第10話 お姉ちゃんクッキング
「寝る場所もきまったことだしぃ、日が暮れてしまう前にご飯にしましょうかぁ」
俺が寝る場所は決まってないんですけど?
それにも関わらずお姉ちゃんの一声で、皆が外の竈がある場所へと集まっていく。
「鍋はあるみたいですね」
「それ以外はないのでございまし」
「煮るにも焼くにも薪はいるだろ、アタイらはそれを集めとくヨ」
「渋々了承」
四人組は連れ立って森の方へと燃料となる薪を拾いに行く。
四人もいれば何か起きても問題になるということもあるまい。
「ということでぇ、イチゴちゃんはこっちでお姉ちゃんと料理の下ごしらえよ~」
「はーい! マスコットお姉ちゃん先生、今晩のメニューはなんでしょうかー」
「はい! 鍋っ!」
鍋て。
あまりにもザックリしすぎている。
「ではー続いてー具材を見ていきましょうー」
「まずはですねぇ、肉。まだ生きていますねぇ。これをぶつ切りにしていきますっ」
「なかなかースプラッタな光景が広がっていますねー」
いつの間に捕まえていたのか、それともポーチから取り出したのか。
お姉ちゃんが持ち出してきたのは一羽の得体のしれない鳥。
その極彩色の羽をさっとむしり取ると匕首でぶつ切りにしていく。
鳥の断末魔が凄かった。
「こうして切り終えた後はですねぇ、臭みを抜くために一度湯通しをしますよ~」
「この色が変わっていくところがー料理やっているって感じがしていいですよねー」
ポーチから取り出した電気式ケトルに、これまたポーチから取り出したボトルから水を入れる。
待つこと十秒、沸騰したお湯をザルにあげておいた鳥肉にぶっかける。
これで肉の下処理は終わったようだ。
「次はですねぇ、その辺に生えていたキノコ。これは傘と軸を取り外します。こうすると食べやすいんですねぇ」
「わあっ! 外国のお菓子みたいにーカラフルで綺麗ですねー!」
どう見ても毒物にしか見えない大小様々なきのこ類。
それをイチゴちゃんが一つずつ丁寧にゴミを取り除きながら、傘から軸を毟り取っていく。
触った後はきちんとよく手を洗っていることから、まともな理性は残っているようだ。
絶対毒だものね。
「これだけの量のお肉でも七人でとなると心細いと思いませんかぁ? そこでこのお豆腐。お安くってボリューミー」
お金は一切払っていないと思います。
けど食いでがあるのはうれしいよね
「匂いがいい木綿豆腐ですねー。この世界の大豆で作るとーこうはいかないんですよー」
原料が美味しくないと加工品の味もたかが知れていますものね。
本当に誰があんなもの持ち込んでしまったのか。
育てるのに手間がかからないとはいえ不味いのは頂けない。
「このまま使うとどうしても煮崩れしやすいのでぇ、焼き豆腐にしておきたいですねぇ。ここに焼き目をつけておいた豆腐があるのでこれを使いましょう」
最初っから焼き豆腐を出しときなよ。
使わなかったら無駄になっちゃうじゃん。
生の木綿豆腐は鍋に使わず余るようなので、後で俺が冷奴として頂くことにする。
「この時点で結構カラフルなんですがぁ、もっと緑があった方が健康的でいいですねぇ」
「どんなーお野菜をいれるんですかー」
「フリーズドライのキャベツとほうれん草があるのでぇ、これでそれっぽくなりますねぇ」
「わーパリパリ。これじゃ味が全く想像できませんねー」
今までの具材が調理用の鍋に放り込まれる。
明らかに食べられないものは無視するとして存外美味しそうな見た目をしている。
「さて大事なのが味付けよ~これを失敗するとせっかくの材料が無駄になっちゃいますねぇ」
「和風、洋風、中華風、一体どんなー味になるんですかー」
「シンプルに塩よ~」
「わーい。素材の味が活きますねー。なにかこだわりがあるんでしょうかー」
お姉ちゃんがポーチから3つのパッケージを取り出す。
複数の塩を混ぜて使うようだ。
「これは多分ねぇ、名のある海で作られた海塩よ~」
「きっと綺麗な海なんでしょーねー。白い砂浜がー目に浮かびますねー」
「岩塩」
「硬そうですねー」
「そして最後に入れるのがぁ、この科学の叡智グルタミン酸ナトリウムよ~」
「絶対美味しくなるやつですねー」
お姉ちゃんってうま味調味料が好きだよな。
以前のハンバーグでも大量に使っていたのを思い出す。
「これで万事オッケーよ~。後は火にかけるだけねぇ」
「燃料係の人たちのーお帰りがまちどうしいですねー」
「以上、お姉ちゃんクッキングのお時間でしたぁ」
ツッコミどころしかない割にまともに料理が進行して完成してしまった。
いや、まだ鍋を火に掛けてはいないんだが。




