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第六話 「ふふ。雑魚ですね!」

「第一おっぱい発見!」


 領都の検問を抜けたところでセーキは嬉しそうに声を張り上げた。


「ソフィアです!」

「ソ……おっぱい発見!」

「もうちょっと頑張って下さい!?」


 セーキは人の名前を覚えるのが苦手である。ヘルガは覚えたが三文字だったからだ。ソフィアは四文字。これは厳しい。


「セーキ殿、こちらが仰ってたソフィア殿で?」

「そう、それ!」

「それ!? それ扱いですか!? あれだけの事をしておいて! あんな好き勝手しておいて!」


 ソフィアはキレていた。これでもセーキのことを心配していたのである。


 ドギャングギャンな夜を過ごした翌朝、ソフィアが起きてみれば一通の【仕事しおっぱい】と書き置き。恐らく途中で飽きたようだが意味は通じたのでその足で冒険者ギルドに行くとあろうことかS級モンスターの炎竜退治に向かったというではないか。


 ソフィアはセーキが戻るまで毎日、時間を作っては検問所に張り付いていたのである。薬の影響か、体が覚えてしまった影響か、太股をもじもじさせながら。


「え、何言ってるの!? 僕がレイプされただけだよね!?」


 ギョッと三人を見る門兵や通行人。そしてソフィアの顔を見て、ひそひそと話し出す。


「あの子、確か山賊に浚われた……」

「ああ……酷い目にあって、頭がおかしくなったのか……」

「可哀想に……帰ってきたものの、目が死んで、おしっこ漏らしてたものね……」

「山賊に快楽を覚え込まされて、戻ってからも忘れられなくてあの少年を襲ったのね……」


 固まるソフィア。哀れな生き物を見る目のセーキ。同じグループに見られたくなくて五歩ほど離れるヘルガ。


「な!」


 そして叫ぶソフィア。


「なんで私がそんな哀れな犠牲者で変態みたいに言われなくちゃいけないんですかぁああああああああああああ!」

「ママ、あのお姉ちゃん」

「しっ見ちゃいけません!」


 小さな子供の手を引っ張って離れようとする若い母親。普通に普通じゃない少女が居るのだから無理もない。親としての義務である。


「こっち来なさい!」

「は~い!」

「え、誰!?」

「え、何言ってるの!? ママ、早く帰ろう!?」

「何、この状況でしれっと見知らぬ女性をママ扱いしてついて行こうとしてますか!?」

「え、誰!?」

「酷くないですか!?」


 酷い。


「その、二人とも……あまり騒ぐと迷惑であろう、場所を移さないか」


 流石に居たたまれなくなったヘルガが提案する。


「流石おっぱい!」

「……おっぱい? 私以外の、おっぱい、だと?」


 三人は、セーキが泊まっていた宿、【テイテイテイテイテイテイヤ!亭】に向かうのであった。





 そしてピークタイムを過ぎた食堂の一角で三人は落ち着いた。


「それで誰ですか、このおっぱいは!?」

「ああ、このおっぱいはおっぱいだよ!」

「二人とも! おっぱいが私の本体みたいに言わないでくれ!」


 否。少しも落ち着いては居なかった。


「はぁ!? はぁああああ!? おっぱい、お前何言っちゃってくれちゃおっぱいなの!?」

「私にも解る言葉で話してくれ!」

「ふふん、そんなことも解らないなんて駄おっぱいですね!」

「え、ちょっと何言ってるか解らないんですけど、このレイパー!」

「はいぃ!? セーキ様がそれ言っちゃいますか!?」

「落ち着いてくれ! ひとまず人をおっぱい呼ばわりするのは止めてくれ!」


 勢い以外に何の中身もない会話である。


「そうだな! 話を戻そう!」

「そうそう、だからこの駄おっぱいは誰って話をですね、教え」

「おっぱいが本体に決まってんだろうがぁあああああああ!」

「そっち!? そっちに戻す!? 私の話ちょっとは聞いて貰えません!?」

「あのちょっと今真面目な話してるんで黙ってて貰えます?」

「酷くないですか!?」


 セーキが【!】無しで初めて喋ったと思ったらやはり酷い扱いをされるソフィア。


「ああもう、私はどうしたら良いのだ……」


 頭を抱えるヘルガ。そんなヘルガに構わず続けるセーキ。


「良いかよく聞け! おっぱいは生物が体のどこで考え、体を動かすか知っているか?」

「……ああ、もう、頭に決まっているだろうに」


 おっぱいと呼ぶな! という言葉を飲み込みつつ常識的な答えを出す。


「そうだ! 頭だ! 生き物は手足が無くなっても考え動くことが出来る! 頭が本体、一番重要な場所と言って過言ではない!」

「ならおっぱいは本体ではないではないか!」


 唖然とした顔をするセーキ。これほど言っても解らないのかと怒りがマグマのように沸き上がる!
















挿絵(By みてみん)










 もう何も言えない二人。凄まじいリソースの無駄使いと勢いだけの勢いに反論が思い浮かばない。


「と、ともかく勝負です! どっちがセーキ様にふさわしいおっぱいかを賭けて!」

「あ、え、え? いや、私はそんなことは」

「逃げるんですか!?」

「に、逃げるだと!? ふざけるな!」


 戦士として研鑽を積んだヘルガにとって、その言葉は侮辱に等しかった。


「ではどっちが優れたおっぱいか、勝負です!」

「あ、ちょっと待て、落ち着け」

「なら負けを認めるんですね!?」

「ちょっと待て! そんなことに勝ちも負けも」

「ふふ。雑魚ですね!」


 ぷちーん


 おっぱい VS おっぱい が今始まる。



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