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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
4章 聖女の聖水と死者の村
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第18話 アンジェリカの昔話

 夕食はレトルトのシチューとパンで大変美味だった。

 食後は紅茶を皆で頂きながら、明日に向けた作戦会議を行うこととなった。


「今日確認出来なかった家を順に確認するでいいだろ。明日は明日の何かが起きるしヨ」

「妙案」

「それ以外ないのでございまし」


 アンジェリカの一言に集約される綿密な会議。

 もといアンジェリカの一言とそれへのメンバーからの同意だけの会議は終結した。

 人生面白おかしく生きるためには先のことを考えすぎないことが重要だ。

 作戦会議なんてこんなもので十分なんだよ。


「今日はきちんと眠りますよ」

「寝不足は美容の大敵よ~」

「眠らないとー頭もまわりませんねー」

「そういえば何があれば完徹なんてことに至ったんだ?」


 俺は四人が眠ることより優先したことを確認しておくことにした。

 気になってしまったからではあるが、後から考えるとやぶ蛇であった。

 さっさと寝るべきなのだから。


「それは久しぶりに四人が揃ったので昔話に華が咲いたのでございまし」

「四人一緒は神竜討伐以来」

「五年ぶりくらいだったからヨ。長いようで短いような不思議な感じだが」

「こんな辺境とはいえ四人揃うことは憚られましたからね」

「そういえば昨日もソフィアが神竜討伐がどうこう言ってったっけ?」

「ちょっと気になるわよねぇ」

「あたしもーお話ききたいかなー」

「昔の話でございまし。まだ私めもアンジェリカも騎士だった頃、丁度冒険者になる切っ掛けの事件でもあったのでございまし――」

 今から遡ること五年前。

 セントロの国中を騒がせた事件が起きた。

 

 一匹の巨大な竜が王国各地で暴れまわり、また野生の竜を仲間に従え日に日に力を増していく。

 その竜はいつの頃からか神竜と呼称されるようになり、人々にとって信仰にも似た畏れの対象になった。

 

 本来であれば王国として軍を出動して退治する必要がある案件であった。

 しかし政争を原因とする足の引っ張り合いにより、国政は意見が揃わず軍も騎士団も傍観する日々。

 

 人々の期待は自ずと冒険者達に向けられ、実力ある冒険者達による討伐部隊が結成され退治する運びとなった。

 そこに騎士を廃業したアンジェリカも加わり、多くの犠牲を出しながらも神竜討伐の成功へと至った。


「参加してるの四人の内でアンジェリカだけじゃないか」

「ええ。ソフィはお城でぬくぬくしてただけ。私めは騎士として冒険者を監視するために同行しているのでございまし」

「城から応援大事」

「私は王立魔法院からのオブザーバーとして参加しました。神竜の遺体から肉体の一部をサンプルとして持ち帰ることが大きな役目です」

「でも犠牲が大きかった割にはアンジェリカさんは今もピンピンとしているのよねぇ?」


 お姉ちゃんの言うことはもっともだ。

 ベアトリクスの語った内容、多くの犠牲が合ったのならアンジェリカも負傷していておかしくないのではということだ。

 そしていつの間にか、ティーカップの中身はパントリーから持ち出した辛口の白ワインへと変わっている。

 アルコールが入った昔話なんて絶対に長くなるしか無いじゃん。

 けどこのワイン美味しいな。


「それには理由が合ってですね……巷では大苦戦したことになっているのでございましが……」

「実際にはアタイ一人だけで真竜とそのコバンザメどもを始末したからヨ。犠牲が出たのはその後の話だ」

「私達魔法院のオブザーバーが神竜とコバンザメの遺体を漁っているときに事件は起きました」

「あれ? ちょっと待って。コバンザメって神竜の仲間の比喩だと思ったけど、実はそうじゃなかったりするのか?」


 アンジェリカだけが言うのであれば聞き流していた。

 ジェシカまでコバンザメというなら実は本当に鮫なのではと。


「言い方が悪いのでございまし。神竜の仲間には竜だけでなく、他にもフライングシャークという空を飛ぶ鮫の魔物が含まれていたのでございまし」

「空を飛ぶ鮫はーC級映画ですねー」


 この世界では鮫が空を飛んでいるのか。

 ドラゴンナイトならぬフライングシャークナイトも居たりして?

 いつか海で溺れるイノシシや山で暴れる鯨にも出会えそうだな。


 しかし竜と鮫を同列に語るってどういうことだよ。

 竜という生物はまだ見たことがないが空飛ぶ鮫クラスの強さしか無いのか?


「ああ、それでまとめてコバンザメってことね」

「フライングシャークは肝が珍味」

「空飛んでいるだけの違いだから食べられるのねぇ。ヒレもかしらぁ」

「干してから炙ったり、スープに入れたりで高級品です」

「竜も鳥肉に似た淡白な味わいで唐揚げが美味しいのでございまし」

「竜だけにー本物の竜田揚げですねー」

「神竜はかなりキレている味わいだったよナ」

「鱗の揚せんべいのパリパリ感は病みつきになりました。普通の竜ではああはなりません。もう一度食べたいものです」


 てっきり魔物というのは他に食べるものがないために我慢して食べるものかと思っていたが、そうでもないらしい。

 珍味といわれると食べてみたくなるな。

 竜や鮫にいずれ出会えたら余すこと無く食してみたいものだ。

 竜の竜田揚げとか語呂からして絶対美味しいやつじゃん。


「美味しいのは理解した。いずれ近くに出没したら倒しにいこう。話を戻すけど起きた事件っていうのは?」

「そうそう。それまで他の冒険者の集団は黙ってアンジェの活躍を見ていただけだったのですが、七人の特別に位が高い冒険者が手柄を横取りしようとしたのです」

「アンジェを始末すれば手柄は丸々自分たちのものということでございまし。しかし結果は簡単に返り討ちにあってしまったのでございまし」

「弱えーのが悪いよ、弱えーのがヨ」

「相手もそれなりに強かったんだろ? 良く勝てたものだと思うが」


 冒険者としての位ってなんだよという疑問はあるが、特別に位が高いのに簡単に負けるのは不思議だ。

 アンジェリカも強いといえど常識に毛が生えた程度の強さでしかない。

 それこそ武器の扱いで一日の長があるからお姉ちゃんに勝るくらいかと思っている。

 お姉ちゃんは身体能力こそ優れていてスピードが並外れているが戦闘技術はさほどでも無いからな。


「セントロでトップクラスの冒険者が七人。私めもこの目で見たのと相手がアンジェでなければ信じられないのでございまし」

「私は冒険者ギルドが行っているSランク認定というのが胡散臭いものと思いましたけれどもね」

「私めも後日冒険者になってから知りましたが、七人は黒い噂が絶えない連中たったのでございまし。Sランクを取得するに至った叙勲の功績も疑わしいものでございまし」


 Sランク?

 ランクってなんだ?

 俺達冒険者には格付けみたいなものが存在していたのか。


 そんな説明を受けた記憶は全く無いのだが。

 まあ自分のランクがどんなランクであっても今の生活は変わらないだろうし気にする必要はないか。

 でも、格付けが高いと何か良いことがあるのかぐらいはいずれ聞いておきたい。


「一人は間違いなく強かったことは覚えているヨ。他のは一撃目で死んでたのに三撃目まで息してたからナ」

「アンジェ最強過ぎ」

「なあなあ。俺の目にはアンジェリカがそこまで圧倒的に強いようには見えないんだが、俺の目が腐ってるのか?」

「わたしもそこまで強いとは思えないのよねぇ。強いには強いんだろうけども、分かりやすい強さっていうか~」


 率直な疑問をぶつけてみる。

 ゴブリン相手に無双する姿は見ていたが、あれはゴブリンが弱すぎただけだ。

 そもそもどうやって飛んでいる魔物を一人で片付けたのか、そこからしても疑問だ。

 弓矢を使ったなら納得感はあるが、アンジェリカの得物は槍だ――投げたのか?


「確かにお二人の目からはそう映るでしょう。それには理由が有ってですね、この事件の後にアンジェは力を封印しているのです」

「剣士として大陸最強といって差し支えなかったのですが、政治的な理由で封印と同時に剣を持てないようにしたのでございまし」

「それで強さも今の常識的な範疇に落ち着いたということか」

「剣を使っているところも見てみたいわねぇ」

「封印で失ったものは剣だけではないのでございましが……あの力は実際に目に見ないと伝わらないのでございまし」

「今だと飛んでる竜なんてどう頑張っても倒せねーものナ。アタイも望んだことだから仕方ねーがヨ」


 本当にどうやって剣で飛行する魔物を倒すのか。

 それだけが気になって仕方がない。

 聞ける内に聞いておいたほうが良いだろう。


「もう見ることが出来ないなら、どうやって飛んでいる魔物を倒せるのか。話だけでも聞かせて貰えないか?」

「単刀直入にアンジェが分裂して相手を強襲」

「それでは分かりませんよね。分身も無意識に魔力を使っていることで実現するのですが。他にも空高くジャンプしたり空中を蹴って方向を変えたりで縦横無尽にやりたい放題ですよ」

「忍者か何かーやっておられますー?」

「困ったなぁ、わたしじゃ勝てないわぁ」


 もはや人間とは思えない身体能力を保有する女、アンジェリカ。

 油断したら俺でも勝てなさそうだ。

 俺の力を持ってすれば負けることなどありえないことではあるが。


「そんなに強かったのによく力を捨てることが出来たな。自分で仕方ないと言ったけれど、勿体ないとか思わなかったのか?」

「政治的な理由もあったし、それに結局は個人として強いだけだからナ。手の届く範囲は守れても届かなければ失ってしまうし未練は無かったヨ」

「集団には勝てないでしたっけ? 騎士団一つを一人で全滅させておいてどの口がほざきますか」

「あんなもの一対一を千回やっただけだ。本当に怖いのはマスコットが使うような銃だヨ。それを集団で運用されたらどう頑張っても避けきれずに当たっちまうしナ」

「銃の大量運用はコストが高すぎるので、それが出来る国はまだ存在していないのでございまし」


 どうしよう、ヤバい前歴がどんどん出てくる。

 酔っ払って話を盛っているんじゃなかろうか。

 一人で千人倒すとか集団でなければ銃弾を避ける宣言とか。

 この女は本当に人間なのかと疑ってしまう。


 いやまあこの世界の騎士の強さなんて知らんけど。

 それでもその辺の街人の比ではなかろう。


「神竜以外にも王国史に残る事件に名前を連ねた結果、付いた二つ名が絶望の剣姫。もはや王都では口にするのも憚られる忌み名です」

「万年処女以外にも渾名がついていたのか」

「そっちはプリメロでベアトが勝手に呼んでるだけの奴だヨ。その名で呼ばれている限りアタイと剣姫は一致しねーからナ。避けられることもない。まあこんな田舎じゃ剣姫のことを知っているのも四人位しかいないけどナ」

「気を使っているのでございまし」

「なるほど」

「それじゃー淫乱雌豚っていうのはーどうなんですー?」

「それはただの事実です」

「ブヒッ」


 四人目って誰なんだ?

 俺の疑問は解消されないまま、深夜も深夜に及んだおしゃべり会は幕を閉じ、各々は割り当てられた部屋へと入っていく。

 朝まで時間が無いけど今夜こそきちんと眠ってくれよな。


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