第8話 尋問
赤レンガ前のベンチでお姉ちゃんと取り留めのない話をしていたところ。
ソフィアの所にカチコミを掛けに行った三人が帰ってきた。
三人が帰ってきたというか、帰ってきたのは四人だった。
ロープで拘束されたソフィアが付属している。
その姿は犯罪者の連行そのものだが――
「おかえり。結果は上々のようだが、連れてくる必要はあったか?」
「当然でございまし。お昼が終わったらゾンビハントの時間でございまし」
「私も久しぶりに本気になってしまいました」
「あたしもー縛るのを手伝ったんですよー」
「不当逮捕! 弁護士を要求!」
嬉しそうに戦果の報告をしてくる三人と無実を訴える一人はそのまま赤レンガの中へと入っていった。
しかしベアトリクスの言うゾンビハントとはどういうことか。
それも昼食後から始めるという。
気になるというか、絶対に巻き込まれる確信があったので起き上がるとお姉ちゃんと連れ立って赤レンガへと入る。
建物に入るやいなや早速アンジェリカとベアトリクスによる尋問が始まっていた
「一部始終は見ていたからナ。否認しても無駄だヨ」
「聖水であることは疑いのない事実」
「コレが聖水って? そりゃ聖水かもしれないが他に渡せるものがあったんじゃないかヨ?」
「そうでございまし。井戸水でも渡せばよかったのでございまし」
それでは詐欺では? と思うが、ベアトリクスの認識では神殿の聖水はただの水だったっけ。
そもそも効用を謳わなければ神殿としては詐欺にならないか。
今回俺たちは効果を疑いはしたものの、ソフィアからは効果があるものとして渡されている。
「ただの水はゾンビに無効果。私の聖水は邪悪を祓う」
「ならせめて小瓶に涙を詰めるくらいで良かったのでございまし」
「唾液や汗でも良かっただろうがヨ。いや……良くはないかナ」
「二人共飲む前提で追求を進めすぎでは?」
聖水についての追求が進められているが、体液を聖水として詰める発想から離れた方が良いのでは?
いや? 二人共ソフィアの体液には聖なる力が存在していることが前提か。
「確認しておきたいんだけど、渡されたこれは聖水としては正しいのか」
「聖水の定義がなんだって話になるがヨ……聖なる力を持った液体が聖水っていうのならこれは聖水で合っているヨ」
「神殿の聖水とは神に捧げられた水でございまし。普通ならばただの水のままでございましが、ソフィアは仮にも聖女と呼ばれる存在。ただの水にも聖なる力を付与できるものかと思っていたのでございまし」
神が即ち聖ではないということで、捧げたところで聖なる力は与えられないのか。
そりゃそうか。
神の仕事は俺みたいな転移者をぶん投げてくることにあるんだし。
「ただの水を聖水にすることってできないものなのか?」
「不可能。聖なる力は邪悪なる力にのみ反応し水は無反応」
「そうなの?」
俺はジェシカに向かって尋ねてみた。
魔法のことならこの場で一番詳しいのだから、何かしらの答えは得られるだろう。
「水か火の属性だけが水に影響を与えることが出来ます」
「温めるか冷やすかしか出来ないか。極めて普通だな」
「水は水以外の何にもならないだけですよ。毒水も水に毒が入っているだけです」
聖水を遠心分離して聖なる力を抽出ってのも嫌だな。
科学的な方法でより分けられることが出来てるってのが嫌だ。
「ということは……私めらは神殿に偽りの聖水を飲まされていたのでござい……まし?」
「飲まされたってーか一杯食わされたってーかヨ」
「知っていて言っているでしょ」
「話の流れに乗っかったのでございまし」
神殿への憤りはこの際忘れていて欲しい。
この聖水にはきちんと聖なる力が含まれていることは分かった。
結局のところゾンビの倒し方までは分からずじまいだが。
「それでとっちめるだけなら神殿でやればよかったと思うのだが、連れて来たってことはゾンビ狩りに連れて行っていいのか?」
「ソフィアだけでなく私めもそこの万年処女野郎も一緒でございましっ!」
「えっ? アタイもかヨ」
ベアトリクスはアンジェリカと何の話もつけていなかったらしい。
そうだよな、神殿へのカチコミから戻ってからここまでそんな話してなかったのだから。
悪いとすれば一緒になってソフィアを尋問してしまったアンジェリカが悪い。
「私も同行します。ゾンビは研究材料としても興味深いですから」
ジェシカは参戦理由が不穏だが、死霊魔術に対抗できる可能性がある魔法使いが一緒なのはありがたい。
「わたしは当然としてぇ、イチゴちゃんはどうするかしらぁ?」
「あたしも行きますよー。最近皆さんと一緒に剣の使い方もー練習してますからねー。つよつよですよ今のあたしはー」
イチゴちゃんも日々やることがないので、魔法の勉強以外に剣の練習をしている。
教師はお姉ちゃんではなく、そこらに転がっている協会の冒険者だ。
いつか彼等と同じようにシオマネキみたいなごつい利き腕になってしまわないかは心配だ。
彼女の愛剣である風の細剣は軽く扱えるからそんなことにはならないとは思っているが。
「でも相手ゾンビだぞ。腐った死体なんだが本当に大丈夫か」
「あたしーゾンビ映画には自信ありますよー。それに忘れているかもですけどーあたしも一度死んでるんですよー。腐ってないゾンビってやつですねー」
「って言ってるからぁ大丈夫よケイ君」
一度死んでいるから大丈夫という思い切りを持てるのは冒険者に向いた性格なのかもしれない。
ただ自信の出どころがゾンビ映画っていうのは大丈夫なのだろうか。
あとで泣いても知らんぞ。
「ボクは一緒に行けないので、応援してますよ」
「チェルシーちゃんは冒険者じゃないし気にしなくて良いのよ~。おいし……温かい食事を用意して帰りを待ってくれていればぁ」
丁度昼食となるスープの給餌のため近寄ったチェルシーは参戦しないようだ。
ただの食堂のウェイトレスをやっている娘っ子で、冒険者でもなければ戦闘能力を保有していないから仕方がない。
「抗議。私も冒険者に非ず」
「聖職者っていうのは、時に無償で人々のために働くんだヨ」
「祭司というのは清らかな心で人々に尽くすものと昔から言い聞かされたことを思い出します」
確かにジェシカの言うことはソフィアの口から聞いた話である。
ソフィアも抗議はしているものの三対一で分が悪い。
「準備が必要。晩ごはん大事」
「そんなものはマスコットがなんとかしてくれるからヨ。善は急げと行こうヤ」
「アンジェには落ち着きが必要」
「そうですね、お昼ごはん食べて落ち着いてから出発するのでございまし」
チェルシーが持ってきてくれた昼の食事も朝と同じでスープである。
具が豆から芋に変わっているという変更点はある。
これはうれしい――訳あるかよ、不味いことに変わりはない。




