第8話 異世界のリサイクルショップ?は不思議がいっぱい
「よしっと、今日はこのくらいにするかな?」
昼下がりメルは庭の草むしりを終えて出掛ける準備をする。荒廃していた家もだいぶ整理され見栄えも良くなってきた。
「さてと、今日はどの辺行こうかな〜」
メルは地図やお金、ハンカチ代わりの布切れをポシェットに入れ着替えを済ませてテンション高く家を飛び出すのだった。
(そう言えばアルルちゃんはどうしてるんだろうなぁ〜はぁー携帯があると便利なんだけど・・・)
メルはインフラの不便さにもう何度目か分からないが改めて嘆く。勿論電話ボックスの類も無い。
「産業革命の頃くらいかなぁ〜文明的には」
高台からの街の向こうを眺めると煙突が何本かそびえ立っているのが見える、煙をモクモクと排出していることから蒸気機関は既に存在しているようだ。
街の中心部にやってきたメルは辺りの店を見て回る、これがメルの習慣になっていた。
(アクセサリーのお店かな?きれー)
メルはショーケースの中に陳列されている色とりどりの鮮やかに装飾されたブローチやペンダントに魅入る。前世ではこのようなアクセサリーには縁が無かった為か欲求が込み上げてきた。
「今の私なら似合いそう・・・前はボッサボサの黒髪だったからなぁ、でも高い・・・」
値札に記されている金額はすぐに即決できるような数字ではなかったためメルは最後に一目ショーケースを目に焼き付け名残惜しそうに後にした。
更に進むとメルは色々な物が置かれた何やら雑貨屋らしき店を見つける。
ランプや時計、絵画など統一感が無いところを見るとリサイクルショップのようにも思えた。
「へぇ〜面白そう、こういう店ってワクワクするんだよねぇ〜」
メルは興味津々にその店に入った。
「おおー骨董品がいっぱい・・・」
アンティークの古めかしい匂いが漂う。
その店には時計の針の音のみが静かに鼓動していた。
「そういえばうちにあった時計壊れてたし一つ買っておかないとなー」
メルが興味深く見渡していると
「いらっしゃいませ」
メルの前に店の人と思しき小柄で腰下まであるロングヘアーの少女が現れた。見た目にしてメルより一回り小さい。
「こ、子供?・・・」
少女は無機質な表情で迎える。
「ここのお店の人?」
「・・・」
返事はないが服装を見るにどうやら本当にここの店で働いているらしい。
「すごいね!その年でもう働いてるの?」
「働いているっていうよりはただの店番・・・」
(あれ?コミュニケーション苦手なパターン?)
あまり接客慣れはしてないのかこれまた小さな声で今度は淡々と説明した。
「へぇ〜そうなんだー歳はいくつ?」
「12です」
「12歳かぁ〜じゃあ私と一つ違いだねっ、あっ私メル、よろしくね」
「・・・・・・」
少女はメルを見るだけであまり会話に積極的になる気は無いようだ。
「時計?ならこっちに・・・」
そう言うと少女は店の奥の方にメルを案内する
そこにはアンティーク調の壁掛け時計から小型の懐中時計までさまざまなな種類のものが陳列されていた。
「おー」
メルはその豊富な品揃えに驚き魅入る。
「どういった物を探しているんですか?」
初めて少女の方からメルに話しかけてきた。
「んーそだねー家に置くやつだからそんなに大きくなくて丸い壁掛けのがいいかな〜」
「だったらちょうどいいのある・・・ちょっと待って」
そう言うと少女は小走りで階段を駆け上がっていった。
「300年前の時計かぁ〜高いんだろうなぁ〜」
無造作に陳列された品々を眺めているとその中で一つ輝きを放つ金色の置き時計に目が行く。
「うわっ!これ金?」
思わずそれを手に取りじっくりと観察した。
細かい花の彫刻に所々宝石らしき石も埋め込まれている。値札は貼られていない。
「これってダイヤモンド?・・・」
メルが宝石の所をさすっていると
ポロッ・・・
「えっ?・・・」
埋め込まれていた宝石がポロリと外れた。
「ひ、ひゃぁぁぁぁーーっ!!!」
大変な事をしてしまったとメルは大慌てで落とした宝石を床を見渡して探す。
「ど、どうしよー、ダイヤだったら弁償とんでもないことに・・・」
冷や汗がだらだらと垂れてくるなか
「・・・?」
慌てふためいているメルの所に少女が戻ってきた。
「あ、あの・・・これは・・・その・・・ご、ごめん!私がうっかりしてたから・・・ほ、宝石取れちゃって・・・」
メルは必死に少女に謝るしかなかった。
「べ、弁償するから・・・おいくらですか・・・」
「・・・」
少女はしばらく沈黙して
「それ王様の、すごく高い」
「え、お、王様・・・」
メルは目を白くして魂が抜け出たように開いた口が塞がらなくなる。
その様子を見た少女は
「冗談!それ偽物」
やりすぎたと思い少女はメルの肩を揺すって現実世界に引き戻した。
「ほぇ?に、偽物?」
「驚かしただけ」
冗談が言えるあたり完全なコミュ障と言うわけでもないみたいだ。
「なーんだよかった、金の時計かと思って腰抜けたよーー」
「そんな高級な物うちでは取り扱ってない」
メルもホッとして笑顔に戻った。
「で、でも悪いのは壊しちゃった私の方だし弁償するよ、いくら?」
「別にいいです、取れた石も安物、たいしたものじゃない」
メルもこれからはむやみに売り物に手を出さないでおこうと思うのであった。
「こんなのですがどうでしょう?」
少女が手渡したのは装飾もないシンプルな茶色の壁掛け時計だった。
「おおーイメージ通りこれなら私の部屋にも合いそう」
「よかった、ただコレ修理中」
「うん、大丈夫、どのくらいかかりそう?」
「3日もあれば」
商談はトントン拍子で進んでいく。
「そう言えばまだ名前聞いてなかったね?」
「パレット」
「おーなんかカラフルな名前だねー」
「はい?」
しばらくしてパレットはメルの目の前で時計の裏側を真剣そうな表情でいじりはじめた。
「んー巻きがちょっと甘いかな〜」
独り言のように小さな声で呟きながら作業に入り浸る様子にメルが
「その時計パレットちゃんが直すの?」
「そう、機械いじりは得意」
商談そっちのけで食い付いているその様はまるで新品の玩具を与えられた子供のようだった。
「パレットちゃん商売も出来てそんなのまで直せるなんて多才だね」
「そ、そんな事ない、ただの趣味だし・・・」
褒められると照れるタイプらしく身体をもじもじさせながら口元を時計で隠した。
メルも年相応のその可愛らしい仕草に癒されるのだった。
メルは他にも無造作に置かれた商品を見て回る。
「わっ綺麗な石」
濁った青色でほんの僅かに光を発している不思議な鉱物に目が行った。
店の中が薄暗いためか辺りがほんのり淡い光で照らされ幻想的な雰囲気を醸し出している。
「それは魔法石の一種、名前は忘れたけどそうやって光を発する」
「ま、魔法石?ファンタスティックな感じ」
するとメルはふと考える。
「この石ランプの代わりになるかな?」
火を毎晩灯しているメルにとって火事の心配の無いこの魔法石は有用な照明器具の代わりになると考えたのだ。
「こんな小さいのじゃ役に立たない・・・」
「そっかー」
「こっちにいいのがある」
パレットが持って来たのは何の変哲もない小型のランタンだった。そのランタンにあるダイヤルを回すと瞬く間に強い光が発せられ店内を明るくする。
「こ、これは電球?」
メルは上等な懐中電灯の光よりも強い照明器具を作り出せるこの世界のテクノロジーに驚いた。
「中に魔法石が入ってる、魔力を込めた強いやつ」
「魔法石が?それってさっきのみたいなの?」
「うん、でもコレは人口的に魔力を込めたやつだからより強い光が出る」
(な、なるほど・・・いわゆる乾電池の役割を果たしているのか)
ダイヤルを戻し光がスーッと薄く収縮していく。
「す、すごいねコレ、よし!それも買った」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「この世界って不思議なものでいっぱいだね」
パレットは少々首を傾げる。
「メルさんは最近この街に?」
(んん?・・・世間知らずだと思わている?)
この世界では当たり前の事をさぞ初めてかのように観察していればそのような疑問も湧くのは当然だ。
「う、うん・・・そんな感じ」
そう言ってメルは抽象的に誤魔化した。
「この世界、い、いや街って凄く素敵だねー、これからの生活が楽しみ!」
(余程辺境の地から来たのかな?・・・)
パレットはそう想像する。
「んーこの店いいねーまた何か買おっと!」
「是非そうしてほしい、他所の店より品揃えは自信ある」
口調を少しばかり強く自信有り気パレットはメルを口説いた。常連客にする気満々である。
「時計のほうは直しておきます」
「楽しみにしてるよ」
「あっ、あと他に壊れてる物があったら是非、直す」
パレット少女強い口調で言う、商売に関して手抜かり無くメルもその姿に関心するばかりだった。
「そうだ、私たちすっかり気が合ったし今度良かったら一緒にお茶でもどう?」
メルはもう、店員と言うよりは友達の感覚のようにパレットに接する。歳も近い事もあるのだろう。
「んー・・・お店・・・」
しかしパレットは手を口元に当てて遠慮気味な感じで返答する。
「そう?偉いなー、でもあまり無理はしない方がいいよ、私みたいになるといけないし」
「ん?」
思わず前世での社畜だった頃の記憶で話してしまったメルは咄嗟に返す言葉を探す。
「んっ!あー今のは、そ、そう今私引越してきたばかりで大変でしょ、重い物持ちすぎて腰とかやられちゃって・・・だからパレットちゃんも気をつけてねって事」
慌てて話を構成して誤魔化した、
「・・・大丈夫、この店普段暇」
「えっ、そうなの?」
メルはそれはそれで別の心配をした。
「大丈夫だよ、私がお得意様になるから」
「あ、ありがとう・・・」
メルはお気に入りの店が潰れてしまう事を恐れパレットの手を握りそう言った。
「じゃあねー」
笑顔で手を振って店を後にするメルにパレットも微笑んで小さく手を振る。
メルの姿が見えなくなった時ふと思い出し、パレットはため息をついた。
「一緒にお茶・・・そう言う時ってどう接したらいいんだろう・・・」
パレットは辛気な顔で仕事場に戻るのだった。
「ふぅ〜いいお店だったなー、パレットちゃんはあんまり人付き合い得意な感じじゃなかったけど友達になれるといいな」
メルはまた行く時を楽しみにしながらこの後も街を探索するのだった。