第3話 聖水を求めて
ジェシカのところを訪れた時にはしれっと付いてきたチェルシー。
しかし何故か今回丁重にお断りされた。
そのためソフィアさんのところを訪れるのは俺、お姉ちゃん、イチゴちゃんの三人だ。
チェルシーに聞いた道順通りに街を歩くと重厚な石造りの建物が目に入る。
その造りは重厚で神殿といった感じではあるが、こぢんまりとした建物である。
ベアトリクスが話した特徴とも合致しているからここで間違いない。
扉は開け放たれているのでそのまま連れ立って中へと入る。
神殿の中を見回すと、いくらかの長椅子が整然とおかれている。
奥には説教用のためか教壇が配置されている。
最奥の祭壇には神を模したものと思われる像が安置されている。
「神ってあんなんだったっけ?」
「お姉ちゃんの記憶のとは違うかなぁ?」
「あたしもーかなり違うと思いますねー。何でしょーかあれ?」
「ここになければ神の姿を模したものとは思わんよな」
誰も居なかったため、話は自然とやたらと目につく神像についての話になる。
そりゃ実際に神に会ってこの世界に来たのだから話題にもなって当然である。
そしてその姿ときたら記憶の中の神とは尽く違っているのだから疑問符しかない。
「どちら様か。あら、見かけない御仁」
話し声に気づいたのか、左奥にあるドアが開き全身を覆い包む白のローブを身にまとった女性が現れた。
腰のあたりをロープで縛ってあり、なんとも修行僧といった感じの出で立ち。
ダルっとした衣装にも関わらず出るところが出ているのがすごい。
またフードがついているが頭に被っておらず、よく手入れされたブロンドのふわっとした長髪があらわになっている。
「ここの祭司のソフィアさんですか? 俺は冒険者協会のケイというもので、こちらがマスコットとイチゴです」
俺の紹介に続けて二人も軽く挨拶をする。
「はい。ベアトリクスの所の御方。見た所、隣の二人は転移者のよう……何の御用?」
ソフィアさんが俺を転移者でないと判断したのは服装からだろう。
服装にこだわりがない俺は街で手に入れた服に袖を通している。
一方お姉ちゃんはTシャツにデニムパンツのカジュアルな装いで、イチゴちゃんはブレザーとスカートという学校の制服姿。
街の住人と一線を画す装いをしているのであれば一目瞭然だ。
「いえ、俺も転移者なんですがね。用というのは山でゾンビが発生したんですが、退治するのに聖水が使えるんじゃないかという話になり、頂くことが出来やしないかと思いましてね」
一応自分の立場を訂正した上で本来話したいことに話題を移す。
あくまでゾンビへの対策がここに来た目的なのだから。
「山にゾンビが出没……成程。それは厄介なものが相手」
「ゾンビについて何か知っているのですか」
「多少。説明が難しい……この世界の神の話もあり長くなるが時間は大丈夫?」
「神様のお話からぁ?」
「はい、仕方なく」
「時間のことなら気にせずに話してください」
この世界の神――それはチェルシーが信じているように転移者を送り込んでくるものがそれに当たる。
それがゾンビとどう繋がるのか、それについてソフィアさんが話してくれた。
話をまとめるとこうだ。
聖なる力とは神によって与えられる力ではなく、個人が生まれ持った素質である。。
そのため神殿の祭司だからといって必ずしも聖なる力を持っているわけではない。
では神の力は聖なるものなのかというと必ずしもそうではない。
神の力とは神が送り込んでくる転移者そのものである。
その善悪は転移者個人によって異なるため、必ずしも純粋に聖ということはない。
どちらにしろ転移者は時として全てを圧倒する存在である。
その超常の力に対する尊敬こそが本来神殿が信仰する対象である。
ただし今は因果が断ち切れており、神のみを盲目的に信仰して崇めている。
一方、ゾンビとは悪霊を操る死霊魔術によって動いている、かつて生物であった物体。
つまり脳ではなく魔力によって行動を支配されている状態である。
魔力以外の原理で動くゾンビはもう生物と言って過言でないため普通に殺せるという身も蓋もない話。
それではどうやってゾンビと死霊魔術に対抗すればよいか。
対抗方法は二つある。
一つは魔力で動いているのだから死霊魔術への対抗魔法を使用すること。
聖なる力ではないがゾンビが持つ魔力を打ち消すことで無力化することが出来る。
もう一つは悪霊を祓う聖なる力を用いること。
ゾンビを動かす邪悪な魔力を討ち滅ぼすことが出来る。
「つまりどういうことなんだよ」




