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第四話 「もしかして、B級、いえ、A級クラス!?」

 セーキがソフィアを襲わせた翌朝、冒険者ギルドは静寂に包まれていた。


「誰か! 誰かおらぬか!」


 その静寂を何度も破ろうと一人の女が叫ぶ。黒エルフと呼ばれる種族で人間でいえば二十代前半ほどだろうか。猛禽類を思わせる鋭い眼光、綺麗に通った鼻筋、そして肉厚だが魅惑的なその唇。

 その黒エルフの女性がギルドに入った瞬間までは男共は口笛を吹き、女共は嫉妬の視線を向けた。


 だが、今はもう彼ら、彼女らの視線に含まれるのは哀れみだけ。


「頼む! 報酬は一族の秘宝であるこの金剛石だ! 倒せとは謂わぬ! 追い払ってくれるだけで良いのだ! 頼む!」


 悲痛な叫び。


 ギルド内に居合わせた冒険者達は顔を歪ませ、視線を逸らす。


「おい、黒エルフの嬢ちゃん」


 本来ならば白黒問わずにエルフなどに関わろうとしないドワーフの冒険者が声をかける。白エルフ・黒エルフ・ドワーフはそれぞれにそれぞれを嫌っている。生理的に受け付けない、相容れない種族である。


 こかつの如く忌み嫌うドワーフに声を掛けられた黒エルフの女性。


 本来ならば眉をしかめ無視するどころか率先して喧嘩に発展するような相手だ。


 だが、今はそれどころではない。その黒エルフはどのドワーフを見、引き受けてくれるのかとの期待からひざまずく。


「そりゃあ無理な話だぜ」


 ドワーフは、いけ好かない黒エルフではあるが哀れみから事実を突きつける。


「ドワーフは、頑強な種族。あなた達ならば」

「炎竜に勝てる奴なんざおとぎ話の勇者くれぇだろが」

「勝てなくても良い! 追い払ってくれるだけで良いのだ!」

「それがそもそも無理だっつってんだよ。王都にだってそれが出来る奴らがいるかどうか。広い場所で抗城兵器でも使わねぇと傷一つつかねえのが竜だ。普通の竜だったら追い払えるかもしれねぇ。

 だが炎竜なんつぅもん、鱗の表面に傷一つ残せるかどうか」


 諭すように語るドワーフ。このドワーフはこの領都ハージの若手ドワーフ達のまとめ役であった。いけ好かない黒エルフだが、だからこそ恩を売るのも悪くない、そしてあまりに哀れであった。


「里を捨ててさっさとどこかに移住しろ。被害が増えるだけだ。この町に来るんだったらエルフだとか関係ねぇ、困ってる時ぁお互い様だ。俺が仲間と共に出来るだけのことをしてやるからよ」


 そのドワーフにとってはそれが最大限の事であった。ほかの人族、獣人族などと比べても人情味溢れる言葉であった。


 だが、その温情も黒エルフの女性には届かない。


 それが出来ればどれだけ楽か! 


 黒エルフという種族は生まれ育った土地にほかの種族が理解出来ないほどの執着心を持つ。


 エルフとは森で生まれ、森で生き、森で死ぬ者。

 病気や事故、獣に襲われての死亡であればまだ納得もしよう。

 だが、炎竜に一族郎党のほとんどが食い殺されるなど受け入れられない。


 受付嬢に視線を向けるが黙って首を横に振るのみであった。


「あぁ……あぁあ……」


 泣き崩れる。

 オーガやトロールなど、危険度B級程度ならばこの場に居た冒険者が総出で出れば追い払うくらい出来ただろう。だが、竜、それも最上級の炎竜など、蟻が象に立ち向かうほどに有り得ない。


「エルフのお姉さん、こんにちは!」


 静寂がまた、訪れた。空気を読まずに元気に声をかけたのはセーキ。

 一昨日登録したばかりの少年を知るのは受付嬢だけであった。

 おかしな少年で、クラスもスキルも無いが、山賊から商人の娘を奪還した実績を持っている。


 それはただ単に運だけだったのか、それとも実力なのかなど考えるまでもなく、ビギナーズラックだと思っていた少年だ。


「依頼ですか!?」

「あ……ぁあ」


 いきなりの明るく元気な問いかけに、戸惑いつつも答える。


「どんな依頼ですか!?」

「竜を……竜を里の森から、追い払って欲しい、のだ」

「竜!?」


 驚く少年。無理もない。


「ほ、報酬なら、これが」


 この少年があてになるとは到底思えない。だが、もう一度注目を浴びるこの状況で金剛石を見せれば、あるいは、と。


「うわぁ、おっきいですねぇ!」


 大人の拳ほどの大きさもある金剛石だ。これほどの大きさの物はそうそうないのだから当然の反応だ。


「おっぱい!」

「は?」


 少年、セーキが注目していたのは黒エルフの女性の胸部。ソフィアよりも身長が有るその女性は、ソフィアのさらに一回り大きな乳房を持っていたのだ!


「貴様ぁ……私は……真面目に、言っているのだぞ! それを、あろうことか、ふざけるにもほどがある!」


 爆発した。きっかけはセーキだが、これまで溜まりに溜まった怒りが爆発したのだ。


 外部に頼ろうとした自分たち一族に対しての怒り。

 何よりも、黒エルフの戦士として育ったにも関わらず、炎竜に手も足も出なかった己に対しての怒り。


 その叫びの九割九分、八つ当たりであった。


「おい坊主! 状況見て馬鹿言え!」

「誰かつまみ出せ!」

「てめえ見ねぇ顔だな! 二度と来るんじゃねぇぞ、次見たらぶっ殺すかんな!」


 黒エルフの女性を哀れに思った冒険者達は口々にセーキを罵り、つまみ出そうとした。


「 ふ! ざ! け! ん! じゃ! ねぇ~~~~!!! 」


 首根っこを捕まれ宙に浮かされたセーキは叫んだ。


 その叫びは先ほどとはうって変わって迫力を帯びている。


「お前らぁああああああああああああ!

 雁首揃えてなんだそれえぇえええええええええぇええええ!

 お前らにチンコ付いてんのかぁああああああああああああああああ!?

 女の子がぁああああああああ! 泣いてぇええええええええええええ!

 助けてってええええええええええええ!

 言ってんだろうがあああああああ!

 男ならぁあああああああああ! おっぱいだろうがあぁあああああああああああああああああああ!」


 暴れる。


「うぉ!?」

「ぐぁ!」

「なっ!? がぁっ!」


 次々に周りの冒険者を投げ飛ばす。そこにはベテランクラスと呼ばれるB級冒険者達が何人も居た。このギルドは人材が豊富なはずなのに、不意を打ったとは言え次々投げふせているのだ。異常な事態である。


「な……なんて、強さなの!? もしかして、B級、いえ、A級クラス!?」


 受付嬢が驚き声を漏らす。その言葉を呆然としながらも耳に入れた黒エルフの女はハッとし、その少年、セーキの前まで走り寄り、ひざまずいた。


「し、失礼した! 貴公は、本物の強者であられましたか! なにとぞ、なにとぞ我らをお救いくだされ! 炎竜を追い払ってくだされ! 私に出来ることならば何でも致します!」


 そして暴れるのを止めたセーキは、ひざまずく黒エルフと同じ目線になり笑顔で訪ねた。


「竜を追い払って、という依頼ですね!?」

「はっ!」

「面倒なんで殺しても構わないですか!? 殺しちゃって良いですか!? 僕だと絶対その竜殺しちゃいますけど文句言わないですか!?」


 誰しもが、誰しもが唖然とした。セーキが狂人にしか見えなかった。否、黒エルフの女性を除いて。


「…………御随意に!」






 かっぽかっぽかっぽ


 もみもみもみもみもみ


 セーキと、黒エルフの女性、ヘルガは馬上の人となった。馬に乗れないセーキがヘルガの後ろに座り、しがみつく。胸に。具体的には片手ではとても覆い隠せないであろう、日本人には殆ど居ないであろうおっぱいに。

 弾力があって、柔らかい、というよりもまさに『肉っぽいおっぱい!』という感触だが、これはこれでとても趣があってイヤラシイ。


「あ、あの」

「ん!? どうしたの!? ナイスおっぱい!」

「そ、そのようなことは、あの、退治した後で」

「乙ぱいっていうか、もうこれは甲ぱいだわ!

 これはソフィアと同じレベルかも!? いや、でもあれはあれで柔らかくて最高だったけど、あれとこれを比べるのはラーメンとパスタどっちが上か語るみたいな不毛さがある! そういやあそこツルツルだったけどあれはビビったわぁ!」

「い、いや、あの、ソフィアって誰、いや、あの、揉むの、や、やめて、やめてくださ」


 流石に抵抗し乳房に触れる手を剥がそうとするヘルガ。だがそこはセーキが相手である。


「あーーーーーー! やる気ぃいいいいいいいいい!

 やる気ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいがぁああああああああああああ!

 やる気ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいがぁああああああああああああ!

 超無くしたぁああああああああああああああああ!

 爆散したぁあああああああああああああああああ!

 消滅したぁあああああああああああああああああ!

 もう帰ろっかなぁああああああああああああああ!

 いや帰るわぁあぁあああああああぁああああぁあ! 

 超帰るわぁあああああああああああああああああ!

 アルティメット帰るわぁあああああああああああ!」

「うぇ!? ど、どうぞ! どうぞ! お好きなだけお揉みください!」

「全くぅうう! おっぱいなんだからぁもう!」


 ヘルガは黒エルフの神、クーデゲンガーに誓った。

 もし竜を最低でも追い払えなかったら、その時はこの少年をどうやってでも、命を賭けても地獄に叩き落とす、と。



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