第14話 モンタニアへ
「しかし元から馬車が通れるような十分な道では無かったがヨ……」
関所の裏手がモンタニアへのアクセスが出来る道だとアンジェリカが案内してくれた。
プリメロからみて北の国への道とモンタニアへの道が交差する場所に関所が作られているらしい。
そこは一年前に一度放棄された関所のこと。
元々が舗装されていない道であれば自然に帰っていてもおかしくない。
雑草が生い茂り道なき道となっている。
「でもここを進まないと行けないんだろ?」
「ナタと虫除けスプレーよ~」
ナタを俺に渡してくれたということは先陣をきるのは俺の役目ということだ。
俺に限って虫に刺されることは無いと思うが、念のために虫除けスプレーを全身に掛けてから気になることがあってパッケージを見る。
まず虫除けスプレーってこんな殺虫剤みたいに大容量のボンベに入っているものだろうかという疑問が一つ。
そして殺虫剤みたいな勢いで噴霧されるものだろうかという疑問の合わせ技で念の為に確認したものだ。
「お姉ちゃん、これ主成分DDTって書いてあるんだけど。人間に使うと駄目な殺虫剤だよ」
「あらぁ、効き目が強そうなやつかと思ったけど~。じゃあコッチかしらぁ」
人肌に優しい保湿成分も入っている上に良い香りまでするちゃんとした奴だ。
もっともちゃんとしたやつだからといって、この世界の虫類全般に効き目があるとは限らない。
殺虫剤で殺された虫が神様に耐性を貰った上で転移している可能性もある。
だからどうしたという話ではあるが。
「聖水も一緒に塗ればゾンビも忌避」
「塗れるかバカ」
アンジェリカがソフィアの頭をコツンと叩く。
二人は仲が良いんだな
「ゾンビ避けとまではいかなくても、聖水を塗っておけば触れられた瞬間にゾンビが倒れるってこともあるかもな」
「じゃあケイ君だけ塗っておくかしらぁ。それでもいいけど近寄らないでねぇ」
「いや、それはちょっと遠慮しとくよ」
流石に遠慮したかったので、自分から可能性を示したものの丁重にお断りする。
全員がスプレーをしたのを見届けると、雑草が覆い茂る藪へと足を進める。
目の前で邪魔をする木の枝、草の蔦などは俺が処理するが、何ぶん歩きながらの作業だ。
残った枝葉もあるが、それらについては後続のメンバーもそれぞれが処理をする。
その結果歩みの速度は遅々たるものとなる。
「まるで秘境よねぇ」
「魔物とかー突然出てきそうですねー」
「それについては大丈夫だろ。ゴブリンを探索していた時に山の魔物はついでに始末しているから数は減っているはずだ」
「ここが道とは思ってなかったけどねぇ」
ゴブリンの探索の際はモンタニアへの道があるとは知らなかった。
知っていたら少しは整備もしていただろう。
ほぼ手つかずの自然に還ってしまった山はとても険しい。
というかなにより……
「あーつれぇわ」
「休憩を要求」
「先が長いことを考えれば休憩もやむ無しです」
「ジェシィに同意でございまし」
まだ進みだして三十分でこの有様である。
俺、お姉ちゃん、イチゴちゃんが行く後ろを付いてきているだけの四人が真っ先に弱音を吐き続ける。
ジェシカとソフィアはまだ理解することができる。
二人は祭司と魔法使いであり冒険者ではないからだ。
アンジェリカとベアトリクスは冒険者のはずだがどういうことだろう。
この程度で悲鳴を上げるとは本当に昨晩一体何を過ごしたのだろうか。
「昨夜はいつまで起きていたんだ?」
「今まで……」
「寝てねーんじゃねーか!」
「そうとも言う」
思わず俺がツッコミを入れる羽目になる。
四人の体調不良の原因は完徹にあったらしい。
ゾンビハントは遊びでは無いのだから体調管理はきちんとやって欲しい。
「分かったわぁ。このままでもスピードは上がらないのだから休憩しましょう。ケイ君は先に道の整備をよろしくねぇ」
「このまま西に真っ直ぐよろしくなのでございまし」
お姉ちゃんの提案のもと女性六人はそのまま休憩を取ることになった。
俺は休憩の必要を感じなかったし、お姉ちゃんに頼まれたので先に進んで道の整備を行うことにする。
今までと同様にナタを振り回して森の木や草など邪魔な植物を打ち払う。
十メートルほどの距離を進んだところでところでふと疑問が湧いてきた。
どうして律儀にナタを振り回して道を作っていたのか?
それはジャングルを探検する気分を味わいたかったからである。
作業にナタを使用しなければならない理由はない。
あるとすればお姉ちゃんにナタを手渡されたからという義務感めいたものか。
そのお姉ちゃんからは道の整備を頼まれたが方法までは指定されていない。
ということは別の手段を取っても構わないということだ。
代わり映えしない森をひたすらナタを振り回すのにも飽きてきたので、延焼しない程度にレーザーで焼き切ることにした。
こりゃ楽ちん。
サービスで元よりも道幅を広げつつもサクサクっと道の整備を終わらせると、六人たちの元へと戻ることにする。
すると向こうから六人が連れ立って歩いてくる。
「おうっケイの旦那! 景気よくやってくれてるじゃんヨ!」
「さっすがーケイ様。このままどんどんいくのでございまし!」
「この私の魔法倍くらいはすごいですね。倍くらいですよ、倍」
「科学の力偉大。魔法ではこうは行かない。流石」
十分少々の休憩でやたらと元気になった四人組にお褒めの言葉を頂く。
さっきまで死んでいた目がやたらと爛々にギラついていやがる
悪いものでも食ったか?
「この人達大丈夫なの?」
「エナジードリンクを飲んだだけよ~。ケイ君もどうかしらぁ」
お姉ちゃんからジェシカもびっくりな成分が記載された飲料缶を手渡される。
パッケージされた商品である以上はどこかでは売っていたんだろうが……
徹夜の上でこんなもの飲まされた日にはどえらいテンションになってしまうことも仕方ない。
捨てるのも勿体ないし俺に成分の影響はないのでグビッといってみる。
脳天を突き抜けるスコーンッとした味が心地良い。
「ケイさんはー大丈夫なんですー?」
「俺に毒は効かないからな。代わりに薬も効かないけど病気にもならないし」
「読めても理解できなかたんですけどーやっぱー毒なんですねー」
「四人の惨状を見て薬だと思えるんなら飲んでいいと思うよ」
「ご遠慮しときたいかなー」
イチゴちゃんは正常な判断でこの素敵なエナジードリンクを飲んでいない。
その代わりにごく普通の炭酸飲料を口にしていた。




