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第3話 交渉

 双星の鬼人。それは戦場に現れる傭兵であり、どんな窮地にも関わらず相手を葬り去る最強の傭兵たち。彼らは金で動き、どの国にも忠誠を誓わない。それがたとえ雇い主であろうとも新たな依頼を貰えば、その瞬間葬り去る。それゆえに各国では戦争において双星の鬼人は利用しないという暗黙の了解があった。


 下手に利用して寝首を搔かれるよりは使わない方がいい。


 「お二人はあの双星の鬼人ではないのでしょうか?」

 「それは誤解だ。俺らはただの行商人でいろいろな国を回っている」

 「ですが行商人にしては高度な戦闘技術をお持ちのようですが? ねぇ、レンリ」

 「はい。先ほどの戦闘を見てもお二人の技術は中々のものでした」


 カイトたちを双星の鬼人と決めつける王女サルラの目に疑いの余地はない。おそらく何かしらの確信を得ているのだろう。だがカイトは否定する。


 「行商人は山賊なり盗賊なりと襲われるからな。護衛術だ」

 「護衛術ですか。その割には騎士の目から見ても的確に命を奪っていたようですが?」

 「下手に生け捕りにして返り討ちは御免だからな」

 「ではそういうことにしておきましょうか」


 今大事なことはカイトたちが双星の鬼人か否かということではないのでレンリは話を進めることにした。


 「ところでサルラ様の依頼は受けていただけるのでしょうか?」

 「それは交渉次第だな。俺たちは行商人であり、中立を保つ限り今回の戦争とは無関係だ」

 「それはどうでしょう。現在ここから北に二十キロほど行った平地で戦闘が繰り広げられています。そんな彼らが行商人の一団を見つけても律儀にマドラ協定を守るでしょうか? ましてやここでの物資補給に失敗した彼らが。それに見たところプラーミアさんは可憐な少女だ。興奮状態の兵士たちがみすみす見逃してくれるとも思えないのですが?」


 騎士団所属のレンリが纏う空気が一変する。おそらくこちらが彼女の本性であり、先ほどまでの一歩引いた態度は猫をかぶっていたのだろう。


 「この主にしてこの部下ありか」

 「中立にこだわるよりはどちらかの陣営についた方が得策かと思いますが?」

 「確かにな。だが、いつ誰が北に向かうといった? 方角はまだ三つもあるぜ」

 「では南に広がる大森林地帯に行くのですか? そっちこそ戦場より危険だと思いますけど。それに西に進もうが東に進もうが増援の兵士たちと遭遇するのは必至。つまりどこに逃げようとも危険が伴うのです」


 レンリの言うことはもっともだった。しかし彼女たちは一つだけ見落としていることがあった。


 「あんたたちは私たちが無力な行商人だと思っているわけ? そのくらい自力でなんとかできるわ」

 「プラーミアの言うとおりだ。俺たちはそれくらいの危険を危険だとは思わない」


 二人の言い分は最もだ。だが王女サルラとしてはどうしても彼らを味方に引き入れたいと思っているのも事実。そこで王女サルラは一つの賭けに出た。


 「もし今回私たちに協力し、見事に敵軍を退けられたならばあなた方が要求するだけの報酬をお支払いしましょう。それだけではありません。国内の関所で払う料金を私が王族である限りは無料に、また関税等もあなた方から頂かない上に王都近辺の宿泊費は王室が持ちます。これでいかがでしょうか?」


 その申し出はまさに破格のものだ。だが同時にカイトに一つの疑問が生じる。


 「一王女であるあんたにそんな権限があるのか? ましてや見捨てられた」

 「今はありません。ですがこの侵攻を防いだ暁にはそれなりの力を手に入れられるかと」

 「王女様の将来に投資しろというのか」

 「ええ、悪い話ではないでしょう? それに失敗しても失うのは私だけです」


 王女サルラの強気な態度にカイトは悩まされる。並の王女ならここまで強気に出てくることができるだろうか。ましてや相手にはあの十二神将の一人であるダレス将軍が控えている。


 普通に考えるなら今回の戦闘においてニカルディア王国が勝利を収める確率は低い。無難なところで西域の一部を放棄して新たな防衛線を立てることで落としどころを見つける方が妥当だ。


 それを王女サルラは西域を放棄せずに守り切ろうというのだ。そのためには相手を納得させるための戦果が必要になる。こちらから攻めた今回の戦闘において相手に休戦を納得させるには大将を討って戦意喪失を狙うか、もしくはこちらにもダレス将軍と同格の人物を立てるしかない。


 しかしニカルディア王国の最西端にそんな人物が派遣されるわけもないので後者はほぼ実現が不可能。つまり落としどころをつけるには敵国の大将であるダレス将軍を討つしかない。


 厳しい戦いになるのは目に見えている。だが王女サルラの提示した条件はそのリスクを一考するほどの価値はある。だがもう一押しが足りなかった。


 「条件を追加してもいいか?」

 「何でしょうか? まだ何かを欲するのですか?」

 「そうだ。今の条件だとメリットとデメリットが釣り合っている状態だ」

 「なら!」

 「言い換えればどっちでもいいってことよ」

 「そういうことだ」


 王女サルラの失敗は商人であるカイトに対して自分が出せる最大級の条件を最初に提示してしまったということだ。同じ条件を提示するにしても一つずつ後付けで提示をしていけば、もしかすればカイトは乗ったかもしれない。


 だが最初に全てを出したためにカイトに更なる条件を求める余裕を与えてしまった。それこそが王女サルラの失態であり、両者の立場を明確にしてしまったのだ。選択権のあるカイトたちが現状は有利だ。


 王女サルラは渋々ながら問う。


 「なら、一体何をご所望で? もうこちらから出せるものなんて……」

 「情報だ」

 「情報……ですか……?」

 「そうだ」

 「一体何の情報を」

 「《神災》についてだ。王室が確認している《神災》についてのすべての情報の開示を求める」

 「それは無理です! 《神災》は神々の託宣でもあり、いくら王族といえど簡単には……」

 「そんなことは知っている。だからこそ開示を求めているんだ。この要求を飲めないなら破談とさせてもらう」


 優位に立つカイトだからこそ取れる態度。そしてカイトたちをどうしても頼りたい王女サルラにとってはこの要求は飲まざるを得ないものだった。


 「わかりました……。ただし、確実に保証することはできません」

 「いいだろう。交渉成立だ」


 こうしてカイトとプラーミアは王女サルラの要求によってニカルディア王国と神聖アルテザウス王国の戦争に参戦することになるのであった。

戦争しようぜ!

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