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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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EXTRA ストライプキャット・2

 プリメロの街の外れ。

 そこに収穫した穀物を保管しておくサイロが立ち並んでいる。


 街の外れにあるのは単純な話、畑に近いからだろう。

 そう思っていたのだが。


「まるで要塞ねぇ」

「お城ってー本当はこういうのを言うんですよねー」

「天守とか城館といった立派な建物は城の一部で、壁や堀が防衛機構の主体だな」

「街のあったりなかったりする板塀と比べると大したものよねぇ」

「領主の屋敷の石垣がしょぼく見える。というよりあれはただの目隠しのための壁か」


 目の前のサイロ群の周りは盛り土の壁で固められ、さらにその周囲を水壕が張り巡らせられている。

 防衛能力は街や領主の屋敷に比べて格段の差がある。

 外部との出入口は一つだけ存在し、そこは跳ね橋となっている。

 気になるのはその橋の操作を行うのが堀の外側であるという点だが。


 所々に物見櫓のような高層建築が幾つか建っているが、その上部には揃って人影が見られない。

 それは外敵の襲来を予見するための設備にしてはおかしくはなかろうか。

 逃げたストライプキャットを探して走り回っているのだろうか、それとも――


「あれって監視のためのものかしらぁ?」


 お姉ちゃんが物見櫓に対しての疑問をぶつけてくる。

 ある点において疑わしいものがあり、至極ごもっともなご意見である。


「橋も含めて構造が監獄のようにも見えるが、梯子が取り外せる仕様はおかしく見えるよな」

「監視するんじゃなくてー何かから逃れるために登るみたいなー?」

「昇った後に梯子を外すのよねぇ。そんな気がするわぁ」


 跳ね橋を操作するための小屋に人がいるのを見つけたので橋を降ろしてもらう。

 橋の動きスムーズなのは頻繁に操作されているからだろうか。

 つまり人の行き来があるときだけ橋が降りていて、通常はサイロは隔絶された環境にあるとも。


 中に入るとすぐに空気がおかしい事に気づく。

 漂う雰囲気が、ではなくて漂う臭いが、だが。


「動物園みたいなー臭いがしますねー」

「ストライプキャットかしらねぇ」

「ただの猫がここまでの臭いになるかね。大型の肉食獣でもいるのかって感じだよ」

「「……」」


 二人から返事がないのは二人ともストライプキャットの正体について何か思うところがあるからだろうか。

 未だ確証はないとはいえ不穏な雰囲気は確信に変わってきたと思う。


 三人で立ち止まって辺りを見回してたところ、重武装をした二人組の兵士達がこちらに近づいてきて声を掛けてくる。


「あんたらは冒険者……でいいんだよな?」

「ボケているのか。こんなトンチキな服装した街の者はおらんわ。知っている顔でもない」

「見ての通り三人とも冒険者です。ストライプキャットを探すように言われ、手掛かりがないかサイロを見に来ました」

「あなた方も同じ目的なのかしらぁ?」


 お姉ちゃんの質問に対して答えは簡単に返ってくる。

 一見すると物々しい二人であるが、隠すような目的があって動いているわけではないようだ。


「そんなところだ。街の安全確保とストライプキャットの探索。俺たちがここに来たのはこれ以上逃げ出す奴がいないかを確認するためだ」

「その心配がないことが分かったので上に報告したら探索の手伝いだ……滅入る」


 成程、冒険者だけでなく領主のところにも話が行っているようだ。

 血相変えて赤レンガに飛び込んでくるような街の大事件なのだからそうもなるだろう。


「あれーなんですかねー?」


 イチゴちゃんが何かを見つけたらしく指を指している。

 その先を見ると木製サイロの壁に穴が空いていることがわかる


「何って穴だろ。鼠が齧って開けたってところだと思うが……」

「それにしては大きくないかしらぁ」

「ですよねー」


 穴は直径20センチメートル程はあるだろうか。

 鼠が忍び込むためにしては大きすぎるようにも見える。

 俺たちの会話を聞いていた兵士がその理由を答えてくれた。


「鼠の仕業だよ。ここらに出る鼠は体が大きくてね。尻尾を抜きに50センチくらいあるんだ」

「でかくね?」


 やはり赤レンガを出てすぐに見つけた肉片は鼠で合っていたようだ。

 となるとそんな鼠を簡単に狩ってしまえる猫とはどのような猫だろうか。

 少なくとも鼠より体が大きいことは容易に想像できる。


「都会では下水道に湧いた鼠の駆除を冒険者に依頼するぐらいの厄介者でね。それは軍人が下水道に入りたがらないって理由もあるが」

「ふーん。じゃあ当然だけどその鼠を狩るストライプキャットも大きい訳ねぇ」

「とても危ない匂いがしますねー」

「……もしかしてストライプキャットについて何も聞いていないのか?」


 俺達がストライプキャットに詳しくないという事情は伝わったようだ。

 二人の顔は若干引き攣り気味に強張っている。

 やはりストライプキャットには何かがあるらしい。


「逃げ出した五匹の特徴は教えて貰ったが、どういう動物かというのは聞いてないんだ」

「そうか……説明してもいいが、話すより見たほうが早い。檻まで案内しよう」

「いいんですかー?」

「俺達が付き合う理由はストライプキャットを見れば分かるよ」


 やけに親切な二人の案内で敷地の一角にある鉄製の檻に案内される。

 そこには十にも及ぶ檻が並んでおり、時折ガシャンと鉄柵が音を立てる。


「普段は放し飼いにしているんだが今は緊急事態ってことで残りを檻に入れている」

「いやこれ……」

「サイズはともかく猫には違いないのよねぇ……」

「猫っていうかー……」


 檻の中にはオレンジの毛並みに黒の縞模様が入った大きな猫がいた。

 これ猫っていうか虎じゃねえか……


「俺はこの動物を虎と認識しているのだが」

「キャットじゃなくてタイガーよねぇ」

「これを放し飼いにしちゃってるんですかー」

「狂気の沙汰よねぇ」

「そりゃサイロが監獄みたいな造りになるよ」

「秒で赤レンガに戻ってー引き篭もってたいですねー」

「ごもっとも。逃げたこれを追い回したいかというと嘘になるわけで」

「こうして案内するふりをしてサボっている」


 なんとも正直な兵士たちだろうか。

 ここが赤レンガだったら一杯奢ってやるぐらいだ。

 というか今すぐ安全なところで飲んでストライプキャットのことを忘れたい。


「それ分かるわ。俺たちも退治しろっていう話なら全力でいけるが、捕まえろって話だから」

「頭抱えちゃうわねぇ」

「どうしろってんだって話だろ?」

「とりあえず最武装して仕事にあたってはいるが不安は拭いきれん」


 虎狩りなら凶暴な魔物を相手にするのと変わった話ではない。

 しかし捕まえるとなると難易度は比較にならない。


「麻酔銃を使いますかー?」

「麻酔の用量が分からんから無理だ」

「傷つけても殺しても駄目だものねぇ」

「屏風に入って欲しいですねー」

「一旦赤レンガに戻って文句を言うのと作戦の練り直しだな」

「さんせー」


 俺達は哀愁を匂わせる兵士達の武運を祈って別れると、赤レンガへと向かった。



 サイロからとんぼ返りして赤レンガに到着。

 ここまでの道すがらもまだ虎、もといストライプキャットには遭遇しない。

 一体どこで何をやっているのやら。


「なあベアトリクス。話が違うぞ。あいつらはキャットじゃなくてタイガーでは?」

「馬鹿を言ってはいけないのでございまし。鼠を追い回すのは猫の役目でございまし」

「虎が人に懐く訳がねーヨ。じゃれ合って大怪我する間抜けも少なくは無いがヨ」

「ストライプキャットは長い年月を掛けて飼い慣らした猫でございまし。多くの犠牲もありましたが、鼠に食料を奪われるという悲しみの前には些細なものでございまし」

「現実から目を逸してませんかー」


 真顔で俺に語っていたアンジェリカとベアトリクスはイチゴちゃんの言葉を受け目を逸らせる。

 飼い慣らしたっての絶対に嘘だろそれ。


「まあ相手の正体が猫であれ虎であれ何であれ、捕まえないことにはどうにもならない」

「そこらの魔物の取り扱いとは違うのよねぇ」

「何かー良い案がありますかねー?」


 魔物のように簡単に殺してはいけない。

 生きたまま捕獲するというのは物凄く難しい。

 命に別状はなく問題ないとはいえ噛まれたり引掻かれたりするのは嫌だ。

 服が破けるとお姉ちゃんに絶対に怒られるし。

 何か良い案があれば……そうだ!


「何か閃いたのかしらぁ」

「ケイさんがー良くない目をしていますねー」

「前門の虎にはなあ、後門の狼をぶつけんだよ。マック!」


 多分その辺で寝ているはずのマックを呼びつけると、俺の声に応えたマックは俺の胸へと飛び込んでくる。

 ギンイロオオカミであるマックであればストライプキャットに対抗できるはず。


「いくら狼とはいえマックのサイズで虎を相手にするのは無理でしょ」

「やってみる価値はーないと思いますよー。危ないからーあっちで寝ていましょーねー」


 呆れた顔をする二人にマックを取り上げられてしまった。

 まだ子供であるマックでは虎に対抗できないのだろうか。

 可能性をそんな単純な発想で葬り去って良いはずがない。


「虎は生まれながらにして虎だから強いって誰かが……」

「どんな生物にも可愛らしい子供時代ってものがあるのよ~。それこそケイ君にあったようにねぇ」

「俺に子供時代なんて無――いや、今はそんなことはどうでもいい」


 マックが使えないとなると別の発想が必要になる。

 なんとかして虎を見つけて拘束する、それを可能とするナイスアイデアだ。


「でもですよー。相手が虎さんだって分かっているんならー、ケイさんには簡単に見つけられるんじゃ無いでしょうかー?」

「イチゴちゃん正解よ~。正体不明のゴブリンとは訳が違うわぁ」


 そう、ゴブリンを倒すのに時間ばかりが過ぎていたのは相手の外見的特徴が掴めていなかったから。

 まさか山でよく見かけていた猿がゴブリンだったとは今更でも口には出せない。

 今度は相手が虎だと分かっているのだから話は早い。

 街にいる大型の猫っぽい動物を見つけるだけだ。


「そういえばそうだったな。プリメロの街にいる虎を探せばいいんだから見つけるのは容易いか。でも、なんかずるくない?」


 確かに俺がちょっと街全体の状態を把握すれば虎を見つけることは容易い。

 しかしそれをやってしまうのは気が引ける。

 あまりにも簡単に終わってしまって面白くないというのもあるが――

 

 皆で作業をして皆で報奨金を分配するのが今回のお仕事。

 全部俺一人で終わらせてしまうと分前で揉めないだろうか。


「なんだずるいって。報奨金の分前でも気にしているのかヨ? 誰も何もやってねーんだから旦那の総取りだヨ」

「まあ拘束する私めの取り分はあるのでございましが、それ以外は全てケイ様のものかと」

「もう皆さんお酒を飲み始めてるものねぇ……諦めるの早くないかしらぁ?」

「いつもの残念な人たちですねー」


 赤レンガの中を見回してみると、いつもの連中はまだ昼前だというのに酒を煽っている。

 皆の気分が沈んでいてしずかに飲んでいるからか気づかなかった。

 流石に街が緊急事態だというのに騒いで酔っ払うことは出来なかったか。


「ということでお姉ちゃんが許可するからぁ、ケイ君やっちゃって頂戴!」


 お姉ちゃんも自分で探すという気は無いらしく、俺に全てをぶん投げてきた。

 であれば俺も全力でストライプキャットを探すだけだ。


「やってみたら丁度五頭見つかった」


 プリメロの街を端から端までスキャンしてみると大型の猫らしき生物が五頭いるのが確認出来た。

 少しやる気になるだけで簡単に終わってしまって申し訳ない気分だ。

 その周りに人影は見当たらず、危険な状態ということもない。


「じゃあ後はベアトリクスさんにお願いして終わりねぇ」

「それじゃあ行ってくるよ」

「私めの運び方はこれで合っているのでございまし? 普通に歩いて行けばいいのでは?」

「お役目ごくろーさまでーす!」


 俺はベアトリクスを小脇に抱えるとお姉ちゃんとイチゴちゃんに見送られ、五頭の虎退治へと向かう。

 ストライプキャットはベアトリクスが簡単に捕まえてしまったので、俺の作業はベアトリクスを運んだだけで終わった。

 プリメロの街を騒がせた割にあっけない幕切れであった。

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