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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
4章 聖女の聖水と死者の村
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第2話 アンジェリカとベアトリクス

 お姉ちゃんからの砂糖を断ったベアトリクスが呆れた顔をしてボヤく。

 砂糖を断った理由は彼女が無糖ストレートのお茶を好むという訳だからではない。

 物資が欠乏した時に心を乱さないよう日頃から身に余る贅沢品は控えているとのこと。

 実のところは三本欲しいとは以前に聞いた話だ。


「その女祭司のことに詳しいのか?」

「ソフィアとは初等学校から机を並べていた同期でございまし。私めからお話をしても良いのですが、聞かない方が先入観を持たないのございまし」


 ベアトリクスの旧知の間柄であるという人物がこの(プリメロ)に結構いる。

 魔法使いのジェシカに今回のソフィアさんで二人。

 いや、冒険者共同体の管理者をしているアンジェリカも含めると三人になるのか。

 

 全員この街で生まれ育っているのであれば不思議な話ではないが、他所の街から来ているのだから世間は狭いのか。

 ベアトリクスとジェシカが王都の出身ということだから、おそらくソフィアさんも同じだろう。

 

 プリメロはセントロ王国の北の外れに位置している。

 つまりは辺境の土地になるわけだが、その割に王都出身者が多くいるように思える。

 王都というのだからこの街に比べて段違いに栄えているだろう。

 どうしてこんな何もない街で暮らしているのだろうか。


「話を聞いた冒険者さんが突撃しては翌朝に死んだ顔で帰ってくるよね。ボクの幼馴染が何人も手遅れになってしまったよ」

「なにそれ。お化けに化かされたとでも? 聖職者でしょ」

「聖職者というか性職者というか生殖者というか」

「ろくでもない人間ということね。ケイ君、やめておきましょう」

「そうは言ってもお姉ちゃん。聖職者といえば死に近い存在だからゾンビについて知見があるかもしれん。一度会って話を聞く価値はあるんじゃないかな」


 ベアトリクスの言い振りから察するに、ソフィアさんは物凄く(しも)方向が緩い女性と思われる。

 なにせ淫乱雌豚の異名を持つベアトリクスが呆れた顔をするのだから。

 これは相当なものに違いなく会わず済ませられるものか。


「急に早口になってー、なんかーケイさん。ゾンビのことよりもーソフィアさんが気になってませんかねー」

「お姉ちゃんもそれが心配なんだけどねぇ……」

「マスコット様、安心するのでございまし。男だけでなく女もでございまし」


 ゴクリ。

 目を見開いたお姉ちゃんの喉が鳴る。

 安心ではないと思うが……


「そうして付いた渾名が淫聖(いんせい)ってんだから馬鹿げてるヨ」

「知っているのかアンジェリカ。『淫聖』何たる響きだ。今すぐ行って逝きたい。ッツ……」


 お姉ちゃんに思い切り足の甲を踏まれて低くうめき声を上げてしまう。

 かなり怒っているねこれは。


「大丈夫かオイ。ソフィアはアタイの昔からのツレだからナ。アレの男癖の悪さはセントロに留まらず大陸に比較対象がない酷さだヨ。アタイらの代の男は皆アレに男にされ、そして男として使い物にならなくなった」

「うんうん。悲しい事件だったのでございまし」


 男として使い物にならなくなるとか折角男になれたのに勿体無い話だ。

 一体どんなハードな体験をしてしまったんだろうか……あれ、今アンジェリカも「昔から」って言ったよな?

 冒険者として昔から顔なじみというより、それ以前からの幼馴染なのか?


「うん? アンジェリカとベアトリクスも同窓だったのか? それも古い関係の?」

「話してなかったかヨ?」

「言い回るものではないのでございまし」

「てっきり冒険者になってからの付き合いなのかと。そういった割に仲が……」


 悪いんだっけ?

 良いんだっけ?

 どっちだっけ?


 最初に出会ったときこそ口汚く罵り合っていた。

 いや、日々罵り合っているけれど仕事は協力してやっている。

 

 それこそ足を引っ張り合うところを見たことがない。

 今もそうだが飯だってよく一緒に食っているし雑談もよくしている。

 つまり――


「良いんじゃないかしらぁ」

「いーですよねー」

「良いですよ」


 皆から見ても二人の関係は良好らしい。

 同じ建物で四六時中顔を突き合わせて仕事をしているのに仲が悪いとやりにくいか。


「仲が良いといっても『この人格』のアンジェとは喧嘩友達みたいなものでございまし。悪態もわざとついているのでございまし」

「アタイも『この体型』の雌豚とは喧嘩友達みたいなもんだヨ。食料も底をついてしばらく鶏ガラみたくなってたのが懐かしいヨ」


 わざとその態度なのであればただのキャラ付けでは?

 そういう感想しか思い浮かばない。


「そうそう、神殿には聖水があるのでございまし。今お騒がせの動く死体に使えるのでないかと思うのでございまし」

「聖水? ゾンビの話だけ聞きに行こうかと思っていたんだがそれのことも聞いてみるか」

「ええ、死体が動いている理由は分からないのでございましが、こう悪魔的なものには神聖的なものをぶつけてみるのが相場でございまし」

「マイナスにプラスを掛けるってことねぇ」

「それじゃあマイナスのままですよー」

「ごめんごめん。乗算じゃなくて加算だったわぁ」


 要らぬボケとツッコミが入ったが、やはりゾンビ退治のためにもソフィアさんの元を訪れるのは一案あるようだ。


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