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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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EXTRA ストライプキャット・1

 ゴブリン騒動から数日。

 プリメロの街は落ち着きを取り戻してきており、ゴブリンが暴れたことによって壊された家屋や施設の復旧が人々の手によって進められている。


 朝食後のお茶を啜りながら俺、お姉ちゃん、イチゴちゃんの三人は今日の予定を組み立てていた。

 ゴブリンという一難が去ってからというもの冒険者としてやるべきことは少ない。

 三人で行う話といえばイチゴちゃんがどうやれば強くなれるかという非常にゆるい内容である。


 戦いの道を歩む冒険者として真面目な話にも関わらず何故ゆるいとするか。

 それは強さとは何かという話に終始しているから。

 速さ、膂力、技巧……そんなものを語るならば体を動かして身につけるべきことは明らか。

 そして残念ながらそれらはお姉ちゃんのポーチから出てくるお薬や道具で簡単に手に入るものでもある。


 そんな弛緩した空気が流れる赤レンガの建物に、街の者が血相を変えて飛び込んできた。


「大変だ姐さんたち! ストライプキャットが逃げた!」


 その言葉を聞いたアンジェリカとベアトリクスはほんの一瞬表情が固まる。

 いや、表情だけでなく作業をしていた手と体もか。

 二人がそんな様子を見せるとはストライプキャットは何か不都合がある魔物なのだろうか。


 しかしそこはプリメロの冒険者達をまとめている二人。

 すぐに管理者として然るべき行動に移る。


「一頭あたりこんなもので対応するのでございまし」

「手が足りないだろうから、アタイのところからも人を出すヨ。おらテメーら起きた起きた」


 二人が一瞬取った間が何だったのかは気になるが、仕事として引き受けたのだから危険にしても問題ない範疇だろう。


「ストライプキャットって名前からするとー猫さんですよねー。どこから逃げたんでしょーか」

「お家からだと思うけど~、プリメロではあまりペットを飼わないんじゃなかったかしらぁ?」

「サイロに猫がいるって話だったからそれだろうか」


 サイロに鼠狩り用のための猫が存在しているということは、以前ペットの話題で話していたときに聞いた話だ。

 あのときは犬が欲しかったため猫については聞き流していたが。


「ええっとー、思い出しましたー。何か言ってましたねー」

「逃げて困るのは分かるけど~、血相を変えるほどかしらねぇ」

「鼠狩り用ってことだし凶暴なんじゃないの?」

「普通の猫さんでもー鼠を追いかけると思いますよー」


 イチゴちゃんが言う通り猫というのは鼠を追いかけるものだ。

 それは性格というより性質によるものでしかない。

 それにも関わらず鼠用なのだから逃げられたとして血相を変える必要があるか?


「早速だがブリーフィングを始めるヨ。まだ寝ている者は叩き起こせ」


 街の人と話が纏まったようでアンジェリカが場を仕切り始める。

 朝食も終わり朝の空気も薄らいだ頃合いだというのに、未だ酔いつぶれて床やテーブルで寝ている冒険者達が起こされる。

 しかし起こされて起きるようなものでもなく、椅子に座るとすぐに舟を漕ぐ者も多い。


「聞いていた奴らが殆どだと思うが、ストライプキャットが逃げた。五頭いるから皆で手分けして探すことになるヨ」

「逃げたストライプキャットの特徴は私めからするのでございまし。それぞれ名前が付いているので呼びかけると反応があるのでございまし」


『ボード』は小学生くらいの女の子によく懐く。

『バーム』はスーッとする。

『ウッズ』はかつてトップの鼠ハンターだったがメス猫を追いかけてばかりで評判を落とした。最近は再評価されているが、やっぱり金髪女子が好き。

『マスク』は覆面をかぶっているので分かりやすいが、厳しい環境で修行を耐えた強者。

『ス』は赤い首輪をしていて熱狂的なファンが多い。


ベアトリクスからの説明は以上だが――


「性癖を拗らせているということは分かった」

「小学生限定って中学生だと駄目なので?」

「身体的特徴が分かるのが後ろの二頭しかおらんのじゃが……」

「スとかスーッってなんだよ」

「覆面取れたら正体が分からないやつじゃん」

「いや猫なんだから分かるだろ」

「熱狂的なファンに捕まえさせろよ」


 話を聞いた冒険者連中のボヤキが聞こえてくる。

 説明から得られた情報で見た目で判断出来るのが半分も居ない。

 いや、猫なのだから見れば分かるし個体を識別することに意味があるとも思えないが。

 本当にこれが捕まえるのに役立つ情報なのだろうか?


「一つ聞いていいかベアトリクス。この情報は有用なんだよな?」

「無いより有ったほうがマシなのでございまし。ストライプキャット自体は見ればそれだと分かるのでございまし」

「猫を探させばいいのよねぇ。ゴネる暇があるならさっさとやりましょうよ~」

「付け加えると捕獲は私めがやるので、あなた方は見つけ次第報告するのでございまし」

「興奮させないよう気をつければそれで良いんだヨ。ああ、逃げる時は後ずさりだからナ。決して背中を見せるなヨ」


 二人の説明から判断出来ることはいくつかある。

 一つ、冒険者連中の手に負える相手ではないこと。

 二つ、報告のために戻ってくるというよりは逃げ帰ってくると言った方が正しいこと。


 つまり明らかに人間よりストライプキャットの方が強い。

 生殺与奪をストライプキャットが握っている程に。

 そんな俺が辿り着いた結論に達しなかったのか、幾らかの冒険者達が装備を整えて出ていく素振りを見せる。


「手分けしてローラー作戦で行くぞ! 俺達は南の方に取り掛かる」

「じゃあ俺は南東のブロックを探してきます!」

「姐御の手は煩わせねえ。俺が捕まえてやりますよ」


 先人を切った冒険者達がドアを開けて飛び出そうとした矢先のことだ。

 後ずさりしドアをきちんと閉めて180度体を回転させて戻ってくる。

 そして椅子に座ってチェルシーを呼びつける。


「チェルシー、熱いお茶を頼む」

「昨晩はそこまで飲んだ記憶がないのじゃが……記憶がないほど飲んでいたのかもしれん」

「俺、顔を洗ってきます!」


 おいおい、さっきまでの勢いはどうしたんだ?

 ドアを開けた瞬間、思っていたのと全然違うものが出てきたのか?


「何かーあったんですかねー?」

「いきなりは無いだろ?」

「街のどこかにいるならぁ、赤レンガの前にいてもいいんじゃないしらぁ?」

「目当ての猫を見つけたのに逃げるのか? いや、目当ての猫だからこそ怖気づいたか」

「ベアトリクスさんに報告もしないってことはー諦めちゃったんじゃないですかねー」

「となると~相当な大物ねぇ」


 先頭を切ったメンバーはそれなりにデキる連中だったはず。

 そいつらが見た瞬間に諦めてしまう猫ってどんな猫だろうか。

 後に続くはずの連中も足を竦ませて出ていこうとしていない。


「となると俺達が行かないと誰も行かないことになるか」

「そうねぇ。わたし達が軽く捕まえちゃいましょ!」

「行っちゃいましょーケイさん!」

「お気をつけて」

「傷つけない程度に分からせて大人しくさせるんだヨ」


 アンジェリカとベアトリクスもドアを開けた先にストライプキャットがいるって気づいているのに出ていく気は無いんだな。

 こいつはかなり大物に違いない。

 軽口叩いてたお姉ちゃんとイチゴちゃんも俺を盾にするかのように後ろに付いてきている。


 ドアを開けるとそこには――


「何もいないじゃないか」

「どこかに行っちゃったのかしらねぇ」

「なにか食べ残したあとがー残ってますねー」


 動物の影は見当たらないが、イチゴちゃんが指差す方に目を向けると肉片が散らばっている。

 今日までこの街で暮らしてきて初めて見かける光景だ。

 肉食獣であるギンイロオオカミのマックでもこんな食い散らかし方はしない。

 マックはお行儀がいいからな。


 肉片を確認しているうちにこれはどうやらネズミではなかろうか、という話になった。

 鼠と判断できる情報がありながら断定できないのには理由がある。


 鼠と判断したのは鼠の尻尾のような肉片が残っていたから。

 断定できないのはその尻尾が太く長かったから。

 長さが30センチもあるのはどこかおかしくなかろうか。


 ともあれこんな惨状は昨日までは見たことがない。

 昨日と今日の違いはストライプキャットが逃げ出したこと。

 鼠の正体は捨て置いて、この惨状の原因はストライプキャットにあるだろう。

 そう考えて良いと思う。


「予定していたローラー作戦は俺たち三人だけでは無理。ということで、ひとまず飼われていたサイロに向かってみようと思う」

「いいんじゃないかしらぁ。まずは逃げ出した現場を確認するってことよねぇ」

「何匹かはー戻ってきているかもしれないですもんねー」

「まあ数え方が匹であればいいのだが……」

「そうねぇ……」


 漠然とした不安を頭に残しつつ俺たち三人はサイロへと向かった。

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