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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
4章 聖女の聖水と死者の村
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第22話 死霊魔法?

「モンタニアの事はセントロに関係無いとして帰ってもよいのですが……」

「ゾンビも元は人間ですし、丁寧にとはいかないまでも供養はしてあげたいとは思います」

「丁度聖職者もいるのでございまし」

「私を見られても困りますの……ドラゴンは無視するとしても多いですわよ」

「合同葬式ってところだよな」

「これからわたし達がすることを考えると~、多少の手間は掛けてもいいんじゃないかしらぁ」

「あたしたちがーこれから何かするんですかー?」

「なんだと思うかしらぁ、ふっふふーん」


 イチゴちゃんがお姉ちゃんに問いかけるがまともな返事が返ってこない。

 代わりに俺が答えることにする。


「そりゃ当然費用の回収だよ。動く死体に掛けられた報奨金はカスみたいなもんだからな」

「ゾンビ数体を想定した額しか頂いていないのでございまし」

「ベアトのおやつ代にもならないでしょう」

「こんなところまで連れてこられたのに聖水代だけでは割が合わないですわ」

「私は研究材料が手に入るので悪くはないのですが、研究にもお金が必要ですから」

「ということよ~イチゴちゃん。お分かり頂けましたかなぁ?」


 こくりと頷くイチゴちゃん。

 ゴブリンの一件もあり、こういうことにも慣れただろう。


「そーいえばあたしもーおっきなー借金がーあったことをー思い出しましたねー」

「ということでぇ、ゾンビの後片付けは後回しぃ。誰か来る前に目ぼしい物を探しにいくわよ~」


 どう見ても略奪なのだが、村が全滅している以上は他の誰かに奪われる前に取ってしまう。

 そういうわけで皆散り散りになってしまう。

 一人を除いて。


「ジェシカは行かなくて良いのか?」

「どうせ自分たちだけでは持ちきれない程集まりますよ。そんなことに時間を掛けるよりはゾンビの研究の方が私にとっては有意義です」

「金より知識か。羨ましい限りだ」

「貴方こそ行かなくて良いのです? 冒険者なら欲を出すところでは?」

「金には不自由してないしな。それにお姉ちゃんと二人っで生きていくだけなら金も必要ないし」

「なるほど。私もお金には不自由がないですよ。実家のお金ではありますが」

「親の力も自分の力の内だろ?」

「それで要らぬ苦労をしてきた人達を知っていますよ」


 ジェシカは二人揃って楽しそうに民家に押し入っているアンジェリカとソフィアを見る。

 あの二人には何か特別な事情があるのだろうか。


 アンジェリカは冒険者の前は騎士で、ソフィアは祭司。

 この国の王城に入れるというのだから、四人ともそれなりの身分とは思われる。

 それにそこらの馬の骨の平民が剣姫――女というだけで姫と呼ばれるだろうか。


「さて、立っていても始まりません。私も仕事に取り掛かります」

「仕事って何をするつもりなんだ? ゾンビなら昨日から弄り倒してきたけど」

「死霊魔法の研究です。いまだ誰も成し遂げたことがないものですから良い機会にと」

「あー、魔術と魔法は違うっていうあれか。ということは、骸骨ローブは転移者だったのか」

「あんなものがそこらに溢れかえられると困ります。一点物の傍迷惑な転移者かと思います」


 面倒くさくて語ることも放棄して始末してしまったが……

 転移者仲間だと思うと骸骨ローブのことを知っておいても良かったかもしれない。

 が、死んでしまったのだから切り替えて次にいこう。


「死体を動かすのはホムンクルスを動かすのとは違いがあるのか? 前に純粋ホムンクルスがうんたらって言っていたけどさ」

「ゾンビとホムンクルスを同列に扱っては……良いか。両方とも人間の形をしたナニかですし」


 ジェシカは倒れているゾンビを一体見繕うと、近くにしゃがみ込む。

 そして頭部に手を添えてしばらくあーだこーだ独り言をつぶやいていると、突如ゾンビが立ち上がった。


「成功したみたいです。流石私です」

「噛まないよな?」

「仲間を増やすなんて複雑な命令はしていません。状態が良いゾンビを持ってくるだけです」

「それはありがたいな。俺の手間が省ける。次は埋める穴を掘るやつにしてくれないか」

「穴も必要ですしそうですね。やってみます」


 状態がいいゾンビの近くに座り込むと同じように頭部に手を添える。

 今度は独り言も無ければ、最初よりも時間が掛からなかった。


「どうやって穴を掘るんだろうな?」

「それは手などで。シャベルもスコップもありませんし」

「酷い……作業効率のために道具を見繕ってくるか。けれど道具は使えるんだろうか?武器を使ってきたゾンビは居なかったが」

「骸骨ローブの設定が悪かったのかも知れません。昨晩のこどものゾンビは高度な動きが出来ていましたし」

「それじゃあ可能性としては使えると」

「おそらく。身体の動かし方までは設定していませんが動いていますので。生きていた時に使っていた道具は使えると思います」


 ジェシカの言ったとおりその場にしゃがみ込んだゾンビは手で土を掘り始める。

 そんなのでは必要な穴の大きさまで何日掛かることやら。


「これは酷い。いずれ自分が掻き出した土に埋もれるぞ」

「土を運び出すゾンビも必要ですか……単純な命令しか出来ないのでリソースの配分が面倒です」


 ジェシカは文句をつぶやきながらも次のゾンビに取り掛かる。

 俺は土を掘るための道具を探しに手近な納屋へと向かう。


 納屋ではピッケルと大ぶりのショベルが見つけられた。

 とりあえずこれを不毛な作業を行っているゾンビに渡すことにしよう


「えーまたーゾンビに追われるやつですかー。ゾンビ映画のエンディングじゃないですかー」

「イチゴちゃん、お姉ちゃんが引きつけている間に逃げるのよ~」

「落ち着いてください。ゾンビの起動に成功しただけです」

「死霊魔法を使えたんでございまし?」

「ホムンクルスを動かすのと同じです。生態活動のスイッチを入れました。あとは自律行動の命令を与えるだけですが、こちらが難しく今のところは見ての通りです」


 お姉ちゃんとイチゴちゃん、そしてベアトリクスが作業を中断してジェシカの様子を見に来たようだ。

 まあ遠目からだとゾンビがまた現れたようにしか見えないしな。


「それで道具を使えるのか試そうとしていたところだ。おっ、ちゃんと使えるみたいだ」


 二体に増えている土を掘るゾンビの足元にピッケルとショベルを差し出す。

 二人とも道具を手に取って土を掘り始める。

 目も見えているし、腐った頭でも少しは機能しているということか。

 ジェシカの言う通り知能は与えた命令に左右されるのかもしれない。


「お姉ちゃんたちの収穫はどうよ?」

「アクセに大したもの無いわねぇ。木工細工に綺麗なものがあるくらいかしらぁ」

「持ち運び易いものであれば銀の食器と燭台くらい。この村の産業は林業くらいみたいでございまし」

「あまり期待できそうにないですね。鉱山をやっていれば石もあるのですが」

「プリメロと交流があるのよねぇ? だったらあるところにはあるんじゃないかしらぁ」

「そうでございましね……。食料を他の街に流していれば、その対価はこの街の産業で手に入らないもののはず……宝石も何処かにあるはずでございまし」

「宝石欲しいですねー」


 イチゴちゃんも随分俗物根性が湧いてきたじゃないか。

 お兄ちゃんはとても嬉しいよ。


「このゾンビの数だろ? 他の村や街も滅びていると思うが。他も回るだろ?」

「私め達だけではそこまで手が回らないのでございまし」

「プリメロの人手に余裕はありませんし、ルフから人を調達することになります」

「となるとわたし達の分前は期待出来ないわねぇ」


 プリメロの隣に位置する大都市ルフに応援を頼む。

 それではこの案件は完全に俺達の手を離れることになる。


「それで国に多少でも恩が売れるならば良しとしましょう」


 誰かと思えばアンジェリカである。

 その手にはとても人には持てそうにない大きさの金庫が抱えられていた。


「村長宅の地下にありましたの。中身も詰まっているようですわ」


 隣に立つソフィアがニヤケ顔を崩せないでいる。

 随分俗物根性のある聖職者じゃないか。


「どうやって開けるんだ。また俺か?」

「ケイの旦那のお手は要りません。こんな風に斬ればよいのですから」


 地面に金庫を置くや否やアンジェリカは手刀で金庫の錠を破壊する。

 恐ろしく速い手刀、とはいえ素手で切れるものとは思わないが。

 そうして開いた扉から中身が溢れ落ちてくる。


「金貨、金塊、コランダム。大勝利です」

「翡翠や水晶もありますわ」


 ジェシカとソフィアの言葉通り、中にはぎっしりと金と宝石が詰まっていた。

 本当に良くこんな金庫を軽々と持ち運べたものだ。


「わー綺麗……に輝いているのはー金だけですねー」

「宝石は原石でございましね。好きなアクセサリーに合わせて加工するのでございまし」

「選り取り見取りねぇ。天然のルビーなんてわたし初めてよ~」


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