第3話 これからの生活
病室の窓から清らかな光が差し込む、外から小鳥のさえずりがチュンチュンと聞こえてくる。
「んぐぅー・・・」
この異世界にて初めての朝。
「あっ!今日は会社の月例会!」
ほまれは唐突に思い出しベッドから飛び起きた。しかし目の前に広がるのは以前の片付いていないアパートの自室ではなく木の香りが心地よいシンプルながらも整頓された洋風の部屋。
「あっそっか、私転生したんだった・・・」
すぐさま思い出し気持ちを整えるようにして再度バタンと仰向けになる。
「私もう仕事しなくていいんだ・・・」
ほまれは仰向けのまま天井を眺め目を閉じた。
「仕事しなくていい・・・って事は私・・・もう自由ってことだよねっ」
ほまれは急にテンション高くしてベッドから飛び出す。仕事に追われた前世の生活から解き放たれた喜びは何者にも代え難いものなのだ。
「やぁよく眠れたかね?」
ほまれの主治医であるレヴァン先生が朝食を持ってほまれの部屋に入ってきた。
「はい、こんなにぐっすり眠れたのはいつの時以来か」
「おかしな事を言うね。メルは13年も眠っていたじゃないか」
ほまれはその事実を思い出しとっさに誤魔化す。
「あ、ああそうでしたね、はは・・・長い夢でも見てたみたい・・・」
「今日は身体の検査をするからそれ食べたら医務室に来るように」
「検査?別にそんなの必要ないです」
「メルは13年も寝たきりだったんだよ、まずは健康状態を確かめないと、それに身体もうまく動かせないだろう?」
するとほまれははしゃいでぴょんぴょん飛び跳ねながら
「大丈夫、この通りめっちゃ元気だから」
と丈夫アピールをする。
「驚いた、本当に昨日目覚めたとは思えない・・・」
「あっそうだ!先生、入院費とかは今まで誰が払って・・・13年も寝たきりだったって事は相当な額じゃ・・・」
ほまれは気になっていた事を恐る恐る尋ねた。
「ああそれは心配しなくていい、国からの補助が出てるからね」
「そうですか・・・ホッ・・・」
お金の心配をしていたほまれは一先ず安堵するが立て続けに
「あ、あの私これからどうなるんでしょう?」
昨日アルルから生活の心配はしなくてもいいと告げられていたがそれでもやはり気になるようでほまれは小声で尋ねる。
「ああ思い出した、ちょっと待ってなさい」
先生は何かを取りに行くような部屋を後にする。
しばらくして戻ってくると何やら中くらいの木箱らしき物を抱えていた。
「お母様が残したものだ、物心がついた頃に渡してほしいと預かっていたんだ」
ほまれはそれを受け取るとゆっくりと蓋を開ける。中には数枚の紙と鍵、宝石らしき貴重品も入っていた。
「銀行の証券に家の利権書・・・これは一体・・・」
「全部メルのものだよ、相続人は君しかいないからね、それだけあれば大人になっても生活に困らないだろう」
昨日の夜アルルに告げられた事と一致した。
しかしほまれにここで疑念が一つ思い浮かぶ。そう、こっそり遺産をくすねたりしてないのだろうか?と。そして恐る恐る・・・。
「私のお母さんが先生にコレを預けたって事は余程先生の事を信頼していたんですね」
そう言いながら先生の顔色を伺った。
「信頼も何もメルのお母さんと私はいとこ同士だからね、成人するまでは私が保護者として面倒を見るつもりだよ」
「そ、そうなんですか」
「退院したら私の家に来なさい、15になるまでは援助するから学校も行ける」
サクサクと話が良い方向に進むがほまれはそれを拒むように口を開く。
「独り立ちする事も出来ますか?」
その返答に先生は驚きを隠しきれず
「正気か?メル!それは無理だよ、まだ何も世の中の事を知らないじゃないか」
驚嘆した声でほまれを説得した。
ほまれもこれ以上拒むのは無理筋と考える。
「わ、分かりました。そうします・・・」
ひ弱な声でそう答えるしかなかった。
(まぁお母さんの親戚の人なら信頼出来るし、成人さえすればこの遺産も全部私のもの、気を使うのは嫌だけどまぁ悪くはない話かな)
ほまれは妥協しつつも親戚である先生の提案を受け入れた。
「分かりました、レヴァンおじさん、改めてよろしくお願いします」
「ああ」
生活の心配が無くなったほまれはホッと胸を撫で下ろし朝食のパンわ口に運ぶのだった。