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本編 騎士

少し時間がかかりました。楽しんでいただけると幸いです。

夜会に招待された貴族達が引っ切り無しに挨拶にやって来た。今まで隠された第三王子のことは興味を引いたのか、探る様な目や怪訝そうな目をした貴族達に営業おうじスマイルで対応しつつ先程まで熱が出ていたせいか何だか気だるさを内心でため息をついた時。貴族達の挨拶が終わったのか、波は消えた。少しぐったり気味に椅子にもたれかかると気だるさが少し楽になった時、薄っすら開いた瞳に3人が近づいてくるのが見え、体を起こそうとするとそっとそれを止められた。

「ヴィリム殿下、騎士団長とその子息、私の妹が見えました」

「そう……」

言われたままにぐったりとした時3人の足が止まる。

「殿下。お久しぶですな」

「ああ、前は世話になったな」

「部下は不手際など起こしていないそうでなりよりです」

以前部下が不手際を起こし、攫われかけたことがありヴィリムの周りの警護の人事が一掃され、改善されてからはだらけて様子もない事をシュティールら少しホッとしたように話す。

「今後も何もないよう頼むよ。私の宮殿で何かあると厄介でしかないからね」

その言葉に反応してキリリと顔を引き締め真剣な顔でヴィリムを見る。

「はい、それは勿論でございます。そして、我が息子もいますので、ご安心を」

シュティールは隣にいたカールのさを叩いた。

「ヴィリム殿下昼間の無礼お許しを」

カールの挨拶を兼ねた言葉に目を見開き、俯いたがすぐに顔を上げ、一呼吸しカールの顔を夜会参加から初めて見た。

「身分を隠していたのはこちらだから気にしなくても平気。それにその呼び方をされるのは嫌だ」

「ですが……!」

食い下がろうとする彼に少し手をかざした。ヴィリムの方が身分が上でまだ、正式にヴィリムの騎士になったわけでもないカールが愛称で呼ぶとなると不謹慎で不敬に当たるからだ。

「ならこうしよう。カール、貴方が僕の愛称で呼ぶ事を許可しよう。リリアも同様に」

「……!!」

困惑の顔を見せたカールはヴィリムの表情を見ると口から出かけた言葉を飲み込み深々と頭を下げる。

「有り難き幸せでございます。ヴィオ」

そう告げると、ふわりと昼間見せた柔らかい笑みを見せるヴィリムを見て思う。

(これが殿下の本心なのか)

一度は拒みかけた事を承諾したことが間違いではないかと思うのも馬鹿らしい。本当に騙し嘲笑うかのように騙すような性格ではなく、初めから自分たちには本当の自分をさらけ出していた。会場に現れた時は傷ついた。しかし、ヴィリムの方が辛そうに笑う。リリアは何もかも知っていて自分にああ言ったのだと改めて感謝したい。

「カール、リリア。私と共に頃合いを見て会場を退出しよう。今日は私の宮殿に泊まってほしい。話があるんだ」

カールは父親をリリアはアルノルトの顔を見ると視線を受けた二人は頷く。

「カール。私は少し残る。殿下のことを頼んだぞ」

タイミングを計ったように国王がヴィリムのじっと見つめた。

それが退出していいという合図だった。

「ヴィリム殿下国王陛下より許可を得られましたのでご自身の宮殿に戻りましょう。お二人も、さぁ、参りましょう」

アルノルトの言葉受けゆっくり体を起こし、腰を上げた彼の顔は真っ青ですぐさま手を貸したい気持ちにさせられるがそれをぐっと堪える。ここから出れば人目など気にしなくてよくなる。

ヴィリムを先頭に3人が後を追うようにそっと会場を後にするとふらっとヴィリムの体が揺らぐ。

「ヴィオ!」

「ヴィオ君!?」

二人が驚きの声と悲鳴をあげる。アルノルトはこうなるとわかっていたのか、眉ひとつ動かさずに優しく包み込むように抱き上げる。

今のヴィリムは真澄としての乙女の心と男としての誇りがある。

美形に抱きとめられ抱き上げられることは乙女としては嬉しいけれど男としてはこの体は情けなくて仕方がなく恥ずかしく隠れてしまいたいくらいだ。

けれど普段から人に会うことのない彼には酷な状況で有り体に負担がかかり、気を抜いた途端力が抜け危うく床に激突するところだったろう。主人をよく見て状況を把握していてくれた己の執事に感謝だ。

「疲れましたか?」

「ああ、助かった」

そのまま家に止まることなくアルノルトは歩き出すと呆気にとられていた二人は慌ててアルノルトの背を足早に追う。

迷いなく運ばれた足は各宮に繋がる小道がある庭、ここで良く兄弟姉妹が東屋でお茶をする場所にたどり着くと、一つの小道を迷いなく足を踏み入れた。

「お、お兄様?」

「アルノルトさん?」

二人の目に映る小道の先は行く手を拒むかのように垣根がされておりそこから先は道などない。

そう、この道は知らない人にはお遊びで作られた小道でその先に何もないと思うだろう。しかしその先に……。

アルノルトが垣根の目の前に来ると、まるで生きているようにさぁーと道を開けるように左右に分かれ道が現れた。

「!!」

何も知らない二人は驚くしかできない。リリアでも知らない見たことのない宮殿が少し離れた小道の先にあるのだ。王やその妃たちが住まう後宮、王女達が住まうバタフライコア宮殿と王子たちが住まうナイトコア宮殿。この三つしかないと思っているのだ。

ソワソワとした気持ちで目の前に建つ宮殿を見上げながらも中に入る。

「ようこそいらしゃいました。我が主人が住まう新たに造られたシルバーコア宮殿。通称白銀の宮殿へ」

宮殿の名前を聞いて外装や内装、そして知らなかった理由がわかった気がした。この宮殿自体隠され主人を守る要塞。本来ならば、しろいはずの壁が今は月明かりや明かりで照らされきらめいて銀色に見える。何もかもが彼に与えられた家族の愛が詰まったものだった。

「とりあえず私の部屋でいいよ」

「わかった」

話しながらもヴィリムが告げる前から部屋に足向けていたアルノルトはヴィリムの理解が深いと二人は思った。

やがて部屋に着くとソファーに下ろし、二人もかけるように促し何処かに消えてしまう。

「二人とも、いろいろ驚いていると思うけど見ての通りここは僕のために作られた宮殿で場所を知っている人も限られ、その中でもこの宮殿の敷地に足を踏み入れれるものはほんの一握りしかいないんだ。だから他言無用にしてほしい」

二人は頷いた時、アルノルトがティーセットを手に戻ってきた。

「ヴィリム、体は?」

「お陰様で平気」

会場にいた頃よりは顔色が良くなっているヴィリムを不思議に思いながら二人は顔を回された。

「リリア。カール君。ここは回復魔法が宮殿を循環するようにできていて、ここにいる限りは常に回復魔法がヴィリムにかけられている状態なんだ」

「それではお兄様、常にヴィオ君の体調を緩和できるようなっているってことですね?」

「それで顔色が良くなってたのか」

「ああ、だが、ひどい時は気休め程度、直接かけないと意味がない時は俺がやっている」

納得がいった二人はヴィリムの顔を見る先程よりさらに良くなっていた。

「ここが出来る三年前は半年はベットの上の住人だったけど半年以下になったから良かったよ」

学校に通えない理由がわかった気がした。隠されて育っていたとはいえ髪色染めて通えばいい話なのだ。それをしない理由は半年ベットの上にいては通えない。

「今までは薬も効かなくて、飲むのも億劫で飲まずに返してたよ」

「そのせいで学校来れなかったとかは?」

「ない。幼少期に飲んでた時は聞いてたのに効かなくなるってことはないと思う。三年前から効き始めるっても変な話だよ」

「お兄様がヴィオ君の薬師になってから?」

「今だから言うかあいつらきちんと作っているように見せておいて作ってなかった」

「あ、やっぱり?」

あっけらかんとかにした風にも見せないヴィリム。薬師たちの職務怠慢に文句も言わず、分かっていながら言わない彼は、最早薬師たちに期待していなかったのだろう。

「まぁ、薬の話はアルが居ればいいから置いといて、本題にはいろうか」

深く深く何かを覚悟するように深呼吸すると普段の柔らかい瞳が少し鋭くなるじっとカールの瞳を見つめ口を開く。

「カール君、お願いがあるんだ。嫌なら断ってもいい」

言葉を区切り、一呼吸置きカールから目を離さない。

「私の…ヴィリム・ディオノスの騎士になってほしいんだ」

「その言葉承りました」

考えもせず、了承を口にするカールに目が天になりポカンと口を開け、茫然としているヴィリムにクスリと笑った。

「考える時間なんていくらでも待っているつもりだったのに」

「正直、自分の口から即座に了承するとは思ってはいなかったさ」

何かを思い出すようにカールははヴィリムに学校でヴィオとして会った時のように笑った。

「会場で学校で今日会った転校生が出てきてしかも王子なんて言うし何だか裏切られたと思ったよ」

彼は少し申し訳なさそうに頭を垂れ銀色の髪を揺らす。

「だけど、父上やリリアから話を聞いて本来は隠して黙っていてもおかしくないはずのないヴィオが申し訳なさそうに俺を見たとき、バレたくなかったんだなって思った」

ヴィオとカールの間に置かれたローテーブルの横をすり抜け隣にやってくる。

「俺がお前の騎士に選ばれているって知ったとき嬉しかった。だから俺はお前の騎士になる。ヴィオは自分から騎士になってくれって頼んでくれたんだからそれで十分だからそんな顔するなよ」

ななめ横に立ったカールはそのまま跪き頭を垂れた。

「今日から貴方様の剣となることをお許しください。これから先は長いですがかなら主人である貴方を守護します」

後ろ振り向いたヴィリムは己の執事アルノルトからシャラリと何やら受け取った。

「私こそカール・シュティール。私は剣術を学ぶことができません。貴方には大怪我をさせてしまうことがあるかもしれません。それでもどうか私の側に」

主君としての言葉を述べたヴィリムは受かった自身のシンボルであるアネモネがあしらわれたタイチェーンを付ける。誓いの印を付けられたカールはヴィリムに笑いかけヴィリムもまた、微笑む。月明かりに照らされた銀色の美しい髪は二人の関係を祝福するように優しく煌めいていた。

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