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第0話 あれ?ここ東京・・・じゃない

「ほあぁ〜もう昼過ぎか〜」

日差しも眩しく清らかな昼下がり、ほまれは目を覚ます。外からは商人や街人の話し声がかすかに窓の隙間から入りこむ。

「そう言えばパンがもう切れそう、ついでに紅茶用のハーブも買いに行こう」

昼食がわりのビスケットを3枚程ほうばり硬貨が入った布袋を確認する。

「へへ、これだけあればちょっといいお肉を買ってもいいな」

袋の中には大型の銀貨に少額の銅貨が計80枚ほど入っている。

「銀行にあと4500万ラルクあるから後35年位はニート出来そう」

微塵も不安のないヘラヘラした笑顔でほまれはは街に繰り出すのだった。

「んー今日もいい天気、本当あの時とは考えられないなー」


日本・東京

「ほぁーまだこんなに・・・」

ほまれのデスクには処理するべき書類が山のように積まれている。

「あぁー今日何曜日だっけなー?」

「篠原さん、これもお願い」

上司から追加の書類が無慈悲に追加される。

「はい」

返事ははっきりでもほまれの頭はボサボサで顔色は疲れ切っている様子だった。

「でももう少しだ、もう少し頑張れば貯金5000万、そしたらさっさとこんなブラック辞めて北欧にでも移住してやる」

ほまれは密かに野望を抱きながら何日目かも分からぬ連勤に次ぐ連勤に今日も耐えるのだった。

「そう、もう22年頑張ってきた。もう自由になってもいいよね」


帰宅後

「はぁー明日は3週間ぶりくらいの休み・・・今日はもういいや。お酒飲んで寝よ」

深夜1時半、職場から帰宅したほまれは着替えもせず缶チューハイを一口含みベッドに倒れこむのだった。


ほまれのスマホに着信音が幾度となく鳴り響く

カン、カン

ドアからは大家ではない男の人の声が響く。

「篠原さん、居ますか?入りますよ?」

警察官数名と会社の同僚がほまれの部屋の玄関の扉を開けて入った。


「ひゃっ・・・!」

寒気ついて今にも失神しそうになる同僚の乾いた叫びが部屋に響く。

寝室には変わり果てた姿でベッドに横たわるほまれの姿があったのだった。










チュンチュン

小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる

「んん・・・もう朝?」

ほまれはいつも通りの朝を迎えた・・・筈だった

「ん?私こんな寝巻き持ってたっけ?まぁいいや。そう言えば昨日歯みがいてなかったなー。めんどー」

ほまれはまだボーっとした様子で床に足を降ろす。

ギギー

木がひしむ音がかすかにした。

「あれ?ここ私の部屋だよね?夢見てるのかな?」

自分の部屋とは違う洋風で木材の匂いがふんだんに鼻に入るどこか田舎っぽさのする香りにほまれの思考は追いついていない。

「なーんだ、やっぱりまだ夢の中かぁ。良かったもう少し寝れる」

ほまれは再度ベッドの布団をかぶるのだった。

「!」

程なくしてベッドから凄い勢いで起き上がる。

「夢じゃない!」

ほまれの目の色がパッと変わった。

「夢じゃない、これ夢じゃない!ここドコよーーーーー!!!!!」

バシン!

部屋にある四角のヨーロッパ調の窓を勢いよく開けた。

「ほぁー」

目の前の日本とは全く違う景色にほまれは言葉を失い、それを感嘆とした目で捉える。そこにはビル一つないヨーロッパの風景が広がっていた。

「嘘だよね・・・私まだ移住の手続きも・・・」

ほまれは目の前の現実に混乱するばかりで頭を抱えた。

「そうか!記憶喪失だ。きっと手続きした記憶を忘れているんだ。それしかないよね!ってことは・・・街並みからしてここはフランス?」

ほまれは混乱した状態で部屋の一角にあった小物入れを開ける。

「ならパスポートとか住民票とか?・・・ん?コレかな?」

ほまれは引き出しの中から一枚の古めかしい紙を手に取る。

「えっコレ何語、フランス語でも英語でもない・・・」

そこに書かれている文字は明らかにほまれの世界のものとはどれも違っていた。

「一体ここはどこなんだーーーー」

カチャ

誰かがほまれの居る部屋に入ってくる。

「・・・・・・た、立ってる・・・」

そこにいたのは病院の白衣にも似た服を着た初老の男性だった。

「えっ?あ、あなた一体・・・」

「気付いたんだねメル・・・」

「はい?」

自分とは違う名前を呼ばれた事に戸惑うほまれ。

「あっ、まだ理解出来る訳ないか。生まれた時意識を失って以来ずっと寝たきりだったからなぁ。」

「意識?あ、あのどういう事ですか?それにココはどこ?私は東京で・・・」

初老の男性は目がキョトンとししばらくして

「えっえーメル、君言葉・・・んなわけ・・・」

「言葉?言葉が何?」

目の前の事実と意思の疎通が出来ていない会話にさらに混乱するほまれ。

「どうしました?レヴァン先生?」

ほまれの部屋に入って来たのは青髪でこれまた白衣らしきモノを着た30歳くらいの若い女性だった。

「あら!目覚めたんですか?その娘」

驚いた様子でほまれの方を見る。

「ああ今さっき、でもおかしいんだ。まだ何も教えていないのに言葉をすらすら」

「ああもしかしたら促進剤の効果かも。アレには夢を見させて色んな体験をさせる効果もあるのでその中で覚えたのかも。成功例は殆ど無いんですけど・・・」

「ああそんな効果もありましたなアレ、でも言葉を直ぐに発するなんてやはり変ですよ。」

「そうですねぇ」

ほまれは何一つ理解出来ない2人の会話に目を点にするしかない。

「メルちゃん、自分の事分かる?」

ほまれは我に返り開口1番

「あの率直に言います。ココはどこ?私昨日まで東京にいて、そ、それに・・・今すぐ会社に行かないと上司に叱られる!あとちょっとなのに懲戒とか喰らいたくない!」

ほまれは今思っている事を感情的に全て吐き出した。その姿に驚いた2人は

「う、嘘でしょ?ここまで言葉を・・・」

「信じられない・・・」

驚嘆の眼差しでほまれを凝視する。

するとほまれの頭の中に一つの疑念が湧いた。

「はっそっか・・・私・・・拉致されたんだ!そしてなんかの薬で記憶を消されて・・・それしか考えられない。そしてココは恐らく・・・敵のアジト。」

ほまれは確信した様に周りを見渡す。

「でも変だ、仮に身代金目的の拉致ならもっとこう鉄格子とかがあるはず・・・でもココは普通の病室っぽい。それにこの人たちも悪い人には見えない。えーいでもその線が妥当!なら!」

ほまれは決心する。

「言葉の事は後にしましょう。とりあえず食事を・・・」

(今だ!)

青髪のお姉さんがほまれの方向から目を逸らした隙にほまれは全力で扉の方へ走る。

「きゃっ!」

「ちょちょっと、メル!どこへ?」

2人は不意を突かれ尻すぼみする。

「ここがどこだか知らないけど拉致されたのならとりあえず逃げ出して、後は交番に!」

ほまれは全力疾走して裸足のまま建物を飛び出した。

「へ?やっぱりここは東京じゃない!まぁいいや警察とりあえず警察を・・・」

さらに走り出すほまれの目に飛び込んでくるのはやはりどこもかしこも洋風の建物。

「おかしい・・・本当おかしい、なんでいきなりこんな・・・意味わかんないよっ」

不安から来る涙を垂らしながらほまれはさらに走る。10分ほど走った所でほまれは足を止めた。

「はぁはぁ・・・ここまで来れば追っては・・・はぁ」

息を切らし足の裏を真っ黒にしながら街灯の前に立ち尽くす。街の人はほまれの方を気にかけるようにチラっと見るが誰一人として声をかける者は居ない。

「はぁはぁ私ってこんなに走れたっけなー・・・ん?」

目の前の靴屋のショーケースガラスにほまれの姿が薄く写る、そこには・・・


「へっ!!私・・・じゃない・・・」


本来の黒髪で頭ボサボサの中年である自分の姿とは似ても似つかぬオレンジ色っぽい髪の歳にして12くらいの子供の姿がガラスには薄く、しかしはっきりとほまれの目に映る。

「嘘・・・だよね・・・私どうしちゃったの?」

自分の右手を頰に持っていくとガラスに映る姿も同じく頰をさする。間違いなくそれは"違う"ほまれ自身の姿であった。

「はは・・・私・・・そうか・・・夢なんだ・・・まだ夢から覚めてないんだ」

乾いた笑いが静かに回りに伝わる。

パチン!パチン! とほまれは2回自分の頰を強めに叩いた。そして

「やっぱり夢じゃなーーーーーーーい!!!」







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