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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第35話 ゴブリン騒動はおしまい

 街へ戻ったころはすでに日付を跨いだ頃だろうか。

 深夜という時間帯であり、いつもであれば家々の明かりも消えて寝静まり、騒がしいのは赤レンガくらいという所。

 しかし今日は武装した兵士や冒険者が見回りを行っているため人通りがある。

 

 また、少なくない数の街人が明日に回しても良いような路地の片付けといった作業を続けていた。

 大方、寝ている間にゴブリンが襲ってくるのではないかという恐怖で眠りにつくことに不安があるのだろう。


「アタイは領主と話をつけてくるからヨ。テメーらは先に赤レンガに戻っといてくれ」


 そう言ってアンジェリカが俺たちから離れ、領主の居所を聞くためだろうか兵士に話し掛けに行った。


「私めらはこの子の目を覚まさせないといけないので戻るのでございまし」

「そういえばそうだったな」

「何もせずとも明日にも目を覚ますと思いますが、親御さんのことを考えると目覚めた状態で返すことがよいです」


 俺が背負って連れて帰ってきた男の子は今、ジェシカの作った薬によって眠らされている状態だ。

 このまま帰してしまうと流石に親も不安だろうということで、赤レンガに残してきた気付け薬を飲ませてやることになる。


「皆さん、おかえりなさい! 無事だったんですね……」

「俺たちは無事だったがアンジェリカが……」

「何言ってんですかーケイさーん。領主さんのところにー報告に行っただけですよねー」

「一緒でないのはそういうことだったんですね。男の子も無事のようでボクも安心しました」


 赤レンガに入るなりチェルシーが心配そうな顔で出迎えてくれる。

 ちょっとからかってみようかと思ったがイチゴちゃんに阻止されてしまった。


「何人かは戻ってくるときに見かけたけれど、他の人たちは全員見回り中かしら」

「はい、夕食休憩で交代交代に戻ってきましたが、皆さん食べ終えるとすぐに戻っていっちゃいました」

「あいつを除いてってところだが……」


 珍しく人影がなくガランとした赤レンガの建物の中で、一つだけ人が着席しているテーブルがある。

 男の子の捜索に出かける前からの変わらぬ姿で一人の男がテーブルに突っ伏している。


「ごっきぃの周りは出ていったときのままかな?」

「あまり触りたく無かったのでそのままですよ」


 気付け薬を調合したすり鉢もごっきぃの近くに残ったままとなっていた。

 よく分からない薬の入った食器を片付けることにチェルシーは気が咎めたようだ。


「さっさとやってしまいましょう」

「そうだな。座らせるより寝かせているほうが楽だよな?」

「そうですね」


 俺は担いでいた男の子をテーブルの上に寝かせる。

 ジェシカはすり鉢を手に取り中身をかき混ぜてからスプーンですくい取ると男の子の口の中に薬を流し込む。

 しばらくすると男の子は意識を取り戻した。


「自分で立てるかしら? 大丈夫そうでございましね。では、私めは男の子を帰してくるのでございまし」


 男の子は多少ふらつきながらも自力で立ち上がることができたため、ベアトリクスが家まで送り届けるために外へと出ていく。

 残されたのは俺とお姉ちゃん、イチゴちゃんとチェルシー、そしてジェシカだ。

 

 功労者のマックは街へと戻ってくる途中でイチゴちゃんの腕の中で眠ってしまった。

 今はもう寝床にしている古い毛布で寝かせている。


 チェルシーが気を利かせて豆のスープを人数分持ってきてくれたので一先ず口にしてみる。

 思えば昼食から何も食べていなかったので、実はとても美味しく感じるかもしれない。

 空腹というものは一番のスパイスとも言うからな。


「「「「……」」」」


 うん、不味い。

 口にした瞬間に皆して微妙な顔になってしまったが、豆という素材が絶望的に不味いのだから仕方がない。

 しかしこの世界で生きるということはこの味に慣れ親しむということだ。

 スープを胃に流し込んだところで、気になっていたことをジェシカに聞いてみることにした。


「そういえばどうして枕を持って赤レンガにきたんだ?」

「簡単な話です。ゴブリン共のせいで安眠できそうに無かったから避難してきた訳でですよ。ベアトかアンジェかの部屋にお世話になろうかと思いまして」

「それはそうよねぇ」


 敗残したゴブリンがまだ街に残っているかもしれない。

 そういった状況では枕を高くして眠れないためというのが、ジェシカが赤レンガへとやってきたという理由だ。

 まともに戦えば雑魚のゴブリンも、寝込みを襲ってくるとなると分が悪い。


 それは街の人々が寝付けずに外の片付けをやっているのと根本原因は同じことだ。

 赤レンガと呼んでいる冒険者たちのギルドを擁する建物は、レンガ造りで強固に建築されたある種の要塞である。

 

 夜になれば一応戦闘力がある冒険者たちが一階の食堂や建物の周りで寝ている。

 そのためゴブリンが襲ってきても即座に対応出来る。

 そういえばあいつらに宿屋に泊まるという発想は無いのだろうか。


「あたしもー今から宿屋に戻りたくはーないかなー。ということはー今夜はここで泊まりってことですねー。ほんとにー?」


 イチゴちゃんもジェシカと同じ問題に直面していることに気づく。

 宿屋だからといって深夜に安心できるというわけではない。

 じゃあ食堂に寝るのかというと、年頃の少女には遠慮したいものがあるのが赤レンガの特徴だ。

 まず独特な匂いがするっていう点で敬遠したいし、床は論外として椅子に横たわって寝るのも休息を取れるかというと厳しい。


 じゃあ寝なければいいというには、今日は色々なことがありすぎた。

 しかしイチゴちゃんの抱えた問題は五秒で解決する。


「それじゃあボクの部屋に来るといいよ。一緒に寝よっ」

「ありがたみー」


 チェルシーがイチゴちゃんを誘い、二人してさっさと階上へと上がっていってしまった。

 この建物の二階にはアンジェリカ、ベアトリクスの居室の他に、チェルシー達父子の居室がある。

 そのうちの一つ、チェルシーの部屋に今晩お世話になることで問題は解決だ。


「さて、私もそろそろ寝床の支度をしましょうかね。明日は早いですから」


 数えない一人は除いて三人になってしまったところで、ジェシカが席を立とうとする。

 アンジェリカかベアトリクスは戻ってきていないが、どちらかの部屋に行くというのだろう。


「早いって片付け以外にすることはあるのか?」

「それはもちろん、アレを捌くための話をしにルフまで行かないといけませんから」


 アレとは蟹缶のことで、ルフとは隣街のことだ。


「なにか伝手でもあるのかしら?」

「私の実家はセントロで一番大きな商家でしてね、その支店がルフにあるのですよ」

「その実家のネットワークを使うってことか」

「都まで運べばさらに価値が上がりますから。当然でしょう」


 洞窟での戦いに参加しなかったジェシカにも分前がある風に話が進んでいたのはこういうことか。

 その時はアンジェリカとベアトリクスのお友達だからかと思っていたが、こちらの流通ネットワークの共有が本筋か。


「突然隣街まで行くことで怪しまれるってことは無いのか?」

「表向きは薬草の卸売りということにしておきますので。あと、家の片付けの人足を実家に相談するという口実もあります」

「自然な姿ということね」

「そういうことです。アレの回収については明後日にでもアンジェとベアトに依頼しようと思います。表向きはそうですね、野草と薪の採取、及びそれの運搬といった当たりでしょうか」


 野草の採取という名目で山に入る冒険者の数を増やす。

 これは作業をする人の数を増やすためだろう。

 積み込みだけでなく見張りを立てるのも必要なことだ。


 薪の方は燃料に使うためというのもあるが、本当の目的は馬車に積んだ蟹缶を隠蔽するために用いるためだろう。

 ゴブリンの集団を倒してしまった今、大勢で山に入る理由が失われつつあるところにスーッと効いてくる依頼である。


「聞いておきたいことが他になければ私は休もうと思うのですが?」

「ああ、何かあればまたの機会に聞くことにするよ。長い付き合いになる気がするしな」

「冒険者は年間二割の数が入れ替わっているという噂ですよ。貴方達はどうでしょうかね?」

「俺は死なんよ」

「ならお姉ちゃんもね」

「期待しています。それでは、おやすみなさい」


 ジェシカはそう残して階上へと上がっていく。

 二人の部屋に鍵とか掛かっていないんだろうかという疑問がふと湧いたが、ジェシカがその程度で困るとは思えないのですぐに頭から消えた。


「ならお姉ちゃんも寝ようかしらぁ」


 そう言ってお姉ちゃんはポーチからブランケットを取り出して広げる。


「俺の分は?」

「ケイ君まで横になっちゃうと~、お姉ちゃんの枕が無くなっちゃうわぁ」


 お姉ちゃんは俺の太ももを擦り訴えかける。

 いつもなら膝枕をするのはお姉ちゃんの方だが、今日は俺の担当になるようだ。


「俺がゆっくり寝られないんだけど?」

「寝なきゃ良いじゃない。それじゃあおやすみねぇ」


 お姉ちゃんは横になると俺の太ももに頭を預けるや、すぐに寝息をたて始めた。

 ということで、これ以降動くことなど許されなくなった俺は、座ったままの姿で夜を明かす事になった。

 まあ、どうということはない。

3章は今回でおしまい。

4章開始となる次回更新は8月からの予定。

よろしくお願いします。

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