スタートダッシュガチャ
ーーおい
ーーこら起きんかねキミ
子供のような声が頭に響き、徐々に目が冴える。
ーーよーやく起きたか、僕もそんな暇じゃないんださっさと済ませよう
「あれ?ここは…俺はいったい」
何処までも広がる空間。上も下もわからない不思議な場所。
ーーあーキミ死んだよ、野球ボールが頭に当たってね
「え?えぇええっ!!?死んだの俺!?ボール如きで?無様すぎるんですけど…」
ーーいやー中々いないよこんなマヌケな死に方する人間は
「マジですかぁ…あの、俺これからどうなるんですかね?天国ですか?地獄ですか?悪い事はしてないと思うんですけど…」
ーーいやいや僕はそう言う担当じゃないから
「担当…」
ーーキミには異世界に転生してもらうから
「異世界!?」
ーーそそ、ワクワクするでしょ〜それじゃあ早速…
「ちょちょちょ!ちょっと待って!!」
ーーんーなに?
「あのーそのーなんて言うか異世界転生と言えば…最強能力とかチート能力とか、そう言うのって貰えたりなんかしちゃったりするんですかね?」
ーーあー能力、能力ね…僕はそう言う担当じゃないからあんま詳しくないや
「担当…」
ーーまぁ大丈夫!キミの前世の行いは力に変わる!もう納期まで時間無いからいくよ?
「納期…え、ちょ」
ーーごちゃごちゃうるせぇ!とっとと行けや!
「なんかヤケになってませんか!!」
ーーんじゃ行ってらっしゃーい
「まっ」
言葉を発した頃には目の前に広がる青空。風が頬を優しく撫で
「… これは俗に言う…落ちてるって奴じゃないのかね」
風が身体を激しく打った。
「痛たたたっ!これ、あれ?やばくね?なんでいきなり空に投げ出されてんの」
グングンと地面が迫るその時
ピコーン♪ピロリンピロリン♪
「え?」
突如コミカルな音が鳴り響く。
『こんにちわ!』
「うわ!なんか出た」
空中に箱のような物が飛び出す。
『さぁご主人!今日のガチャを回しましょう!』
「は?」
ーーーーー
ーーーーーー
「グオオオオオオオオッ!!!!!」
3mはあろう巨体と三つの目。そしてその体より大きい金棒を持つ上位モンスター。
「はぁ…はぁ…嘘でしょ!?三眼オーガ…Aクラスのモンスターがどうしてこんな辺境の地に」
銀髪の少女は危機に瀕していた。
「オーガ族の皮膚は剣も矢も通らない…ふぅ、魔力も限界ね…次の一撃に賭けるしかない!」
少女は覚悟を決め、小さく詠唱を始める。
「グオオオオオオオッ!!!!」
オーガの金棒を寸前の所で回避する少女。
「来たれ雷、その轟きで我が敵を貫き穿て【雷鳴咆哮】」
「!!」
少女が放った激しい雷は、オーガを打ち抜く。
しかし、
「グオオオオオオオオォッ!!!!」
渾身の一撃はオーガを倒すには至らなかった。
「そんな…6階級の魔法でも駄目なの?このオーガ…超越個体…Sクラスじゃない」
「グアアッ!!」
「全く…簡単な依頼だったはずなのについてないわね」
死を悟り少女は諦めて瞼を閉じた
ドゴォォォォオンッ!!
「な、なに!?」
突如の爆音に目を開いた少女の前には、
「嘘…でしょ」
オーガを踏み潰す巨体があった。鋭い爪と牙、大きな尻尾と翼。最上位危険モンスター。
「そんな…ドラゴン…」
ーーードラゴンがその大きな口を開く。
「あ痛たたた…飛べねぇじゃん…ん?すいませーん現地の人ですか?」
ドラゴンの巨躯に似合わぬ言葉。少女の思考回路は完全にショートし、何がなんだかわからない。
「え」
「ん?…うわ!!なんか踏んでんじゃん!やべーよ…コレもしかしてペットだったりします?いや本当悪気は無かったんですマジで」
少女はポカンと口を開けたまま動かない。
「あーこの姿じゃ喋りにくいか…えーとあれ?どうやって戻るんだ?ちょっとガチャ子さん?これどうやって戻んのよ?」
ピコーン♪ピロリンピロリン♪
『こんちにわ!ご主人!竜化を中止する場合はBボタンを2回押してください』
「いやBボタンなんてどこに?」
『翼の付け根にあります』
「押しずら!もうちょい場所考えようぜ…ふっ!くっ!ぬっ!お、これか?」
『ご主人!それは鱗です』
じたばたするドラゴンと隣に浮かぶ箱の様な物体。
「なんなのいったい…夢でもみてるの?」
思考を少しずつ取り戻す少女は目の前の光景が信じられずにいた。
『ご主人!それです!』
「おっしゃキタ!」
ドラゴンの巨躯は光に包まれ、その姿を人の形に変えた。
「な!?」
「痛たた腕吊りそう…えーとはじめまして」
「あ、貴方…何者?」
「俺?あーそれは」
ーーー少し前の空
『さぁご主人!今日のガチャを回しましょう!』
「は?」
『今回は記念すべき初回のガチャなのでスタートダッシュボーナスが適用されます!なんと!SSR確定ですよ!いえーい!!!』
なに言ってんのこの箱こわ
『私はご主人から生まれた超スーパーアルティメット究極すごいスキル!ガンダイン•チャンバー•コルトXX略してガチャ子とお呼び下さい!』
「あーうん?なるほどまぁとにかくその超超究極究極すごいスキルって奴でこの地面に真っ逆さまの状況を打破してくれるんだよな?」
『それはご主人の運次第です!』
「運?」
『ご主人のスキルはガチャによって決まります!引いたスキルの期限は1日!次の日にはまたガチャを引いて新しいスキルを獲得出来ます!』
「おいおいマジかよふざけんな…ガチャで毎日能力を決める?そんなの…」
「最高じゃねぇか!!!」
男はガチャ好きのアホだった。
『さぁご主人!ガチャガチャっとお願いします!』
「おっしゃ!頼むぜ」
ガチャガチャ…ポンッ
虹色に光る丸いカプセルが1つ出てきた。
パンパカパーン♪
SSR『竜装ドラゴンスキン』
『おめでとうございますご主人!本日の能力はSSR竜装ドラゴンスキンです!ドラゴンの圧倒的パワーを体験しましょう!!』
虹色のカプセルが開く。
「うお!」
男の体は光を纏い、その姿を巨大な竜に変えた。
「スゲー!!!スゲーよガチャ子!!んでこれどうやって飛ぶんだ?」
『飛びたいと言う熱い気持ちです!』
「え?感情論」
『さぁ!ご主人!』
「え?えっと飛びたい」
『もっと熱く!』
「飛びたい!」
『もっと』
「飛びたいッ!!!」
『もっともっと!!!』
「うおおおおおおッ!!!飛び」
ドゴォォォォオンッ!!
ーーー
ーーーーー
「って感じなんだけど…」
少女の疑惑と戸惑いに満ちた視線が男に刺さる。
「いやいや決して悪い事しにきた訳じゃないんです本当に」
「…ふぅ…ごめんなさい、いろいろと混乱しちゃって」
悪い人には見えないわね…超越個体の三眼オーガを一撃で倒した人にも見えないけど
「すっかり言いそびれちゃったけど貴方は命の恩人だわ。…ありがとう。貴方が…その落ちて来なかったら、きっとそこのオーガに殺されてた」
「え!?そうなのか…そりゃ落下しがいがあったよ」
「何かお礼しなくちゃね。聞いたところこの辺は初めてなんでしょ?良かったら街まで案内するわ」
「いいのか?助かるよ!」
「私はルカ•フォントゥス。ルカって呼んで。貴方は?」
「俺は静島尊シジマでもタケルでも好きな方で呼んでくれ」
「変わった名前ね…それじゃあよろしくタケル」
ーー
ーーーー