女王
「まさか貴方…剣蟻の女王を倒そうって言うんじゃないでしょうね」
ルカの問いに男は不敵に答える。
「そのまさかや」
ルカとリンが顔を見合わせた。
「……剣蟻は単体の脅威度ならEクラスのモンスターですが…女王は格が違います。並の攻撃なら傷すらつかない強力な装甲に加えて魔法耐性も高い。単体として見てもAクラス上位はあるモンスターです。剣蟻の群れと共に相手をするとなれば……Sクラスはあると思います。」
「なんや嬢ちゃん、よお知っとるなぁ。」
リンの説明にジンは感心したように言う。
「アルメタリカまで行ってギルドに応援を求めた方が良いわ。」
「…本来ならそうかも知れん、やけど今アルメタリカのギルドのもんはほとんど出払ってもうとる。ここ最近アルメタリカ近辺に強力な魔物の出現報告が絶えへんからな。ギルドも手一杯や。」
昨日のオーガの件もありルカは口籠る。
「そないに心配せんでも女王はわい1人でやる。アンタらは周りの虫が近付かんようにしてくれたらええ。」
ジンは飄々とそう答えた。
「1人でって…よっぽど自信あるみたいだけど…どう思う?タケル」
「………え?今の流れで俺に話振る所あった?」
神妙な面持ちのルカに対してタケルはいまいちピンと来ていない。
「選択を間違えれば全滅もあり得ます。どうしましょうかタケル様」
「なんで1番アウェイな俺に振るんだよ!」
「かっかっか。元気でええな。まぁ冒険者の共闘はいつだってアドリブや。行くで」
「行くってあんた…こっちはまだ話まとまってな」
「【加速機構】」
タケルが言い終わるより早くジンが地面に手をかざす。するとタケル達の足下に矢印のような物が現れ、次の瞬間タケル達の身体は物凄い勢いで剣蟻の群れへと吹っ飛んだ。
「ごっ、のわぁ!なんじゃこりゃあ!!」
「魔法じゃないわね…移動に特化したスキルかしら。まったく…もうやるしかないわねタケル」
「だから何故俺に振る!てかこの速度大丈夫?俺死なない?」
「かっかっか!よっしゃ派手に行こかぁっ!」
蟻の群れがすぐ前まで迫る時、ジンは背負った大剣に手をかけた。
「雑魚に用は無いでぇ断頭一閃ッ!」
大剣による一振りが眼前の蟻達を纏めて薙ぎ払う。その勢いのまま蟻の群れを次々と蹴散らしていく。
「道は空けといたる!ついてきいや」
バッサバッサと蟻を斬り伏せながらどんどん前へ進むジン。
「なんだあいつ、めちゃくちゃつえーじゃねぇか」
「……タケル様…大丈夫ですか?」
木の枝に引っかかって逆さ吊りになったタケルを下から見上げながらリンは心配そうに言った。
「うまく着地できなったのね…」
「馬鹿野郎!うまく木に引っかかったんだよ!あんな速度から普通に着地出来るお前らが変なんだぞ!!そこんとこよろしく」
「リン、貴女は戦力に数えても良い?」
「おいこらそこ、スルーすな」
「あまり自信は無いですが…1匹ずつならなんとか」
「充分よ。私が前に出るからフォロー頼める?」
「了解ですルカ様」
ルカとリンは先陣を切ったジンの後を追う。
「ちょっ待って!置いてくなって」
バキッ
「ゴフッ!!」
ジタバタしている内に引っかかっていた枝が折れ、頭から地面に落ちた。
「なにしてるのタケル。置いて行くわよ」
「…つらたん」
ゆっくりと立ち上がり2人の後を追う。
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群れの中心、その黒き巨体は低く唸ると、ゆっくり動き始めた。群れを荒らす者を狩る為に。
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