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第五話 「なんて、なんという恥知らずな!」


 領都ハージから半日、森の中の畦道を数刻進むと大樹が密集する地帯に入った。


「つ、着きました!」

「え~、もうちょっと!」

「いえ、あの、着きましたので!」

「いやぁ、勘違いだね!」

「まごうことなき我が故郷でございます!」


 黒エルフのヘルガはセーキを半ば叩き落とした。いろいろ限界だったためであった。怒りも羞恥心も感度的にも。セーキはソフィアとの戦いを経て、大きく成長していたのである。


「ちょっなんでおっぱい離れさせるの!? 頭おかしいんじゃない!?」

「つ、着きました故」


 本来であれば馬に乗れば全身運動で筋肉が固まるものだが今は胸がとってもほぐれて血行が良くなったからか不思議と疲れは少ない。


「ヘルガ!」

「族長! こちらが炎竜討伐を受けてくださった冒険者のセーキ殿です!」


 ヘルガを呼んだのは杖を突いた腰の曲った白髪の老エルフであった。


「おお! そうであったか! お客人、此度の件、感謝致します!」


 一瞬いぶかしげにセーキを見た族長だったがすぐに満面の笑みで皺を深めた。


「竜殺しにおっぱいです! 任せてください!」

「竜、おっぱ?……はて」

「族長、ご説明は後ほど、ひとまずは」


 首がもげそうになるほど傾げる族長に耳打ちするヘルガ。


「そ、そうか? なにはともあれ追い払うどころか竜殺しとは、頼もしい。

 ささ、もうすぐ日が落ちます。幸いなことにまだ竜はこちらまで来ておりません。見張りも立てておりますので、猶予は御座います。

 今日はご移動でお疲れでしょう。しばし我が家で休まれてくだされ」

「おっぱ!」


 その晩、セーキはささやかながらも歓待され、眠りについた。


「ヘルガや」

「はっ」

「あのお方は、その……大丈夫なのか?」


 里で最も強いヘルガが選んで連れてきた戦士である。その目を疑う訳ではないが、どうしても不安になるのは会話の約半分に『おっぱい』が紛れ込む少年に不安を抱かない訳がない。


「見た目は弱そうですが、羽交い締めにしようとした何人ものほかの冒険者を投げ飛ばしておりました。恐らく私が十人居ても適わないことでしょう」


 ヘルガの言葉に一瞬希望を抱くが、しかし相手は冒険者ギルドで言えばS級のモンスターである。世に疎い族長であっても十人力、否、百人力の猛者であっても厳しいのは解っていた。

 そのため、里の秘宝をヘルガに託したのだが、それはただ一人の力自慢を連れてくるのではなく、冒険者を複数人呼びよせることを期待していたのである。

 それを改めて投げかけると


「炎竜を恐れ、セーキ殿以外、誰も」


 と悔しげにヘルガは形の良い唇を噛み、ゆがめた。


「そうであったか……出来れば、十人でも居れば、炎竜も満足して去ったであろうが……だが、仕方有るまい」


 その落胆した族長の言葉にヘルガは血の気が引いた。


「ぞ、族長? どういう意味でありますか?」

「炎竜も、腹を満たせば居なくなるであろう。過去にもそれで回避したことがあった」


 生け贄を募れと言わなかったのは間違いであったか、とふと族長も考えたが、今更取り繕う意味も感じあかった。


「なんて、なんという恥知らずな!」


 ヘルガは怒った。怒りを覚えた。


 死にたくないのならば、森を去れば良い。


 森を離れたくない、という年長者達の想いも当然理解出来るし共感もする。が、命有っての物種だ、という合理性もヘルガにはあった。


 領都ハージの冒険者達は、手助けことしてくれなかったが、ドワーフは協力の申し出を、ほかも哀れみをヘルガに差し出してくれていた。


 それは、正直なんの慰めにもなってはいなかったが、そんな彼らが自分たち黒エルフ達のために犠牲となるなどそんな理不尽な話はない、と怒りを覚えた。


「解っておる。ワシとて心苦しい想いでそなたを送った。だが、里の外の者の命で済むのなら、ワシが罪を被ろう、とそう思ったんじゃ」


 大きなため息を一つ。


「だが、集まらんかった。これもクーデゲンガ様の御意志なのであろう。ワシの矮小な魂に呆れられたのやもしれぬ。

 ワシと意見を共にした年嵩の者達でセーキ殿と炎竜に向かう。

 そなたは里を守るのじゃ。次代の族長はお主じゃからの」


 族長であり、目の前の娘ヘルガの父でもある男の最後の意地であった。


「ち……父上」

「馬鹿者。族長と言え。少しは格好付けねばな。まぁ、あの若者には悪いがワシらに付き合って貰う。文句はあの世で聞けばよかろ。時間はいくらでもあるじゃろうからのぅ」


 族長である父の苦悩を理解してしまったが故に、ヘルガはそれ以上何も言えない。


「して、秘宝はもう渡したのか?」

「宝は、まだここに」

「あれも出来れば次代のためにも里に残しておくべきじゃろう。死に行くものに俗世の宝など何も意味はない」

「……はっ」


 娘は、父の後ろ姿が見えなくなっても、ずっと、ずっと、見つめ続けた。






「じゃ、ヘルガ! 行って来るね!」


 もみもみ


「ぬっ……」


 死地へ向かわせる手前、見送りに出たヘルガの胸を揉ませるくらい仕方ない、と族長はこらえる。娘は娘であまり嫌がっていないように見えるのも複雑な気分だが。


 そして、族長と、ほかの黒エルフの年寄り九名は炎竜に身を捧げるべく、セーキと共に向かうのであった。






 セーキ達は朝に出発した。そして、しばし時が流れ、太陽が沈む寸前のこと。


「たっだいま~~~~~~~~~! あ~~~~~おっぱい恋しかったぁ~~~~~~!」

「は?」


 ヘルガより族長の意志を伝えられた里の黒エルフ達はポカーーンとしていた。


「な、ななななな!?」


 あろうことか、炎竜退治ならぬ、生け贄として向かったセーキがヘルガに飛びつき、その胸に顔をぐりぐり擦り付け始めたではないか。


「あれ? これからお祭りでもやんの!? いいねいいね! 踊りでゆれるおっぱい!」

「え、炎竜は!?」


 これより、遺体の無い合同葬儀を行うことになっていたのだが、偲ばれるはずの本人達が帰ってきたのだから当然の反応である。


「父上!?」


 話が違う。死んで欲しいわけでもなく、生きて会えたことに喜びが胸に広がるが、しかし、これでは何も意味がないではないか、と。


「セーキ殿、めっちゃ強かったんじゃ、めっちゃ! めっちゃ!」


 めっちゃめっちゃ言い、子供のようにハシャぐ老人。


「ああ、もう、凄まじいの一言であった! 【ひのきのぼう】だけで、あの炎竜を圧倒したんじゃからな!」


 ほかの老人達も興奮が収まらず一部始終を村人達に語る。


「一本目の【ひのきのぼう】で足を凪ぎ払ったと思ったらそこに足はもう無かったんじゃ! 足だけいずこへ吹っ飛んでしまったんじゃ!」

「二本目の投げられた【ひのきのぼう】が炎竜の首に突き刺さり!」

「三本目を持ったセーキ殿が炎竜の股間を切り上げてまっぷたつじゃった!」

「皆の者! 英雄じゃ! 英雄の誕生じゃあああああ! これより総出で竜を回収に参るぞ!」


 信じられない里のエルフ達はこの老人達はボケたのだろうかといぶかしげであったが、討伐の証明として出された炎竜の鱗を見せたのだから信じないわけにいかない。

 徐々に広がる歓声。


「ま、まことか!? まことですか!? セーキ殿!」


 己のおっぱいに顔を埋めたままぐりぐりを繰り返すセーキにヘルガは必死に問う。


「あ、爺さん達が言ってること、嘘だよ!」

「な!?」


 父が嘘を付いたというのか!? 鱗とて、探せば落ちているかもしれない。まだ怖じ気付いて逃げてきたと言ってくれれば良かった。その嘘を信じて炎竜の素材を回収になどいけば全滅するに違いない!


 失望と怒りがヘルガの中で育つ。ぐんぐん育つ。


「【ひのきのぼう】、実際には六本使ったから! 爺さん達、話盛りすぎ!」

「へ?」

「意外と堅くてさ! ヘルガのおっぱいはちょっと堅いけど、でも弾力があってすっごい良いよ!」


 おっぱいの感想などどうでも良いので聞かなかったことにし、再度、しっかりとセーキに問う。


「炎竜、倒し、た?」

「おっぱい!」


 ヘルガは、しがみついたままのセーキが大きく頷くのを感じ、気が遠くなってそのまま意識を手放した。





 かっぽかっぽかっぽ

 もみもみもみもみもみ


「あのぉ、セーキ殿」

「んん? 何おっぱい」

「胸をずっと揉むのを止めて頂けまいか」

「何、喧嘩売ってるの!?」


 数日、炎竜の死骸が確認され、しばし解体と勝利の宴が繰り返されたのち、セーキとヘルガは里をあとにした。


 何故ヘルガまで一緒にいるかというと、領都まで送るためではなく、共に行くためであった。


『英雄殿! これがお礼の我らが里の秘宝ですじゃ! 是非お納めくだされ!』

『そんな堅いのよりこっちのおっぱいがイイ!』

『な、なんと!? どうぞどうぞ!』


 つまり、族長達に売られたのである。少なくともヘルガはそう思っている。


 しかし実際には、族長であり父は、娘のヘルガがすでにセーキと恋仲で、それを踏まえてセーキが


『もう身内なのだから遠慮するな。里のためにもその宝は大事に持っておけ』

 と言外に言ったのだと勝手に勘違いをしたのである。


 そして族長は族長で『そこまで、そこまで我々のことを……これを売れば、さぞや豪勢な暮らしが出来るだろうに……なんと、なんと素晴らしい義息子殿じゃ!』と感激したのである。


「あ~……なんでこんなことに」


 大きなため息をつく。この状況の意味が解らないが、何やらすべての面倒を押しつけられた気分であった。


「ヘルガちゃん」

「は?」

「僕、帰ったら、くっちゃくちゃになるまで頑張るからね!」

「へ?」



 その晩、ヘルガはその巨乳を中心に、くっちゃくちゃになるまで滅茶苦茶にむさぼられ、


『もう、もう止めて、もう無理、もうこれ以上……あっ頭、変になるぅうぅうぅうふぁああぁああひぃああああああ!』


 とこれだったら炎竜に食べられた方がセーキに食べられるよりも楽だったのではないか、と快楽の渦に翻弄され続けるのであった。






 後に聖帝伝説、ではなく性帝伝説と呼ばれるセーキの偉業の第一節には、炎竜討伐と黒エルフの娘との大恋愛模様が描かれることとなる。


 が、炎竜討伐の事実以外、特にセーキとヘルガの大恋愛云々についてはかすりもせずそのまま正史とされるのだが、真実はヘルガだけが知っていたのであった。



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