第23話 後始末
見当たる家を手当り次第に漁り尽くした結果。
金庫を除けば目ぼしいものは神殿にあった神像くらいなものだった。
それは片手に収まり大きいものではないが、純金製でズシリとした重みがあるもの。
流石に罰が当たるのでは、という疑問は「略奪を避けて別の神殿に逃がすのですわ」というソフィアの説明により解消した。
それでも銀食器を中心に全ての家から価値がありそうな品をかき集めれば七人で持ち運べる量ではなくなっていた。
馬車はあるのだが、肝心のそれを牽く馬がいないという問題にぶち当たったのだ。
それはひょいとやって来たディックがプリメロの街の冒険者連中を連れてきたために解決した。
昨日、ディックが砦を訪れても誰も居なかったために、急いで応援を手配してくれたそうだ。
砦回りを捜索するとモンタニアへの道が無理くり切り開かれているのを見てここまでやってきたらしい。
都合よく馬も連れてきているので、馬車を牽かせることも出来る。
「姐御はなんか雰囲気変わりましたね」
「そうでしょうか……よ。気の所為ではないか……な」
「罵られている感が薄く無くなって気味が悪いんですが」
「前も良かったが今のもたまらんが」
人格がプリメロに来るより昔のものに戻ってしまったアンジェリカ。
その姿は共同体の冒険者連中にとって違和感があるようだ。
まあ俺だって違和感あるし仕方がない。
「既に金目のものは集めたのでございましが、欲しいものがあれば持っていくのでございまし」
「俺、自分の食器が欲しいと思ってました」
「服や靴とか残ってるっしょ」
「布団があれば冬が越せますって」
「家を解体して移築するでごつ」
「最悪薪にはなるしな」
ベアトリクスに許可を得た協会の冒険者は喜んでその辺の建物に飛び込んでいく。
大体は金で買えるのでは、といった小物を喜んで抱えて戻ってくる。
建築資材をプリメロまで持っていくのとかしんどいぞ。
「ごっきぃ。これをルフまで大至急届けてください……よ。報酬は一先ずこれで良いか……な」
「やっぱ姐御変ですって。共同体と協会、それにハミルトン商会は分かりますが……騎士団の詰め所?」
アンジェリカから書状を4つと金貨を握らされたごっきぃは怪訝な顔をする。
書状はアンジェリカ、ベアトリクス、ジェシカの三人が急いで書き上げたもの。
書かれた中身は隣街から応援を呼ぶためのものだろう。
「滅びた村はここだけでは無いと思いますから、軍を動員して探索を行うつもりです……よ」
「分かりました。それじゃあ行ってきます」
アンジェリカの見送りを受けてごっきぃが足早にプリメロの方へ立ち去る。
それを見て、話を聞いていた冒険者が行動に出ようとする。
「えっ、じゃあ俺達は別の街を散策してきます」
「金貨がザックザクってことでしょ、こりゃ行くっきゃ無い」
「道中にゾンビが現れないと良いのでございましが」
「自分、丁度テーブルが欲しいと思っていました」
「やっぱり見知らぬ土地は大人数での捜索が基本っすよね」
ベアトリクスの刺した釘は的を射た物ではないだろう。
この村のゾンビも骸骨ローブを始末したら全て動きを止めている。
ソフィアが邪悪な気配は去ったといっていたことだし、モンタニアの森にゾンビが出ることはないと思われる。
しかし冒険者たちはゾンビに恐れをなして行動することを止めてしまった。
いや、リスクを減らすためにはそれくらいの慎重さが必要か。
火事場泥棒していて命を落としたら笑い話だ。
「ゾンビも片付いたことだし、プリメロに戻ってゆっくりするか」
「そうねぇ。最近埃っぽいところばかりだったしぃ、きちんとした所で眠りたいわねぇ」
「ゾンビに怯えてー眠れぬ夜を幾度と過ごしましたしねー」
◇
翌日、赤レンガで持ち帰った金品の分配を行っていたところ、隣街から来た軍人や冒険者の集団がモンタニアへと向かうために山へ続く街道を進む姿が見えた。
アンジェリカの話ではルフ駐在の一個軍団が動いたとのこと。
将軍らしき人物がアンジェリカに畏まってご機嫌伺いしていたのが可笑しく見えた。
やはりアンジェリカはそれなりに高位の貴族だったりするのだろう。
軍隊投入の名目はゾンビを使った侵攻に対する報復だそうだが、やることは人の居なくなった街や村の略奪だ。
俺はてっきりそうなのだと思っていたが、ベアトリクスが言うには少し違うらしい。
主目的は木材資源の確保と運搬で、被害状況の確認と略奪はオプション程度だと。
従来であれば俺達が訪れた村の人々が食料と引き換えに木炭や木材を提供していた。
しかし今年はそれが期待出来ないため軍事力を投入したということ。
燃料が無ければ冬を越せない。
これから迎えた秋が深まっていき冬が全てを覆い隠す前に、燃料となる木材の確保は大都市である隣街でも重要なことだという。




