Flash:0 「イントロ」(42.5)
本編には暴力などの描写、多少含まれております。
春先の高校の校舎裏。
そこで、一人の少年が複数の少年達に殴られていた。顔ではなく、腹を何度も何度も蹴られ、殴られていた。胃液ではなく、血反吐が口から出た。
少年は頭や腹部を抑え、唇を強く噛み締め耐える。
「金、持って来いって、昨日、言ったじゃねぇかよ!」
「また、中学んときみたいにされてぇのか!?眼鏡叩き割るぞ!」
少年が落とした眼鏡を、誰か一人が踏み付けて壊した。
「持って来れねぇなら、死ね!」
その言葉を最後にして、気を済ませた彼らは、最後に少年に唾を吐きかけて去った。
殴られ朽ち果てた少年は、腹部を抑えて苦しんだ。
自分の惨めさ、出口の苦しさ、なにも出来ない恐怖。それらすべてが、涙になって目から溢れ出す。
傷が刻まれた左手で、粉々に砕け散った眼鏡を探す。その破片が、指に突き刺さる。
血が溢れた。
ついさっき、彼らに否定された自分から血が流れた。
春先の冷たい小川に、少年は身を捨てた。
とても深く薄暗い。空気がなく、体温が奪われる。体中が水に支配された。
生まれたときから、両親に捨てられた。
施設に預けられた。
小学生の時に、誰も自分と手を繋いでくれなかった。
中学の修学旅行は行かなかった。自分をねじ込まされたグループから、邪魔だという視線を受けたから。
初めて、手首を切った。自分の血が多く流れて怖くなって止血した。
だから、死ぬのは怖くなかった。
悔しかったが…。
目を閉じると、更に暗闇が広がる。
少年は最期に思う。
(俺…、生まれて来なかった方が良かったんだ…)
そんな時、左手に温もりを感じた。体温どころか、命を奪う冷たい水の世界で。
思わず、少年は目を開く。誰かが、自分の左手を握っている。
この冷たい世界で。
…………………
それから、数年後…。
夜になっても輝く高層ビルの屋上に、少年の姿はあった。
月に背を向け、少年は黒いボディスーツを着て、手足には黒い手袋に、ブーツ。そして、鮮血のように赤いマフラーを首に巻く。
手に握られた複雑な曲線の黒く硬質な仮面が月の灯りで鈍く光り、17歳の素顔に重なった瞬間…、カッ!と、マスクの眼部が白く光った。
「ゼファーナ春日、シュガーレスのシステム…、起動…」
少年はマスクの奥の眼光を光らせ、ビルの屋上から翔んだ。
漆黒になった姿は、赤いマフラーをなびかせ、光輝く街の中に溶け込んで行った…。
:本作品は、同作者の『漆黒のシュガーレス』からの連続した物語であり、続きのであります。本作品と『漆黒のシュガーレス』も読まれれば幸いであります。