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第4話 ハネス少佐

 商談がまとまり、兵士の死体と村人たちがいた食堂を出た一同はカイトたちが所有していた荷馬車へと移動した。その際、風銃で武装した敵の残存兵力が七名ほどいたが、先ほどと同様にカイトたちが一瞬で殲滅したために村の被害は結局ゼロだった。


 村人は敵兵力をせん滅したカイトたちではなく、王女であるサルラに感謝の意を伝えていたが、それも契約の範疇なので特に文句を言ったりはしない。


 プラーミアが馬の手綱を握るとカイトと騎士団所属のレンリ、そして王女サルラは荷台に乗り込んで出発だ。


 「姫様、まずはこんな馬車で済まない」

 「いえ、無理を言ったのはこっちですから多少のことは我慢します」

 「そういってもらえるとありがたい」


 カイトたちの荷台には様々な物資が積まれているために人が居座るスペースがほとんどない。そのため王女サルラたちには窮屈な思いをさせてしまっていることにカイトは少なからず罪悪感を覚える。


 本来は人の輸送まで対応していない行商人なので快適ではないのは仕方ないのだが、それにしても限度というものがある。だが王女サルラは気にした様子を見せていないのでカイトは早速本題へと入った。


 「さて、今後の方針だが」

 「まずはニカルディア王国軍の拠点に向かいます」

 「それが妥当だろうな」


 いくら雇われの傭兵だからといっていきなり戦場に突っ込んだりはしない。そんなことをすれば戦場を混乱の渦に巻き込んでしまい敵国の兵どころか味方の兵までにも被害が出かねない。


 そういう事態を避けるためには拠点に向かうことの方が先決だ。


 「それでだ、姫様。一つ聞きたいことがある」

 「なんでしょうか?」

 「拠点についた場合、姫様はニカルディア軍に受け入れてもらえるのか?」

 「それは……」


 今回の作戦で王女サルラは王族から見捨てられたことになる。その作戦には当然のことながら軍も関わっており、現在戦っているニカルディア軍の指揮官が作戦について知らないはずがない。


 そんな指揮官が生き残った王女サルラを受け入れるかどうか、カイトには判断がつかなかった。


 「それなら大丈夫だと思います」

 「なぜだ?」

 「現在ニカルディア軍の指揮を執っているのはおそらくハネス少佐です。彼はひねくれ者で有名ですので、サルラ様を無下に扱うことはないでしょう。むしろ言い方は悪いですが新たな駒が手に入ったと大喜びするはずです」


 レンリの説明に王女サルラがうつむく。わかっていても駒扱いされるのは気持ちいものではない。しかしそれが現実であり、今は大切なことだった。


 「なるほどな。ところで本陣はどこに?」

 「おそらくあのキレル山脈のふもとかと」


 眼前にそびえ立つ大きな山脈。頂上付近は雪で覆われており、もうすぐ訪れるであろう冬の到来を告げているようだ。


 「ここからだと一日かかるな」

 「ええ。戦場こそバレル高原ですが、指揮官のハネス少佐はすでにキレル山脈のふもとにまで退避していると思われます」

 「相手があの十二神将なら仕方がないといえば仕方がないか」

 「そうですね。それにわが軍は本気で戦うつもりはなかったでしょうから」

 「ダレス将軍の暗殺で怯んだ敵を討つつもりだったのが、失敗して攻められたんだから仕方ないな」

 「それにしても逃げ腰すぎない?」


 荷台の外から聞こえてくるプラーミアの声。彼女はカイトたちの話を聞いて素直な感想を述べた。


 「おそらく作戦が失敗すると思っていなかったんだろう。兵士として不測の事態に備える力は必要だが、いくらなんでも脆すぎる」

 「それはおそらく……」

 「どうしたんだ?」

 「サルラ様が捕虜となって交渉する気だったからかと……」

 「そういうことか。つくづくあきれるな」


 ハネス少佐とやらは暗殺が失敗しても王女サルラが相手に捕まることで交渉に移ろうとしたのだろう。しかし王女サルラが逃げ出したことで状況が変わり、戦闘状態に入った。


 最初から戦う気のなかったニカルディア軍は苦戦を強いられ、本陣をキレル山脈まで引き下げた。そう考えるとこの状況も理解はできる。


 「政治家としては妥当かもしれないが、軍人としては失格だな」

 「ハネス少佐は元々前線で指揮するような人物ではないですから」

 「なるほど。道理でニカルディア軍が押されているわけだ」

 「戦況がわかるのですか?」


 カイトの言葉に驚いた表情を浮かべるレンリ。まだ戦場に到達していないにもかかわらず、まるで戦況を理解しているかのように答えるカイトはレンリを驚かすには十分だ。


 「見てなくてもなんとなくわかる。できる軍人ならあの村に兵士を派遣しないわけがない。戦場において一番の懸念事項である物資の不足を補うのにあの村は最善の場所だ。そんな村に兵士を派遣しないなど前線を知らない無能指揮官が率いる軍とあの名高い十二神将の一人が率いる軍がぶつかれば押されるのは考えるまでもない」


 まさにその通り、戦況はニカルディア王国の不利的状況に陥っていた。十二神将ダレス率いる神聖アルテザウス王国軍は風銃を装備した歩兵と重厚な盾を装備した歩兵を二人一組で連帯を組ませながら進行していた。


 ダレス将軍の策に対してニカルディア軍は大砲を用いて上空からの攻撃を試みたものの、歩兵部隊の後方に控えていた弓兵部隊によって大砲はうまく機能せず。慌てたハネス少佐は剣で武装した騎兵隊を派遣して風銃部隊のせん滅に努めたが二人一組を組む盾が邪魔で決定打を与える前に騎兵隊は甚大な被害を被る。


 部下は騎兵隊を下げて弓兵隊で応戦しつつ大砲を使うようにと進言するも、ハネス少佐は部下の進言を聞かずに騎兵隊を突撃させながら本営をキレル山脈のふもとまで下げていた。


 風銃と盾というそれまでにない新たな作戦に面食らったハネス少佐は柔軟な対応を取ることができずに撤退しかできなかったのだ。現場の兵士たちは撤退に不満を覚えながらも上司の指示は絶対のため少しずつ交代を始めていた。


 それに対して神聖アルテザウス王国軍は追い打ちをかけず、バレル高原を死守するニカルディア軍を弄ぶかのように進軍しては後退し、進軍しては後退をしている。その情報を得たハネス少佐は敵の意図がわからないままただ本営で頭を悩ませていた。


 「敵はいったいどういうつもりなんだ」

 「わかりません。ただ、バレル高原を越えて進軍してくる兆しが見えないのは事実です」

 「ダレス将軍はいったい何を考えているんだ」

 「わかりません。ですがここは兵を引かせて再建を図るべきかと」

 「いや、敵が何かをしようとしているのは明白だ。ここで兵を引かせるわけにはいかない」

 「ですがそれだと敵の新たな作戦に対応できていないわが軍に甚大な被害が……」

 「構わない。この本営に攻められるよりはましだ」


 自らの安全を最優先にするハネス少佐は部下たちから不信感が募っていることに気づいていない。ここにいるのは前線の軍人たちであり、前線の経験がほとんどないハネス少佐とは価値観が違っている。


 しかしハネス少佐にその価値観の違いを考えるほどの余裕はない。彼は今、自分の身の安全のことで頭がいっぱいだったから。


 そんな時だった。彼の前に一人の部下が急いでやってくる。


 「なんだ?」

 「報告します。サルラ第六王女が帰還なさいました」

 「なにぃ!?」


 その知らせにハネス少佐はただただ驚いた。

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