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短編集

転生はサイコロで決まる 〜何に生まれ変わるかは運任せ〜


 気が付けばそこにいて、何かの行列に並んでいた。前に並んでいる人も後ろに並んでいる人もなんだかざわついていて落ち着きがない。

 雲海の上に石造りの通路が伸び、これまた石造りの建物へと繋がっている。行列はその通路の上に出来ている。


 なんだこれ? ついさっき残業を終えて半分ぶっ倒れる様にベッドに潜り込んで寝た筈なのに、なんでこんなところにいる?


『はい、皆様混乱していると思いますが、説明しますのでご静聴下さいね!』


 拡声器によって増幅された音声が耳に届く。その声も主は金髪の女の人だ。ただ、おかしいのはその背に翼があることだろうか。いかんな、疲れすぎて変な夢を見ているのか……。


『こちらにいらっしゃる皆様は、本日亡くなった方たちということになります。死後の処理がありますので死亡順にお並び頂いております。今から整理券をお配りしますので、一人一枚ずつお取りください』


 淡々とそのように告げていた。そうか、俺は死んだのか……。あー仕事と家の往復しかしてないし、両親ももう亡くなってるし、友達も恋人も居ないからなんとも思わないな。むしろようやく仕事から開放されてホッとしたくらいだな。


 俺はそう思っていたが、他の人達はそうでもないらしい。家族の心配をするサラリーマンや親の名を呼ぶ学生、なんかキレてるチンピラっぽいやつもいる。まぁいいや、所詮他人事だ。むしろ死んだということはここが死後の世界だということになる。そちらの方が気になってきた。



 ◇ ◇ ◇



 行列を待つこと、結構な時間。時計がないから正確な時間が分からないが、結構な時間が経った気がする。泣き喚く人やキレる人もいて、中々スムーズに行列が進まずに少し苛立ってしまったがようやくゴールが見えてきた。


「次の方、お入りください」

「はい」


 ようやく俺の番が来た。先程拡声器で呼びかけていた人とはまた別の女の人の先導で石造りの建物の中へと入っていく。

 果たして何をするのだろうか? 死亡手続きの事務処理だけとかだったら嫌なもんだけど、その可能性も高そうなんだよな。

 

 そしてある一室へと案内された。その部屋の中には椅子に座り待っている人が一人。なんだか面接でも受ける気分だ。


「はい、どうも、神様です」

「あ、どうも。って神様!?」

「うん、良い反応だね。えーと、杉山浩介さんだね。死因は過労死と……」


 なんだか書類を手にして読み始めていた。


「過労死とはまだ若いのに辛いねぇ。えーと、善行値が+10で悪行値は0か。前世からの引き継ぎはなしと。うん、普通だね」

「えと、普通とか言われても……」

「あぁ、説明は必要だよね。……だから事前に案内用のパンフレット作ろうって言ってるのになんで却下されるかなぁ」

「……パンフレット?」

「ごめんごめん、こっちの身内の話。えっとね、前は死んだ人は生きてきた中でどれだけ善行を行ったか、もしくは悪行を行ったかを数値化してて、その数値で死後をどうするかを決めてたんだけどね?」

「はぁ」


 善行が多ければ天国行きとか、悪行が多ければ地獄行きとかそういう話なのだろうか? 死後の話なんて知りようがないからわかんねぇな……。


「まぁ、時代によって偏り過ぎるわ、定員オーバーになるわ、人口流出の止まらない世界が出てくるわ、逆に増えすぎて困る世界は出てくるわで問題だらけだったんだよね」

「……そうなんですか?」


 おい、良いのかそれで!? てか、しれっと他の世界があるみたいな事も言ってるけど、異世界とかってほんとにあるの!? ……死後の世界っぽいところで神様を目の前にしてそれを言うのもあれだな、無意味だな。


「そうなんだよ。それで地獄行き以外あり得ないってくらいの悪行値の者以外はもう全部ランダムで決めようって事になった訳なのさ」

「へぇ、そうなんですか」


 つまりは悪い事ばっかりしてない限りは、前世の行動は関係ないってことか。もうちょいやりたい放題しときゃ良かったかな……。てか、ランダムってまた極端な方針転換だな。この神様というか死後の世界、ほんとに大丈夫か?


「あー杉山さん、私も仮にも神様だから、心の声も聞こえるからね? ほどほどにしないと悪行値に加算するよ?」

「っ!? す、すみません!」


 まさか心の声が聞こえているなんて!? ってこれも聞こえてるのか……?


「はい、聞こえてますよ。まぁよくある事ですし大目に見ますよ。それじゃ早速始めましょうか」

「え? 何を?」

「転生先を決めるんですよ。一応天国って選択肢もあるんですけど、今は定員ほぼぎりぎりなんで確率は低いですけどね。はい、これ」


 そう言って神様が何かを手渡してきた。これ、サイコロか? 後は何かを書いている紙か……? どれどれ、内容はっと。


『転生する生物の決定』 ーー使用道具サイコロ


1『有機的高度知性体』 人間等の有機物により構成される生命体

2『無機的高度知性体』 高度なAI等を持つ無機物により構成される生命体

3『有機的低度知性体』 動物、植物等の有機物により構成される生命体

4『無機的低度知性体』 低度なAI等を持つ未成熟な生命体

5『有機的無知性体』 意識を持たず消費される有機物

6『無機的無知性体』 意識を持たず消費される無機物


 生命と呼んでいいのか分からないものが混ざってる!?


「あぁ、それは条件次第では意識を持つこともあるからね。君の国なら付喪神とか言うのかな? ああいう感じ。それ決まってから次を決めるからさっさとサイコロ振っちゃって」

「あ、はい」


 ツッコむだけ無駄なのだろう。これも運命と受け入れてただ無心にサイコロを振ろう。


「あ、5だ。ってことは有機的無知性体!?」

「あー残念。外れの来世だね。まぁ大体は、植物の加工済みの道具だったり、動物の死骸から作られる物だったりするから、なんとか自我を確立出来るように頑張って!」

「そんなのあんまりだ……」

「善行値100で1回やり直しってルールはあるけど、君は足りないからね。諦めてさっさと次行くよ」

「うぅぅ……」

「はい、次はこれ」


 神様はまた別の紙を差し出してくる。落ち込みながらも一応目を通していく。何か逆転となるようなものなら良いんだけど……


『転生する場所の決定』 ーー使用道具サイコロ


1『現状維持』 死んだ世界と同じ世界へと転生する。

2『異世界転生・上位』 死んだ世界より上位の世界へと転生する。

3『異世界転生・同等』 死んだ世界と同等の水準の世界へと転生する。

4『異世界転生・下位』 死んだ世界より下位の世界へと転生する。

5『異世界転移』 死後の肉体をそのままに異世界へと転移させる。

6『天国行き』 期間限定ではあるが、天国で過ごす事が出来る。期間切れで再度サイコロを振る。


 よし、転生だと有機的無知整体、つまり道具だ。それを避けるなら、5か6だな! どっちかこい!


「……2だと!? え、地球より文明が進んだ世界の道具になるの!?」

「あはは! 君、面白いね。すごい組み合わせだ」

「……笑い事じゃないんですけど?」

「いやいや、なかなか無いような組み合わせだからついね。それじゃ、次で最後だよ」


 そう言って、神様はまた別の紙を渡してくる。くそ、他人事だからって笑いやがって!

 とにかく内容を読もう。えーとなになに?


『転生時の引き継ぎの決定』 ーー使用道具サイコロ


1『引き継ぎなし』 記憶も経験も一切引き継ぎなし

2『知識引き継ぎ・上』 知識的な記憶を保持したまま転生。直ぐに才能として発揮される。

3『経験引き継ぎ・上』 技術的な経験を保持したまま転生。直ぐに才能として発揮される。

4『知識引き継ぎ・下』 前世における知識に関しては習得能力が上昇する。

5『経験引き継ぎ・下』 前世における経験に関しては習得能力が上昇する。

6『知識、経験、全引き継ぎ』 知識、経験を共に保持したまま転生。直ぐに才能として発揮される。


 あれ? 道具に転生が決まってる以上、これって何か意味があるの……?


「意味はあるよ。引き継げたらそれだけ道具から自我が発生しやすいからね。むしろ、ここが君にとって最重要かもしれないよ?」

「……なるほどそういう事ですか」


 となれば、狙うは2、3、6といったところか。道具の状態じゃ習得能力が、上がっても意味ないだろう。1は論外。2、3、6どれかこい!


「6!? よっしゃ、6だ! これは当たりだ!!」

「ほうほう、そうなったか。それではこれで終了だ。良き来世を」

「え? もう来世に行くの!?

「……君もあの行列を見ただろう? 順番待ちがすごい多いんだよ。おかげでずっと休みなしさ……」

「……そうなんですか。神様も大変なんですね」

「そうなんだよ。まぁ君も数奇な来世になりそうだけれど、頑張ってくれ」

「そうですね。どんなものになるのかが全く想像できませんけど、頑張ってみます」

「それでは、来世が終わった時にまた会おう」

「あ、そうなるんですか。それではまたその時に」


 そうして俺の来世が始まったのであった。



 ◇ ◇ ◇



 それから何年経ったかは分からないが、俺は自意識がはっきりしてくるのを感じた。

 周囲を見渡してみる。おぉ!? 地球とは違った洗練された高層ビル群!? あっちには自動車っぽい物が空を飛んでいる!?

 ん? あの公衆電話みたいなのはなんだ? あ、使ってた人の姿が一瞬で消えた!?

 おーあっちには空中に映像が投影されてるよ。すっげぇー! 完全にSFの世界じゃん!


 んん!? あれ? 上を見たらガラス(?)張りの透明な壁の外は多くの星が輝いている! ここってもしかして宇宙空間にあるコロニーみたいなものなのか!?


「ねぇ、ママ。あれ、なんか変」

「しっ! あれは見ちゃ駄目よ。すぐに都市運営部に連絡しないと……」


 ん? こっちを見ていた親子がなんか訝しげな目で俺を見てる。なんかしたか、俺? 転生して自我が目覚めただけの道具ですぜ? そういやなんの道具なんだろ?


 んー? これは多分、革製の鞄か何かだな。なんとなくだが直感で分かった。文明が地球以上に進んでいてもこういう物も人気という訳か。人というのはそう変わるものでもないのかもしれない。

 それにしてもなんだか周囲が騒がしくなってきているな? 何かあったのか?


「自我発症の対象物を発見。対処を開始する」


 なにやら物騒な装備を身に着けた警備員みたいな人が近付いてくる。自我発症って俺のことか? これ、どういう状況なんだ?


「……済まないな。君が自我を確立したのは確認したが、自我ある道具の意思はここでは認められていないのだ。悪く思うなよ」


 そう言って、その警備員みたいな人は重火器のようなものを俺に向ける。そして引き金を引いた。それは重火器ではなく火炎放射器だったようで、あっという間に俺を焼き尽くしていく。


 自我が目覚めたばっかりだというのに、こんな仕打ちはあんまりじゃないか!? 


 そうして俺の意思は薄れていき、再び死んだのであった。



 ◇ ◇ ◇



 俺は再び、死後の世界へとやってきた。

 周りは前と同じように行列が出来ている。違う事といえば、そこに並んでいるのは意思をもっていると思われる道具と、台車に乗せられて翼の生えた女の人に運ばれている道具があるという事くらいだろうか。


 今回の生は色々と酷かった。今度こそ、まともな来世を引いてやろうじゃないか!



 作中の出てくるサイコロの選択肢は実際にサイコロを振って決めました。

 なんというめんど……変わった組み合わせになったものです。


 これ、同じネタで何話か作れそうな予感……!?

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― 新着の感想 ―
D6が3回だけだとかなりパターンが絞られてしまうけど、現地でさらにランダムに振り分けられる感じなのかな? しかし、自意識を持った道具に即処分対応してくる、って事は他にもうじゃうじゃとそんな連中が存在…
[一言] 4、6、6と試しにサイコロで振ったらなってしまった 低度なAIを持って知識や経験をがあると...
2018/04/29 22:15 退会済み
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