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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
2章 芋と豆と麦の世界
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第1話 芋と豆と麦

 飯が不味い。


 これは既に昨日の夕食の時点で気づいていたことではあるが、やはり気になって仕方がない。

 お姉ちゃんがくれる調味料をつけているからこそ食べられる代物で、それがなければ食べる気にもならない。

 飯が不味い原因はハッキリとしていて単純明快だ。


 芋――蒸されたか茹でられたやつ。

 豆――煮られたやつ。

 麦――パンまたは粥。


 注文して出てきた朝食の顔ぶれがこれである。

 炭水化物しかねぇ……いや、豆と麦にはタンパク質も含まれているがそれは問題じゃない。

 作物の品種が悪いのか、育った条件が悪いのか、その両方が原因なのか分からないがその品質は決して良くない。

 ただでさえ不味い素材に乗っかる味は薄い塩味だけであり、不味さを誤魔化しきれていない。


「何か……もっと野菜や肉が出てきたりしないものかな?」

「ケイ君、バターだけじゃ足りないの? あっ、分かった野菜ジュース。それとも牛乳を飲む?」

「ありがたいんだけどさ、そうやって堂々と取り出さないでくれるかなお姉ちゃん」


 芋とパンにバターを付け、豆にトマトソースを掛けて食べながらボヤいた俺に、お姉ちゃんがスチール缶に入った野菜ジュースを手渡してくる。

 プシュッという軽快な音をさせて開缶すると、ゴクゴクと一気に飲み干してしまう。

 空き缶はお姉ちゃんに返してポーチに入れておいてもらう。

 例えゴミであろうとも、この世界に残しては何かと悪影響を及ぼしそうなものは始末しておくに限る。


 お姉ちゃんが所持するポーチからはハンカチのような日用品から、バターやトマトソース、缶ジュースといった食料品が出てくる。

 それに限らず昨日は白鞘の匕首という鋭利な刃物まで取り出していた。

 到底この世界には存在しないであろうものすら何でも出てくるというとても恐ろしいものである。

 しかしポーチから出てきたものを他人に分け与えず、二人で消費する分にはこの世界に影響は無いと考えている。


 この世界への影響度合いを考えればいずれは生まれだされる可能性があるアイテムよりも、異世界の知識を持って行動する転移者本人のほうが大きい。

 それこそ異質な思想を持ち込み広めると、影響は限りなく大きくなる。

 まあ俺にはそのつもりが無いからどうでも良いことだが。


「その鞄は本当に便利な道具だな。そいつも神様に願って貰ったのか?」

「いや、お姉ちゃんが持ってただけだよ。俺が頼んだわけじゃ無いさ」

「本当にマスコット嬢しか願わなかったのか!」

「そりゃ、叶えてくれる願いは一つって言われたからな。ディックはアレを大きくしてもらった以外のことは無いのか?」

「思ってたのよりデカ過ぎたぐらいさ。皮も一緒だから笑うしか無かったよ」


 同じテーブルで会話をしているのはアレがでかすぎるディックと、毛量が多すぎるフッサ。

 お姉ちゃんの盛られ具合を前提に彼等を見ていると、神様は注文以上にお願いを聞いてくれているところがあるように見える。

 であれば、このポーチはお姉ちゃんが俺を甘やかしてくれるためにあるのかもしれないとも考えられる。


 俺は単にお姉ちゃんを願っただけでなく、『若くて綺麗で可愛くて、いつでも俺を甘やかしてくれる優しい巨乳の』と前置きをつけたのだ。

 そのことが影響しているからこそ、思いもしない特典がついてきているのだろうと俺は推測している。

 逆に言えばディックとフッサが神にした願いは余りにも単純だったのだろう。

 『適度に大きく』とか『適度にフサフサな感じで』とか前置いていたら彼等の悲劇は無かったと思いたい。


「はい、食後のプリンもあるわよ」

「ありがとう。うん、甘い」


 つい手渡されたカッププリンにも手を付けてしまったが、それを最後のデザートにして俺とお姉ちゃんは朝食を終えることにした。

 食器を片付けるためウェイトレスのチェルシーに声を掛けようとしたとき、ベアトリクスがこちらに近づき話しかけてくる。

 彼女はここプリメロの街の冒険者協会の代表をしている。


「おはようございますケイ様にマスコット様。チェルシーさん、お二方の代金は私めにツケておいてくださいまし」

「あいよっ!」

「おはよーベアちゃん。良いのよそんなことしてくれなくても。朝食のお金くらいは残っているんだから」

「えらく気前が良いなぁベアトリクス……何か俺たちに頼み事でも?」

「はい。優先して始末して頂きたい魔物がございまし。それと冒険者協会のシステムを説明しておきたく」


 用件を事務的に告げたベアトリクスの顔は、薄化粧であるが唇に引かれた(べに)が鮮やかに引きたてている。

 瞬時にベアトリクスを警戒し牽制しようとしかけたお姉ちゃんの太ももにさっと手を置く。

 話が変な方向に拗らせないよう諌めるためである。

 

 ベアトリクスの話は聞いておくに越したことがないはずだ。

 不味いとはいえ朝食をおごってくれるのはありがたいし、何より昨日は協会のシステムを詳しく聞けていない。

 本題の魔物についてはお金のために今日も何かしら倒さなければならない。

 何一つデメリットがなく、メリットしか無いじゃないか。


「分かったよ。昨日は説明らしい説明を受けていないし、色々と話を聞かせてくれるならありがたい」

「それではあちらのカウンターまで来てくださいまし」

「行こう、お姉ちゃん。」

「分かったわ」


 ベアトリクスが指差したのは食堂のカウンターの左手にある、冒険者協会の受付だ。

 彼女の後について二人でそこまで移動する。

 そしてカウンターの左横の壁に位置する、ごちゃごちゃと紙が張り出された掲示板の前に案内される。


「ここには魔物の手配書を張り出してございまし。手配書には魔物の特徴と懸賞金の額が記載されてございまし。今は場所が足りないので、ある程度時間が経過した手配書は別に保管してございまし」

「記載されている魔物を倒して首を持ってくると、ここに書かれている金額が手に入るってことか。分かりやすいね」

「いえ、これは懸賞を掛けられたときの金額ですから、実際には協会の取り分である二割を引いた額が報奨金として冒険者諸兄に支払われるのでございまし」

「昨日の大蛇さんが銀貨四枚だったのはそれが理由なのね~」


 昨日ここに駆け込んできた婆さんが払った金額は銀貨五枚だった。

 その後、蛇を退治した俺とお姉ちゃんが受け取った金額は銀貨四枚だった。

 一律二割差っ引かれるのであれば分かりやすくて良い……あれ? 引かれるのは協会の取り分だけ?


「報酬のことでもう一つ教えて欲しいんだが……税金はどういう扱いになるんだ? この世界にもそういったものがあるよな?」

「冒険者諸兄の収入に掛かる税は無く、無税でございまし」

「無いって言い切れると言うことは、つまりは明確な根拠があるってこと?」

「はい。魔物を排除するという仕事は本来であれば国家の責務でございまし。その一部を冒険者が肩代わりすることを条件とし、報奨金を無税とする協定を結んでいるのでございまし」


 きっぱりと言い切ったベアトリクスの説明はもっともらしい理由ではある。

 だがしかし何か訝しげな雰囲気を感じる。


 所得、嗜好品、資産……税というのはあるところから何やかんや理屈をつけて絞り上げるものだ。

 もちろん国が金持ちであれば無理に徴収することもないが、街に漂っているうらぶれた様子からはそんな経済的に余裕があるようには見えない。

 であれば――


「冒険者からは取り立てることが出来ないっていうのも大きな理由なのかな?」

「ご明察でございまし。武装した冒険者の、それも集団というのは一つの武装勢力でございまし。そこから取り立てることは国家といえども簡単にはいきません」

「武力ってのは、どの世界いつの時代も恫喝の道具でしかないってことか……」

「ええ。その屈強な冒険者諸兄が匙を投げた、こいつを優先して始末して頂きたいのでございまし!」


 ベアトリクスがビシッと指差した手配書にはシンプルにこう書かれていた。


『牛 金貨百枚』


 牛、牛か……牛って魔物か?

 まあ、話を聞いてみよう。


「牛さん! 今夜は焼肉よ!」

「金貨百枚がどれくらいの価値かはわからないけど、こいつってそんなに厄介なの?」


 昨日、ベアトリクスは蛇に対して銀貨五枚の懸賞を掛けたが、金貨五枚はいけたとその後の酒を飲みながら反省していた。

 その悔しがり方からして、この世界でも銀より金の方が価値があるのは分かる。

 しかし金貨の銀貨に対するレートが如何程かは分からない。

 それにこの世界の牛が、俺とお姉ちゃんが思っているものとは違う可能性がある。


「銀貨十六枚で金貨一枚といったところでございまし。ですからこの金額はお二人様が向こう一年は暮らせる計算になりますかね。ただ、これの困ったことはただの牛ではなく、まるで巨大な岩のようなものでして」

「岩なら動かねぇんだろうから放っておけばよいのでは」

「それが隣街への唯一の街道に居座っておりまして、他の街と行き交いが封じられているのでございまし」

「街に活気が無いのはそれが原因ってこと~?」

「まあ、そうなるのでございまし」


 この街がやたらと不景気に見えるのは、他の街との間で交流が無いからということらしい。

 飯が炭水化物しかないのも、このことが原因かもしれない。

 ならば報酬も魅力的だが、生きる活力を得るためにもやらなければならない仕事かもしれない。

 飯が不味いのは勘弁して欲しいのだから。


「居座っているのが街道ってことは、見えてる山とは逆の方向でいいんだよな?」

「ええ北にある山側ではなく、南の開けた方に進んで頂ければよろしいのでございまし」


 街の北側には山ががそびえ立っている。

 その山を越えれば隣の国へと繋がるらしく、自然の国境線になっているということだ。

 山にも当然の如く魔物が蠢いているということで、人の立ち入りは難しいく隣国との間でも交流はないようだ。


「お姉ちゃん、まずは見るだけでもいいから行ってみるか」

「そうね。どれくらいお肉が取れるのかお姉ちゃん気になるわ」


 すでに牛に勝つ算段でいるお姉ちゃんはやはり頼もしい。

 負ける気は一切しないので俺の気分も物見遊山だ。

 さっさと巨大な岩と謳われる牛を確認してこようじゃないか。


「それじゃあ行ってくるよ」

「お気をつけて」

[お知らせ]

ゆるゆると更新していきます。

2章は全6話で6日連続更新です。

[登場人物紹介]

 ケイ君 この作品の主人公。方角に詳しい。

 マスコットお姉ちゃん いろんなものがどんどん出てくる不思議なポーチを持つ。

 ベアトリクス 別名:淫乱雌豚。冒険者協会プリメロ分会長。腹もあそこも真っ黒だ。

 チェルシー 食堂のウェイトレスさん。

 ディック アレが大きい。

 フッサ 髪の毛の量が凄い。

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