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第7話 異世界の料理はどれも魅力いっぱい?

「そうだアルルちゃんも一緒に行こ?家でグズグズしてるより外で気晴らしした方がいいよ」

そう言ってメルはショボンとしているアルルの手を掴んだ。

「だ、誰のせいだと思ってるのよ・・・それに・・・こんなボロボロの姿じゃ・・・」

羽をむしり取られ身体中にアザや出血の残る痛々しい姿のアルルは当然拒む。

「天使ならなんか不思議な力で治癒する事も出来るんじゃないの?」

「能力も全部剥奪されたわよーー!!」

そう言ってアルルはソファーに座り込み再度ふてくされる。

「で、でも・・・確かにこんなトコに居るよりは外で美味しいものでも食べた方がいいかも・・・」

アルルは小声で本心を口にした。

「うんうんそうだよね、ちょっと待ってて着替え持ってくるから」

メルはそう言うとよそ行きの服をクローゼットの中から探し出す。

「これなら身体の傷も隠れるし丁度いいかも」

取り出したのは水色で丈が膝下まであるヒラヒラが付いた不思議の国のアリスが着ているようなワンピースだった。

「ちょ、メル・・・そんな趣味があったの?前世とはまるで変わったわね・・・」

アルルは反応に困ったかのような顔をする。

「ち、違うよーコレは元からこの家にあったの!どういう訳か、断じて私の趣味じゃないんだから」


「ぐぐっ・・・カビ草っ・・・」

「ゴ、ゴメン・・・」

そのワンピースは長年クローゼットにしまわれていたためか小さな虫食い後やほつれで少々痛んでいた。

「神聖な天使である私にこんなおんボロ着せる気?」

アルルはプライドを汚されたかのように愚痴を放つ。

「でも今は人間でしょ?我慢してよーそれしかなかったんだから〜」

「まぁ見た目は悪くないからいいけど・・・」

幼い容姿で金髪のアルルにはぴったりと言えるまさに不思議の国のアリスそのものの様だ。

渋々承諾したものの内心少し気に入っているようだ。

「さぁ、行くわよ」

「うん、アルルちゃん何食べたい?お詫びに奢るよ」


「今日は人も少ないねーゆったり周れそう」

「この時間はみんな仕事や学校だからねー」

昼下がりの街中、人の行き来もまばらでメルはテンション高く辺りの建物を見渡していた。

「おー、あれはゴシック建築ってやつかな?あっそうだアルルちゃん、あっちの城に行ってみようよー」

メルは小走りで丘の上の一際目立つ立派な城を指差してアルルの方を振り向く。

「それよりごはん・・・私もうお腹ぺこぺこだよ〜」

昼食を取ることを忘れる程にメルはこの異世界に入り浸っているようだ。

「ああ、そうだったね」

「もー・・・」

2人は辺りを見渡し飯屋を探す。

「そう言えばアルルちゃんこの世界に詳しいんでしょ?何かオススメとかある?」

「んーそうねー前お姉さまと食べた竜の爪だったかな?アレは歯ごたえがあって美味だったわ」

やはりメルの想像していたようなものではない異世界ならではの食材が挙がる。

(て、手羽先みたいなものかな?・・・)

出来る限り頭を回してイメージを想像していると

「まぁ気が進まないわよね、いきなりそんなもの勧められても」

同情混じりのアルルの言葉にメルは

「ううん、私頑張ってチャレンジしてみるよ。この世界の料理にも慣れないとだしね」

メルは心機一転、不安が混じりながらも決意を固めた。


「み、見た目は悪くないかも?・・・」

こんがりと焼けた尖った爪に程よく肉が付き油が生え際から滴っている。これがアルルの言っていた竜の爪らしい。それはメルの想像していた手羽先のようなものよりも数倍大きかった、

「んーやっぱりこの世界に来たらコレよね〜」

アルルはその肉をおいしそうに頬張っている。

メルも期待と不安を入り交ぜ肉を口元へ近づける。

(わっ!いい匂い・・・)

ハーブか何かで風味付けされているのか薬草と肉の香ばしい食欲をそそる香りが鼻を抜けた。

意を決してメルはパクリとかぶり付く。

「わっ!・・・何これ美味しい!」

噛めば噛む程肉汁?が溢れ出しそれと共に肉の旨みも口一杯に広がっていく。

「でしょ〜結構珍しいのよ、竜なんて中々出回らないんだからー」

「鶏肉に近いかな?こんな美味しい肉初めてかも〜」

メルはその美味しさに感激しながらペロリとたいらげた。するとすかさず次の料理がテーブルに運ばれて来る。

「んん?アルルちゃん他にも何か頼んだの?」

「アレだけじゃ足りないわよ」

そう言って置かれたのは

「お、おお、こ、米・・・これ紛れもなく米だよねっ!」

日本育ちのメルに取ってこれほど安心する食材はないようでふっくらと炊かれた米の上には貝や何か分からない魚の切り身のようなものあとは香り付けの香草がまぶされていた。

「こここ、これは紛うことなくパエリア・・・まさかこの世界で出会えるなんて・・・」

メルは感激のあまり目をキラキラ輝かせていた。

「やっぱりどこの世界も考える事は同じなのね」

アルルはそれを皿によそる、しかしその量は何人前なのか?明らかに少女2人に見合った分量ではなかった。

「で、でもアルルちゃんこれオーダーミスじゃ・・・

凄い量だよ・・・」

メルが心配そうに言うと

「て、天使は太らないからこれくらい普通なの・・・」

アルルは目を横にして頰を赤らめて弁解した。

(み、見た目の割に食いしん坊さんなんだなぁ・・・)

「さぁいただきましょ!」

パクッ・・・モグモグ・・・

アルルは小さな口を大きく開けて美味しそうにパエリア?を食べている。その姿はまるでお子様ランチに魅せられた子供のようだ。

しかしメルはその姿を見て

「人間になったら太るんじゃ?」

ストレートに思っていた事をぶっちゃける。

それを聞いたアルルの表情が一転して固まり

「そ、それは・・・い、いいのよその分運動か何かして痩せるんだから」

食べ過ぎ時のありがちな言い分を放ちがらスプーンを進めるのだった。

(まっお腹空いてるし何とかなるかな?)

そう思いながらメルも自分の料理に手を付ける。

「ん!コレもおいしい・・・」

「でしょ〜」

2人は会話を弾ませながら楽しい昼食の時間を満喫するのだった。


(うう・・・お金が・・・パエリアはそんなでもなかったけど竜の爪だっけ、アレあんなにするなんて・・・、まっ奢るって言ったのは私だしアルルちゃんへの詫びと思えば・・・)

メルは予想外の出費に溜息をついていた。

「おいしかったわねー、また食べに行きましょ」

メルの様子を横目にアルルはすっかり機嫌を直して満足している様子だ。

「いいけどー今度は奢りは無しだよー、にしてもよくあの量食べれたねー?」

「ま、まぁね・・・」

アルルは恥ずかしいのか答えようとしなかった。

「さぁ、次はあそこの城に行きましょ!私ドイツのノイシュバンシュタイン城って所に行きたいと思ってたの、それによく似てる」

「あー確かあの城は王様が住んでる所だったような・・・だから行っても入れないわよ」

「えっ?ああいうのって一般公開されてるもんだとてっきり・・・」

メルは少々落胆する。

「前の世界と一緒に考えちゃダメよ」

「考えてみればそうだよねー・・・で、王様はどんな人なの?一度見てみたいなー」

メルは自分の国の統治者がどんな人なのか今度はそちらに興味が湧く。

「んー確か女王だったようなー金髪のね」

「へぇ〜・・・まんまおとぎ話の世界って感じだね」

メルはうっとりしながらどんな人だろう?と想像を膨らませる。

「所詮は地上だけの統治者、神さまの御前に遣える天使である私に比べたらまだまだ下ね!」

アルルはギャフンと両手を腰に当て自尊心に浸りながら勝ち誇っている、内心では一国の王をも見下しているようだ。

「はは・・・でも今は普通の民間人だよね」

アルルのプライドの高さを知っているメルはあまり刺激しないように今ある事実をやんわりと言った。

それを聞いたアルルは

「そ、それは150年の間だけよっ!修行が終わったら天界に戻れるんだから、精々今の内に誇ればいいわ」

図星を突かれたようで、言葉では強気でも内心は焦っているようだ。

「人間は150年も生きないよー」


「アルルちゃん、今度一緒にゴンドラ乗ろう!」

「お気楽ねー」

2人は街中を流れる水路の脇にあるカフェでひとくつろぎしていた。

「いい雰囲気〜コレってまんまヴェネチアだよねっ!行ってみたかったんだ〜」

椅子に座りながら足を揺ら揺らして興奮した様子で水路を行く小舟に手を振るメル。

しばらくして飲み物が運ばれてきた。

「メルそれにしたの?」

メルのも元にあるのはカップに注がれた真っ黒な飲み物、紛う事なきブラックコーヒーである。

「まさかコーヒーもあるなんてねー、前は1日5杯は飲んでたから恋しくなってたんだよ〜」

前世にて仕事のお供として毎日口にしていたメルは笑顔でその懐かしい味に入り浸る。

「ふぁ〜落ち着く・・・」

「よくそんなの飲めるわね〜」

アルルは眉を歪めてそれを飲むメルを見つめた。

「嫌いコーヒー?」

「・・・」

「意外だね〜アルルちゃん400年も生きてるんだから大人な事も知っているのかなーって」

メルはちょっぴりからかい気味にそう言うとアルルは

「う、うるさいわねぇー悪い!嗜好は年齢と関係ないでしょっ!」

アルルはぷんすかと頰を膨らませ何かの果物のジュースをゴクリと飲み干す。

「そう言えばアルルちゃん学校行くって言ってたよね?」

「そうねー」

メルはアルルの今後のことが気になっているようだ。

「主人から修行しろって言われてるし、かといって人に使われる労働は嫌だし・・・」

プライド高いアルルは人の下で働く事は毛頭考えにないようで消去法でそうしたらしい。

「へぇ〜どこの学校行くの?やっぱり小学校?」

「やっぱりってなによー!!!私の年齢知ってるわよねー」

子供扱いされた事に気分を害したのか両手を上げてメルに怒鳴る。

「そんなレベルの低いとこ行くわけないでしょ」

「ごめんごめん」

「私音楽が得意なの!ハープとかね、だから音楽の学校に行く事にしたわ!」

とアルルは自信たっぷりに右手を胸に当てて言う。

「へぇ〜イメージ通りだね〜でも卒業したらどうするの?修行期間は長いよ〜あと学費は?」

「そんなのはその都度考えるわ、生活に必要な物は定期的にお姉さまが持ってきてくれるし」

(修行って結構甘いのかな?・・・)

メルはアルルの生活プランを少々心配しながらも、これ以上は深追いしなかった。

「メルはどうするのよこれから」

今度はアルルがメルに尋ねた、あまり興味はなさそうだが話の流れからだろう。

「ん?そだねー当分の間はこの世界をブラブラ旅行でもしよっかな〜」

メルはニコニコ嬉しいそうに心を弾ませながらそう答えた。

「ホントお気楽ねー」

「へへ、 私の夢だからねー」

続けてメルは

「今まで18年!汗水流して働いてきたからねー10年くらいは遊ぶ!!!」

「10年後お金が尽きて露頭に迷うのが目に浮かぶわね」

熱弁しているメルを尻目にアルルは淡々と答えた。

「どっかおススメとかある?アルルちゃん詳しいし穴場とか知ってるでしょ?」

「そんなの自分で調べなさいよー」

「グー◯ルアースとかあればすぐなのになー」

「それ以前に携帯すらないけどね」

「うぅ〜流石にそうだよね・・・」

メルは文明レベルの差を改めて痛感する。

「遊んでてもすぐ飽きるんじゃないの?何か簡単な仕事でもしたら?」

アルルも完全に他人事という訳ではないようで、一応は友達であるメルのため珍しく心配の言葉を口にした。

するとメルは鋭い目つきで

「いや、仕事はしないよ当分はね、もう働きたくないっ!それに貯金もたんまりあるしっ!」

既にメルの決意は固まっていた。

「そっ、好きにすれば」

その返答にアルルもそれ以上は何も言わない。

。メルの前世での辛い日々を知っている彼女なりの気遣いからくる言葉だった。

「あっそうだこの街に本屋さんある?この世界の事もっと調べないとっ」

「もーしょうがないなー私も欲しい本あるし今から行きましょ」

経緯は違えどこの世界での新たな生活に2人は心を踊らせるのだった。





















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