本編 秘密
誓いが終わるとカールは座っていたソファーに戻る。
「私は二人に言わないといけないことがあるんだ」
隠していることを決意したヴィリムは二人の顔をじっと見る
「言わないといけないこと?」
「そう」
カールの言葉に静かに頷いた。
「勿論、まだ、黙っていてほしいことなんだ」
二人は顔を見合わせアイコンタクトを取るとしっかり視線をヴィリムに戻した。
その瞳の色に決意が見えたヴィリムは隠していたことを口にする為息を吸う。
「色無しが魔法が使えないのは知っているよね」
「ええ、一人例外を除いた色無しの方は魔力が使えなかった」
「俺たちにとって魔力は体の一部。それがない色無しが体が弱いのはそのせいだとも言われてるが」
ふたりの言葉に頷いたヴィリムとアルノルト。アルノルトは用意していた。火が灯されていない燭台に刺さったロウソクが三本3人の目の前に置かれた。
「一人一本ずつ火を灯して」
何がしたいかよくわからない二人は首若ハゲながら言われた通り行動に移す。
「我が指に火を灯せ」
「火の粒子よ我が指に集え」
それぞれ指に火を作るとロウソクにかざし火をつけた。
髪色で得意魔法が決まっているとはいえ、他の魔法が使えないということではないのだ。ほとんどは苦なく他の魔法を使える。たた、高位の魔法が使えないということだ。
火が灯されたロウソクを確認するとヴィリムら意を決したように無言で、指をロウソクに向ける。
全身覆うようにヴィリムを朱い光が宙を舞う。そして、銀色の髪が鮮やかな赤に変色していた。
「っ!!ヴィリム君?」
「髪色がっ!」
ふたりの驚きを聴きながら静かに火が灯されていないロウソクに火を灯した。
「私は魔法が使えるんだ」
呆然とヴィリムの髪を凝視し、鮮やかな赤が見慣れた光に輝く銀色に戻った時、ふたりの思考が復活した。
「まさか、魔法が……唯一魔法が使えた色無しと同じように?」
「無言で魔法を……宮廷魔法士でも、困難と言われる方法で?」
呟くふたりに微笑んだヴィリムはゆっくり頷いた。
「今の私は宮廷魔法士より強いんだ。ただ、体と魔力量が合わなくてね。毎日のように朝体の調子がいいとには一戦を交えてるんだ」
「俺も初めて知ったときは驚いたが実際、圧巻するほどに宮廷魔法士を倒している」
ポカンと開いた口が塞がらないがそれが事実だとしたらすごい事だ。
かつて色無しで魔法を使えた人物は世界最強とも言われた人物。
そして、毎日相手しているディオノス王国の宮廷魔法士はこの大陸、いや、この世界で最強と比喩されている人たちだ。それをいとも簡単に負かすヴィリムは史上2人目の最強魔法士になり得る存在。
「……なぁ、ヴィリム」
「どうしたの?」
気まずそうに名前を呼んだ彼の顔は少し沈んだ表情を見せていた。
「魔法士として、最強かもしれないヴィリムに俺は必要かなのか?」
ヴィリムが魔法士として最強ならば剣士として最強と言われているカール
「必要だよ。だって魔法が全てじゃない。魔法が間に合わなければ何術なく僕は倒されてしまう」
目を伏せして膝に置いた手を握った。そして恥ずかしそうにカールに笑う。
「それに剣の練習とかしたら一日中寝てなきゃいけないぐらい体力ないし、体調を崩してしまうんだ」
ヴィリムの言葉を繋げるようにアルノルトが口を開く。
「二度ぐらい基礎の剣の訓練をしたんだが途中で高熱を出して倒れている。体を動かすことには体が追いつかないんだ。多分この先も」
「だから、僕にはカールが執拗なんだ」
静かに拳を握ったカールはタイチェーンをに手をかけた。
「わかった。俺はお前の苦手な部分を補う形でいいんだよな」
「うん」
「そうじゃなくても、お前を守りたいという気持ちは変わらないさ」
リリアは男同士の会話に沈黙を守っていたが疑問を投げかける。
「あの?普段から宮廷魔法士を負かしているのなら反感とかはないのでしょうか」
リリアの質問にヴィリムは苦笑い、アルノルトは深いため息を見せた。
「それが生き生きと、今日は出来るのかと俺の部屋に来るんだぞ」
「一戦を交える場所に私が行くと目がキラキラしてて怖いくらいに」
ふたりの重いつぶやきに二人は苦笑いを返すのやっとだった。
「それともう一つ。ラリアはもう知っているとは思うけど、ここにはもう一人居住している事物がいるんだ」
「えっ?ここはヴィオの宮殿じゃなかったのか?」
ここはヴィリムの宮殿として聞かされていた。そう疑問に思うのも無理はない。
「うん、そうだよ。何部屋か貸しているが正しいかな」
「なるほど、一体誰に?」
「それは……隣国の姫」
「えっと?なんだか聞いても問題なし?」
不安そうな顔色を覗かせながら聞いてきたカールに笑いかけた。
「勿論、じゃなきゃ話さないよ」
「だよな」
「隣国セフヴァーンは今アシュタイムに攻撃されているんだ」
その言葉に絶句するしかない。
セフヴァーンとアシュタイムの戦力は月とスッポンの様なものだ。だからなぜ攻撃を仕掛けられるのか、不思議なのだ。
「アシュタイム帝国は何を考えてるんだ。自分たちの力量も測れないのか。そもそも何故セフヴァーンが、攻撃を受けているんだ?」
このディオノス王国がある大陸は三つの国家で成り立っているが、一番大きい国家はディオノス王国、その次がセフヴァーン王国、アシュタイム帝国という風に国土領土が決められている、また、国土領土に応じて偶然か軍力や兵力も同じ並びである。アシュタイム帝国は小国と言っていいほど小さく国土領土がディオノス王国とセフヴァーン王国に挟まれている国だ。
「ああ、子供が親に喧嘩を売っている様なものだな」
アルノルトは静かに口を挟む。それにヴィリムが小さく頷いた。
「ディオノス王国とセフヴァーン王国は僅差と言えるほどの戦力しかありませんがアシュタイム帝国は目に見えた差があります」
「多分だけど……内部で手引きしたものがあるんだと思う」
二人から空気を吸い込む声が聞こえた。驚きが隠せないのだろう。
「ヴィリムが考えたことはあらがち間違いじゃないことがわかった。政が崩れた同時期にアシュタイムが動いている。これが偶然なものか」
「国に関わる政で、これが起きたと考えるとなんらかの地位と官職についているというものだろうね。まぁ、………かな?」
途中で口を閉ざし悪巧みをする様に微笑み何も言わず続けた。
「ヴィリムには、確信があるみたいだな」
「そうだね。とりあえずルリファ姫の姉君を救出して。その後の仮初めの身分も。それからだよ」
「わかった。兄貴に頼んでおく」
カールは少し重苦しそうに口を開く。
「そんなに状況は最悪なのか?」
「じゃなきゃ保護もこうやって動いたりしないよ」
「そうだよな」
その言葉に消え入りそうな声で答えたカールを横目で見ながら重々しく時計の針を眺め溜息をついた。