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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
4章 聖女の聖水と死者の村
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第1話 手配魔物・動く死体

「動く死体ってー、やっぱり映画に出てくるーゾンビみたいなのですかねー?」

「まさにそのゾンビじゃないかしらぁ?」

「じゃあ噛まれちゃうとー感染しちゃいますねー。絶対会いたくないですねー」

「ガブッてされたらゾンビにねぇ……」

「細菌やウィルス由来なら人から人に感染してもおかしくはないが、それが原因で自我を失って人を襲うまでになるだろうか?」

「そうねぇ。死体を動かす方法なんて幾らでもあるしぃ、魔法にはそういうのないかしらぁ?」

「問題があるとすればゾンビと生きている人間をどう見分けるかって所だが……」

「そりゃー腐ってるんじゃないですかー?」

「できたてホヤホヤでもかしらぁ?」


 いつものように赤レンガでの朝食後、お茶を片手にお姉ちゃんとイチゴちゃんとの三人で話し込んでいた。

 

 お姉ちゃんといっても別に俺の実姉という訳ではなく、名前をマスコット・チアーズという。

 俺が神に願った結果となりにいるのだが、この世界に来る以前の経歴は不明。

 

 イチゴちゃんは自称日本の女子高生なのだが、俺は女子高生という点において何か怪しいところがあると思っている。

 といっても態々口にする事でもないので直接伝えたことはない。

  

 そういう俺はケイという名前を名乗っているが本名ではない。

 本名は長いし名前というにはあまりにも不便なので今の名前も気に入っている。

 

 三人の話題は真新しい手配書に記されている動く死体という魔物について。

 そこにウェイトレスとしての一仕事を終えたチェルシーが料理を載せたプレートを手に合流してくる。


「死体を操ることができる死霊魔術というのがあるらしいですよ。神に感謝を。いただきます」


 神へ簡単な祈りを捧げると、豆のスープに口を付けて渋い顔をする。

 自分の父親が作る食べ慣れた料理でも不味いものは不味いということだ。

 食べる手を止めた彼女を見かねたお姉ちゃんが類状コンソメスープを投入して手助けをする。


「そういえばー、信仰の冒涜、神への反逆よーってジェシカ先生が言ってましたねー」

「よく分かりませんが魔法ですらないとも。何かあるらしいですよ。そもそもあの人に信仰心ありますかね?」


 ジェシカは魔法使いで魔法を教えることを仕事としている。

 それとは別に家の裏に広がる畑で怪しげな植物の栽培に勤しんでおり、どちらかというと後者が本業だと思う。


「何かあるってどういうことだよ? しかし神への冒涜ねえ……チェルシーと意見が合うがあの女が言えたセリフか? まあ言うなれば一番生死を弄んでいるのがその神なんじゃねえかなと俺は思うが」

「良いこと言うわねぇケイ君」

「言えてますねー」

「だろ。神なんてろくなもんじゃねえ……って、チェルシーは神の存在を信じているのか?」


 俺が前の世界で命を失った後、この世界で生活出来ているのは神の手に拠るものだ。

 イチゴちゃんもそうだし聞いていないがお姉ちゃんもそうだろう。

 俺たち転移者は実際に神と対面しているからこそ神の存在を認めている。

 それは盲信ではなく事実からくることだ。


 しかしチェルシーはこの世界で生まれ育った人間である。

 普通に生きていて神の力を目にするようなことはあるだろうか。

 俺はこの世界の宗教観について一人の少女に問うてみた。


「神様と対面したことはありませんが、神様が存在しなければ説明がつかない日常に暮らしていますから」


 そう言ってチェルシーはスープ皿にスプーンを置き、そのままスープ皿を持ち上げる。

 頷いたお姉ちゃんを見て彼女が笑ったことで、類状コンソメスープのことを言いたかったことが分かる。

 けれどそれ君のお父さんが作ったスープですよね?


「あー、そっかー。あたし達が神様が居ることの証明になるんだー」

「そういうこと!」

「じゃーあたしって天使なんですかねー。神様の使いってやつー」


 イチゴちゃんとチェルシーは二人でキャッキャする。

 年齢が近い二人はとても仲が良く、今では週に三回ほどジェシカ先生の魔法教室に一緒に通っている。

 その頻度に反して魔法に関する何かが上達したという話は聞いたことがない。


「それに毎週欠かさず神殿にお祈りに行っているんですよ。最近は望む願いもありませんけど」

「神殿?」

「へーそんなところがあるんだー。遊びに行ってみよーかなー」

「神聖な場所に遊び半分で足を運ぶのは良くないと思うわよ~」

「いえいえ、それとは関係なくあそこに用が無いのに訪問するのは止めておくのでございまし」


 お姉ちゃんの言葉を肯定するのかしないのか。

 やってきたベアトリクスはテーブルに豆のスープが入った皿とティーカップを置き着席する。

 彼女はプリメロの街の冒険者協会の管理者をしている。

 建物に入った時には受付のカウンターに姿は見えなかったので、丁度身支度を済ませて二階からフロアに出てきたのだろう。


「何か不味いものでもあるのか?」

「このスープより不味いものもそうは無いのでございまし。ではなく神殿とは名ばかりで狭い礼拝室と祭司の寝所があるだけの建物。しみったれたこの街の規模に準じた簡素なもので面白いものではないのでございまし」

「それじゃあ、そこにいる人。祭司さんに行くべきでない不味い理由があるのかしらぁ?」

「噂はともかく普通の祭司様ですよ? 女性というのは珍しいのかもしれませんが……ありがとうございます。前の人はお爺さんでしたが他の街ではどうなんだろ?」


 お姉ちゃんがティーカップを手にしようとしたチェルシーに紙包装のスティックシュガーを手渡す。

 この世界でも砂糖は大きく白砂糖と黒砂糖のニ種類あるという。

 現在プリメロの街で手に入るのは黒砂糖だけだという。

 

 白砂糖は北から、黒砂糖は南からもたらされるものらしい。

 今は北の国との交易は途絶しているため白砂糖が手に入る状況ではない。

 

 北の山を集団で闊歩していたゴブリンこそ排除したが、今度は動く死体が出現。

 そういうわけで未だに北の国へ続く山道は不通となっているからだ。

 手元の手配書もその動く死体を排除するために商人たちが金を出し合って作られたものだ。

 ゴブリンの時から相変わらず、死体が動いている以上の情報が特徴として載っていない素晴らしい手配書だ。


「いえ結構。しかし、その噂というのが悉く事実だから質が悪いのでございまし」

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