『狼王ハニバル』 彼のペテン 私のペテン
中心となるトリックは、80年代90年代の香港映画にハマッていた時期に、思いついたものです。
伏線とか上手い監督がいたんです。
物語にするために、セリフや理屈が多くなってしまいました。
もう一度 読み返してもらえる作品に なっていると、うれしいのですが…………
人狼を知っているだろうか?
弾よりも速く動き、鋼さえ曲げ、岩をも貫く。
不死身と呼ばれる再生能力を持つ その存在に、“死”をもたらす術は ただ一つ。
銀の弾丸を 頭部か心臓に撃ち込むこと。
存在の“始まり”が いつなのか。
その伝承は すでに失われてしまっている。
しかし、“最後”なら この国に暮らす者で知らぬ者はない。
ハニバル・ロドリゲス。
大地の上 月光の下、人狼 最後の一人。
人狼 唯一の弱点、銀の弾丸さえ超越した彼を、人々は畏れと敬意を込めて こう呼ぶ。
狼王 ハニバル。
「だいたい、こんなイメージで記事を まとめていきたいと思ってます」
私が手渡した企画書に目を通し、若者は 面白そうに小さく笑った。
この若者、実際の齢は、百を少し越えるハズである。
しかし、見た目の印象は十代の後半。
私は、どこかの医学者が、人間の筋力のピークがその頃だと発表した記事を思い出した。
この若者こそが 狼王ハニバル。
銀の弾丸でも命を奪えぬと伝えられる人狼だ。
私の名はロバート・ホロウィッツ。
記者をしている。
一応 新聞社に勤務しているが、わりと自由にやらせてもらっていた。
この数日、彼の家を訪ね、数時間のインタビューをさせてもらっている。
私の父とは旧い知り合いらしく、彼に手紙を出した際に父のことを書き添えたところ、「会いたい」という積極的な返事を もらうことができたのだ。
そのおかげで実現した取材である。
今日は、インタビューの他に、掲載内容の確認など打ち合わせも兼ねている。
「なんか、大袈裟だなぁ」
狼王は 照れていた。
「で、今日は、核心的な部分について訊かせてほしいんですが」
私は切り出した。
「狼王、あなたが人狼として、究極とも言える 真の不死身の体を、どうやって手に入れたか、ということなんですが…………」
狼王は、とても意外そうな顔で私を見た。
「もしかして…………今回の取材は、グリファムに何も言っていないの?」
グリファムとは、私の父の名前だ。
狼王は残念そうに首を振った。
「そうなんだ?
そうだなぁ、僕のことを“狼王”と呼ぶなんて、おかしいと思ってたんだ」
私は、彼のプライドをくすぐることで、彼を饒舌にできると思っていた。
だからこそ、この数日間、あえて“狼王”と呼びかけてきていた。
「私の父とは、そんなに親しかったんですか?」
「そうだよ? グリファムは僕の親友で 命の恩人だ」
唇を尖らせる。
私は、事実が どうあれ、私より十も年下そうな見かけの若者が、父を呼び捨てにすることに 居心地の悪いものを感じていた。
狼王は、仕方がないと呆れたように、優しい顔になって
「“狼王”の呼び名は、グリファムが付けたんだ」
「ええ、存じてます」
私の父も記者だった。
狼王の不死身伝説は、三十年前の、父の記事から始まっている。
「君が調べたことを、聴かせてくれる?」
狼王はニッコリと笑った。
私は資料をめくり、確認の為に目を通す。
狼王は、音楽に酔いしれる人のように、目を閉じた。
「私の調べた限りでは、あなたが人間を食料として扱った記録は、ありませんね。
と、いうか、人狼は、身を守る為に戦ったケースを除いて、誰かに危害を加えた記録はありません」
狼王は深く、何度も頷いた。
そうなのだ。
人狼は、“狼”であると同時に“人”なのだ
「人狼を恐れていたのは、庶民よりも権力者たちです。」
狼王は、少しだけ目を開けた。
「権力を用いて領民たちから様々な搾取をすることを企んでいた彼らは、人の力を越えた者が、領民たちを率いて己の横暴を正しに来ることを恐れた。」
狼王は、その視線の先に、どんな思い出を見ているのだろう。
「彼らは、人狼に濡れ衣を着せ、“人狼狩り”を始めます。」
狼王は再び目を閉じた。
嫌悪感が少し漂っている。
「この国でも、他の国に遅れてですが、三十年ほど前、大がかりな“人狼狩り”が行われています」
静寂
「それを、あなたは生き延びた。
その日から、あなたは狼王と呼ばれるようになります」
狼王は、目を開けて僕を見た。
「グリファムの記事は読んだかい?」
「はい」
「聴かせてよ」
「はい、概要ですが…………」
私は、父の記事の部分を探し、頭の中で整理しながら読み上げた。
「代官と司祭が数十人の部下を連れて、あなたの家を取り囲みました。
父は、権力側の広報的な役割で同行しています」
狼王は、僕を見ている。
何かを読み取ろうとしているようだ。
「囲まれて出てきた あなたは、高らかに“銀の弾丸”という弱点は、すでに過去のことだと宣言します。
代官は自ら銀の弾丸を装填し、しっかりと狙いを定めて、あなたの頭部へ発砲しました」
狼王の口元が ほころんだ。
「あなたは地に倒れ、すぐに立ち上がりました」
いたずらっ子のような顔で笑い、目を閉じた。
「その場にいた者たちは、あなたの額に、確かに弾痕があったことを目撃しています」
どこか おかしい。
「あなたの傷が消え、銀の弾丸が地面に転がり落ちた…………」
記事の文章の要約と、感じている違和感の考察に、私の頭脳はフル回転する。
「どよめく人々に、あなたは言いました。
「人間には、もう策はない。
ただ、私の残りの人生を平穏に過ごさせてくれるなら、私の仲間たちに行った殺戮への報復はしない」と」
彼の視線は、私から少し違う方向へ向いたが、少し殺気を帯びているようだった。
彼にとっても、苦渋の決断だったのだろう。
「父は、この出来事を報道するとともに、あなたに“狼王”の呼び名をつけた。
そして、権力側のウソを暴いて、“人狼狩り”の終結を人々に呼びかけます」
だから“命の恩人”なのか?
いや、やはり何か おかしい。
何だろう、この違和感は。
「で、君は どう思う?」
狼王は、私を見た。
私は、ためらったが、やはりキッパリと答えた。
「そうですねえ…………
とっても胡散臭い」
狼王は弾けるように大声で笑った。
笑って 笑って 笑って 笑って、笑い続けて、おかしくて たまらないといった風に「もうダメだぁ」と細く高い小さな声で言って、また笑った。
乱れた息を整えながら訊く。
「アハっ、アハっ、はあ、はあ、え?アハハ、どこが おかしかった?はあ、はあ」
「そーですねぇ………
この資料に載っている内容に限って言うと…………」
私は資料を見下ろした。
「不死身のクセに まわりくどい」
この言葉は予想外だったようで、ポカンと口を開けて私を見た。
「だって、ホントに不死身なら、黙って出てきて、撃たせるだけ撃たせてやって、それから「ムダだ」と言ってやればいい。
でも、あなたは、まず、宣言をした。
挑発に乗った代官が銃を手にとった。
そのことで、状況に“縛り”ができた」
「縛り?」
「あの場で“一番 偉い人”が、「俺がやる」ってカッコつけて、前に出てきてるんですよ?
普通、しゃしゃり出ようなんてバカな部下はいません。」
私は深く息を吸った。
「つまり、あなたは、たった1人からの、たった1発の銃弾に集中すればよかった」
一応、訂正も入れる。
「もちろん、絶対にそうなるという流れではありません。
挑発への乗り方は、部下たち全員に「一斉に撃て!!」と命じるパターンだってありますから」
狼王は、目をキラキラとさせて続きを促す。
「それで?」
「それだけです。
そこから先は、想像もできません」
狼王は、拍子抜けも落胆もしなかった。
「あの時は、家の中から代官に語りかけた。
家が震えるほどの大声でね。
もし、部下の中に血気に逸る者がいても、一番 偉い人間に 何かしらのメッセージを発している間は、迂闊には撃てないと踏んだんだ」
「な、なるほど…………」
狼王は右手の指を1本 立てた。
「語りかけ続けながら表に出て、他には目もくれず代官の目だけを見ながら言葉を続け、言ってやった」
自分の額を指差した。
「ここだ。
試しに撃ってみろ」
狼王はウインクした。
「これで、“流れ”は支配できる。
いや、少なくとも、支配できる確率は上がる」
代官たちは急襲したんじゃない、入念に策を練っていた狼王に、待ち構えられていたのか。
「いや、それでも最大の謎が解けていません。
あなたが、どうやって銀の弾丸を克服したのか」
「それは…………
そもそも、『なぜ、銀の弾丸が人狼の弱点なのか?』という話だよ」
「なぜ…………?」
「『銀で できた凶器による傷だけには、人狼の再生能力は発揮できない』からだ。
普通の人間と変わらなくなる。
逆に言えば、【それ以外は普通の弾丸と変わらない】。
速度とかはね」
私には、狼王の言葉の意味がわからない。
狼王は、「さっきの企画書…………ああ、これだ」と、数秒 目を通した。
「例えば!」
狼王は、役者のように大きな声を出した。
「【弾よりも速く】、今、まさに額に着弾しようとする弾丸を捕まえて、【鋼さえ曲げる】怪力で握って止めたとしたら」
額の前に、右手で握り拳を作った。
「え…………?」
拳を見せつけるように前に突き出し、親指だけを、ヒョコっと伸ばした。
「【岩をも貫く】頑強な五指の1本で、自らの肉体を傷つけたとしたら」
親指の先でトンと額を突いた。
「そして…………それらの動作のすべてが、やはり【弾よりも速く】為されていたとしたら」
狼王は、歯を剥き出すように笑った。
「あ…………」
「それは、どんな風に見えるのかな?
幸いなことに、右手は額の すぐ近くにあった」
そう言って、もう一度、額を指差すポーズをとった。
そ、そんなトリック、考えたこともなかった。
言葉も出ない私に、狼王は続ける。
「【人狼の再生能力が発揮できないのは、銀で できた凶器による傷だけ】だから、額の傷は、たちまち塞がっていく。
さすがに痛みは感じているように、弾丸を隠し持っている方の手で傷口を押さえ、もうすぐ塞がるというタイミングで、指の間から弾丸を落とす。
そして…………」
額を突き出すようなポーズをとった。
「手を除けて、傷口が完全に治るところを見せてやる」
ふぅ、と狼王は息を吐いた。
「これで、【銀の弾丸の効かない人狼】の出来上がりだ」
狼王は「見てよ」と右手を開いて掌を見せる。
真ん中に火傷なのか 擦り傷なのか 古い傷痕があった。
驚異的な再生能力を誇る人狼に、傷痕は珍しい。
「握りしめた時に【銀の弾丸でできた】火傷だ。
治るまでに数週間 かかった。
たぶん、人間が火傷した時も、同じぐらい かかるんじゃないかな」
狼王は楽しそうだった。
「でもね、このペテンには、もう一押しの仕掛けが必要だった」
「仕掛け?」
「ヤツらは、予想外の展開に固まってしまっていた。
膠着状態が長引けば、部下の中に一人ぐらいは、「それでも!」ってヤケを起こして撃ってくるヤツがいるかも知れない」
「は、はい」
「でも、みんなが固まってしまってから、すぐに、叫び声を挙げて走り出した人間が一人いたんだ」
狼王は“お手上げ”といった感じで両手を挙げ叫んだ。
「うわあぁぁぁーッ! もうダメだーッ!!!!」
ちょっと甲高いハスキーな声で。
モノマネ?
「もしかして…………父ですか?」
狼王は頷いた。
グルだったのか…………。
この時、父は、すでに狼王と知り合っていたのだ。
確かに、この出来事からの、父が世論に訴えるまでの行動は早い。
早すぎる。
すでに、権力者たちのウソについては、調べあげていたのだ
「部下たちは、優位に戦えるつもりで来ていた。
それなのに、「自分が持っている武器は無力なのではないか?」という気分になっていたんだ。
そりゃあ、もう、総崩れだよ。
グリファムが逃げ出すフリをしたのを きっかけに、みんな、我先にと逃げ出したんだ」
狼王は笑った。
顔の筋肉だけで作る笑顔。
目は、さびしそうに私を見ていた。
「こんな大事なこと、話して よかったんですか?」
「君が訊いたんじゃないか」
狼王は、あたりまえ過ぎる答えを打ち返してきた。
「人狼には、厄介な特性があってね」
狼王は天井を見上げた。
「一度 “友”と認めた人間には、最大限の忠誠を誓う。
そのルールに背くことで生じるストレスには耐えられないんだ。
“友”の息子の問いかけに、僕は隠すことも偽ることもできない。
たとえ、君に対して 僕が どういう評価をしていたとしても」
そうだ。
だからこそ、私は この仕事に選ばれた。
だが、狼王は、私に どのような評価をしたというのだろう?
空気を変えたいのか、狼王は、私に夕食を食べていくように と誘った。
私は、今日ぐらいは ここに残るべきという考えも頭をよぎったが、「今日 聞いた話を頭の中で整理したいから」と、早々と立ち去ることにした。
狼王の家を出た後、私は駅へと向かう。
汽車の座席に腰掛け、私は今 見聞きしたことを、丁寧になぞって整理する。
すべてを うまく収めるような考え方はないか。
そのために使えそうな材料はないか。
バカバカしくてもいい。
記憶の箱をひっくり返して、幼い頃から今日までの思い出のすべてを辿る。
何かないか。
何かないか。
何かないか。
少し考えが まとまりだした時、目的の駅に着いた。
出たとこ勝負で いくしかないか。
私が汽車を降りたのは、この国で いちばん大きな街。
この街には、この国で最大の教会がある。
司祭は、ここの二階に寝泊まりをしていて、少し遅い時刻だったが、いつも通り部屋へ通された。
「ありがとう、どうだったかね? 今日は」
どデカイ赤ん坊が前掛けしたみたいな、とても豊かな白いアゴ髭を貯えた 小太りのジジイが、いつものように テーブル越しに私を労った。
司祭だ。
わりと自由にやらせてもらっている私の、ちょっとした小遣い稼ぎ。
もちろん、動機は それだけでなく、記者としての純粋な好奇心もあったが。
今回のインタビューは、会社に言われた取材ではない。
彼らに依頼された調査だ。
ハニバルが狼王と呼ばれてから三十年。
人間が代替わりしても、いや、代替わりしたからこそか、欲の炎が燃え出したらしい。
「今日は、大きな収穫がありました」
私は深呼吸した。
「結論から言えば、彼は不死身ではありません」
「おおおお…………」
司祭は感極まったように、祈りのポーズをとった。
うっとうしい。
「彼は、撃ち殺すことができます」
司祭は、「ありがとう、ありがとう、これで、闇の恐怖から人々が救われる」と呟き、「神よ」と白々しく涙まで流しだした。
ウソだ。
ハニバルは、この三十年間も その前も、一度だって問題を起こしたことはない。
むしろ、この国は、今、隣国に比べても、明らかに健全に政治が行われている。
他の国々の、まるで ごろつきが言いがかりをつけたみたいなバカげた税金も、この国にはない。
私は覚悟を決める。
出たとこ勝負だ。
「ただし、銀の弾丸じゃありません。
金です」
「あ?」
「海の向こうに、我々の信仰とは違う、ブードゥーという信仰があります。
司祭は、死者を奴隷として使役することもできるそうです」
あれは少年時代に読んだ本だったか。
『世界の謎』とか何とかいうタイトルの、子供向けの本。
記憶の箱から掘り出したもの。
「あ? ああ…………だから…………それで?」
「その司祭に、十日ほど金の弾丸に祈りを捧げてもらい、彼らの信仰によって聖別してもらう必要があります」
「ああ……そう……なの……」
司祭は力なく、マヌケな返事をした。
混乱したのだろう。
司祭が他の信仰の司祭の力を借りるなんて、自らの存在を否定するようなものだ。
「死者を使役するということは、不死を与えることと同じです。
私たちの世界の中で生き続けてきた不死の力は、私たちの世界の外の信仰による 不死の力で打ち消されるそうです」
我ながら、ずいぶんなハッタリだと思ったが、司祭は打ちのめされていた。
「そんな…」「待ってくれ…」と うわ言のように繰り返す司祭に、いい加減に飽きたので「司祭……」と距離を詰めると、「あ、ああ……すまない。ご苦労だった」と封筒に入れた札束を出した。
「もっと良い報せなら、礼を弾んだんだが……」と、力なく恨み言を言う司祭にイライラして、私は部屋を出た。
街の人混みへ向かう。
賑やかな人混みを抜け、今度は人気の無い路地に入る。
「ちょっと大きなお金が入りました。
一緒に夕食でも食べませんか?」
試しに言ってみただけだったが、後ろから「気づいてたの?」と狼王の声がした。
振り向くと黒縁のメガネを掛けて、シャレた帽子をかぶった狼王が立っていた。
【人狼】という言葉に野性的なイメージを持ってたせいか、こういう変装は予想していなかったし、まるで別人のようだ。
「いえ、もしかしたらって思った程度ですよ」
「へえ~」
狼王は楽しそうだった。
「始めから、私を疑ってたんですか?」
「ううん。今日の会話かな」
狼王は あたりまえのように言った。
「グリファムに何も言ってないって 言ったから」
僕の周りを廻りながら答えた。
まるで、散歩が嬉しくて たまらない仔犬みたいだ。
「プロのインタビュアーならさ、相手の過去を知るらしい人間が身近にいたら、エピソードとか聞き出そうとするもんだろ?」
狼王は、人々に事件の真相を語る名探偵のように、指を1本 立てた。
「つまり、対象の知り合いらしい父親には、知られたくないインタビューって ことです」
「ほう…………」という声が無意識に出た。
「でもさ……」
狼王は笑いだした。
「あのブードゥーとかって、何?」
私も苦笑する。
「聞いてたんですか?」
「うん、窓の外に貼りついてた」
私たちは声を出して笑った。
「もし真実を話してたら、私たちは どうなってたんですか?」
「別に、どうとも。
少なくとも、ロバートはね」
初めて名前を呼ばれた。
「僕に 友だちの息子は傷つけられない。
そのまま、どこかの山奥に逃げて、静かに暮らしたよ」
気になっていたことを確認するために、汽車の中で考えたことを明かすことにした。
「弾丸を捕まえられるほどの あなたなら、三十年前、反撃することも 逃げることもできたんじゃないですか?」
狼王は「ん?」という顔で私を見てから、考えるような素振りを見せた。
成功率は、五分五分というところだったのかも知れない。
「あなたが、あんなペテンを仕掛けたのは、あの場は切り抜けられたとしても、いつかは、何らかの方法で撃たれると考えたからだ」
狼王はニヤついた。
「人間は【たとえ困難でも、それが唯一の手段なら、必ず実現させようとする】からです」
狼王は頷いた。
「だから、あんな話を作りました。
ヤツらは、しばらくは【どうやったらブードゥーに聖別された金の弾丸を用意できるか】しか考えられない」
狼王は笑う。
「万が一、ヤツらが弾丸を用意できてあなたを撃ったとしても、『ブードゥーの聖別を受けた金の弾丸』なんかじゃ、あなたには何の効果も与えない。
あなたは、生命の危険もなく、ヤツらの【本気】を察知することができます。
それから逃げるなり、反撃するなりしても、遅くはない」
狼王は、目を丸くした。
「スゲーな、グリファムみたいだ…………」
そして ニヤつきながら言った。
「あのペテンはね、グリファムが全部 考えたんだ。
その時に彼もね、「人間は たとえ困難でも……」って ロバートが言ったのと同じことを言ったよ」
なるほど……だから、“命の……。
狼王の笑いは少し大きくなる。
「グリファムは言ったんだ。
「完璧な計画だ!誰も疑いさえ持たない!」って。
もう、自信満々!!!!」
それから、声を出して笑い出した。
「それなのに、それなのにッ、ロバートは いきなり「胡散臭い」って!!」
アハハハハハハハと体を折り曲げて笑う。
そうか、だから、私の言葉にあんなに…………。
「それよりさ、ロバート。
まだ汽車は動いてる時間だ。
僕の家で食べないかい?」
せっかくだから従うことにしよう。
この夜から、私はハニバルの“友だち”の一人に加えてもらえたのか、友だちの息子として大切に付き合ってもらえたのか。
正直に言うと、判断は難しい。
ただ、いろいろな冒険を二人で乗り越えることになるのだけど、それはまた、別のお話。
いつか、語れる機会があれば………