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春恋物語

作者: ☆いちごミルク☆

その人に初めて会ったのは保健室だった。

不登校だった僕がたまたま学校に行った日に律儀に挨拶に来てくれたのを僕はまだ覚えている。


その時も今と同じ桜の散る季節だった。


【春恋物語】


あと1週間で卒業式という日に教育相談はあった。


「君も成長したね〜。」

「そうですね、あの頃が懐かしい。」

「あの頃は大変だったな〜。教室行って職員室行って保健室行って、行ったり来たでさ〜。それも今ではいい思い出だよ〜。」

「あの頃の自分に大学受かったなんて言ったらビックリするだろうなー。」

「もうビックリしすぎて目玉飛び出ちゃうよ!!」

「ちょっ、それは言いすぎでしょ!?」


顔を見合わせ笑う。



咲良先生は3年連続担任で、僕が学校に、クラスに通うきっかけも咲良先生だった。不登校だった僕を保健室登校にさせ、翌年にはクラスにまで通わせた人だ。そして咲良先生は僕の「好きな人」でもある。自分でもわからない。でもいつの間にか好きになっていた。いつの間にか僕の「初恋」になっていた。


「よく頑張りました。」

「とても頑張りました。」

「なんじゃそりゃ!でも本当によく頑張ったよ。」

「うん。」

「どう?あと1週間で卒業だけど。」

「すげー楽しみ、やっと卒業できんのかって。」

「えーそうなの!?そっか、先生は少し寂しいな〜。」

「練習で泣いてたもんな。」

「歳をとるにつれて涙脆くなるもんだぞ?少年よ!」

「はいはい。」


もちろん寂しさはある。でもその寂しさよりも何よりも「嬉しさ」があった。やっと伝えられる。生徒と教師じゃなくなる。




それから1週間はあっという間で遂に卒業式の日になった。



卒業式5分前になっても先生が来ない。

「先生来ねぇんだけど!!」と誰かが言った。勿論みんな分かっている。「またどうせ寝坊だろ?」と言う声にみんなが笑った。

可愛い。そういう大事な日に寝坊してしまう事すらも可愛いと思えた。


もうすぐ始まる。でもまだ先生は来ない。


クラス全体がざわつき始める。

「まだかな?」「さすがに遅くない?」「もう始まるぞ?」

そんな時、また誰かが言った。

「まさか事故とかにあってないよね?」

急に静かになった。

「そんなわけねぇーだろ!」「先生が事故なんてありえね〜」

そしてまたざわつき始める。


今度は先生達がざわつき始めた。


そして先生は来ないまま卒業式は始まった。

卒業式が終わっても先生は来なかった。


クラスに戻ると先生達が集まっていた。

「咲良先生どうしたんですか!?何かあったんですか!?」

さすがに耐えきれなくなった僕はとっさに聞く。

「落ち着いて、席に着きなさい。」


校長が真剣な眼差しで口を開く。

「…咲良先生は学校に向かう途中で事故にあい、その後病院で亡くなりました。」


クラスが騒がしくなる。

「え?」「どういうこと?」「は?意味わかんねぇーよ!」


僕の頭は真っ白になる。

事故?咲良先生が?昨日まであんなに笑ってた先生が?


「落ち着いて下さい!先生達も先程それを聞いて戸惑っている所です!ですが…事実です。先程、咲良先生の鞄に入ってた手紙を預かったので番号順に取りに来てください。」


番号順に手紙を取りに行く。誰かが泣き出したのと同時に次から次に泣き出していく。

まだ僕の頭は真っ白だった。真っ白なまま僕は手紙を受け取った。


『上村君へ

卒業おめでとうございます!覚えてる?初めて会った日のこと、上村君ったら私の事おばさん呼ばわりしたでしょ!その通りだけれども!!許さん…(笑)

それからあれこれ説得して上村君が教室に来た時、先生は感動して泣いてしまったよ。気づいてた?

そこから必死に勉強して追いつこうとする上村君はとても立派だったよ。それで大学に受かった時は先生は本当にあなたの担任でよかったって心の底から思いました。これから大学だけど先生がいなくてもちゃんと毎日通うんだぞ!辛くなったらいつでも帰っておいで、待ってるからね! 咲良より』


手紙を読み終わった頃には涙が頬を伝っていた。

「ふざけんじゃねーよ!!」

みんなの視線が一気に集まる。でもそんなことはどうでもよかった。


「勝手に現れたと思ったら勝手に消えやがって!!なんの為にここまで頑張ったと思ってんだよ!!!誰の為にここまで頑張ったと思ってんだよ!!!!!なんでだよ!!やっと卒業できるのに!!!やっと想いを伝えられるのに!!!!ふざけんな!!!!!」


クラスメイトの泣き声が聞こえる。

「そうだよ!」「なんでよ!?」「事故なんてそんなことあるかよ!?」



窓からは桜が散っていくのが見える。



それを見て僕は思わず呟く。

「咲良先生、大好きです。先生は僕の初恋です。」







窓は閉じているはずなのに彼の手紙の中には桜の花びらが入り込んでいた。






【終】

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