているのが、もはやルーティンだ。思い切り泣けば翌朝にはいつもケロッとしている。


こんな生活を続けていき、健太郎は異様に立ち直りが早くなってしまっていた。


先ほどまでの苛立ちは忘れたのかのような軽い足取りで路地裏を抜けた。

路地裏の先には大通りがある。そこでタクシーを拾って家まで帰ろう。

そして明日からはまた新しい恋を探そう。


路地裏を出た瞬間、眩しい光が健太郎の目の前を照らした。



遅れて聞こえたのはクラクションの音。

最後に目に写ったのはトラックと先ほど見かけた子猫。その全てが一つに重なり合おうとしていた。


「危なッーー」

考えるよりも先に体が飛び出してしまった。


子猫がトラックに轢かれそうな今、自殺行為のようにその場に身を乗り出してしまったのは

助けたかった一心なのだが、酔いが回りすぎた頭ではその方法までもは考えつかなったのであった。


トラックは派手に健太郎の体を跳ね上がらせ。

新宿の街に薔薇のような血を彩らせた。


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