第32話 対ゴブリン二回戦
「完璧な作戦じゃないか。俺が五メートル以上の段差を飛び降りるっていう無茶が初手であることを除けばだが」
「ケイ君なら大丈夫でしょ。さあ行った行ったっ!」
そう言ってお姉ちゃんが俺の背中を押して下へと突き落とす。
飛び降りるどころじゃない、これは落ちているっていうんだ
ドンガラガッシャンと落ちた俺は所々を岩に打つけて泥汚れを突けながらも無事着地。
「ドへっ……あら、皆さんお気づきになりました?」
流石に物音が大きかったのだろう、ゴブリンたちの視線は一瞬で俺に全て注がれた。
そして奴らと来たら手近にあった武器を手に取り全員で俺に向かって突進してきた。
全員?
王様も将軍も一緒に来ちゃったよ!
あんたら座して待っといてよ!
「ケイさーん。頑張ってーくださいねー」
後方を確認するとイチゴちゃんとジェシカが上から覗き込んで見守ってくれている。
ベアトリクスは向かってくるゴブリンの中でもまともな武器、つまりは棍棒のような鈍器を手にした個体を射止めてくれている。
俺は真っ先にたどり着いた一番槍のゴブリンを蹴りで仕留めると、続々と来るとゴブリンを千切っては投げてと孤軍奮闘する。
「ゴメーンちょっと遅れちゃったー」
遅れたと言うよりお姉ちゃんが意図的に開始のタイミングを早くしただけなのだが……
予定していたよりも時間差はあったものの、こちらに向かって突っ込んでくるゴブリンの側面をタイミング良くお姉ちゃんとアンジェリカが叩いた。
突っ込んでくるゴブリン。
それに揉まれる俺。
清々と側面から切り崩すお姉ちゃんとアンジェリカ。
的確に射抜くベアトリクス。
応援してくれるイチゴちゃん。
傍観するジェシカ。
戦いの優劣は最初から決まっており、それは街でやり合った時からこちらに軍配は上がっている。
少しの間を経ると高々五十体そこそこのゴブリンは大きく数を減らして十体ばかりとなった。
その中に王と将軍が残っているのは雑魚から先に処分してしまおうとした当初の考えによる結果である。
「あとは三人で頑張ってくださいましー」
矢の在庫が尽きたベアトリクスは応援側に回ってしまった。
下に位置する俺、お姉ちゃん、アンジェリカで残りを始末することになる。
「ここから……」
気を引き締めていくぞっ!
二人に声をかけようとした矢先、片方の将軍は心臓を槍で貫かれて即死。
もう片方の将軍は匕首で首を引き離されていた。
仕方ないので俺は雑魚ゴブリンを千切ってお茶を濁した。
ということで残りは幅広の長剣を手に振り回す王ただ一人となる。
普通の人間なら攻撃に当たると一撃で死ねる厄介さだ。
「さてぇ、サイズ差がある敵って小さいのも大きいの難しいのよねぇ」
「同感だヨ。槍の加減が分からん。一撃目をしくれば折れるかもしれん。その時は任せたんだヨ」
「分かったわぁ。わたしが右から行って虚を突いてみせるわぁ」
二人が交わす言葉は戦いの連携の話であり俺は一人置いてけぼりだ。
会話が終わると二人はそれぞれ逆方向に飛び出して駆けていく。
いや、駆けていったのはアンジェリカだけだ。
お姉ちゃんは最初の一歩だけ大きく踏み出しただけですぐに止まる。
そして腰に下げたホルダーからリボルバーを引き抜くと息をつく間もない六連射をゴブリンの王に浴びせかける。
洞窟内に六発の銃声が響き渡り、その反響音が収束した頃になってようやく、銃弾を受けた後も立ちっぱなしになっていたゴブリンの王は地に伏した。
「虚を突くってお前……銃は使わないって言ってたじゃねーかヨ!」
アンジェリカがトボトボと歩きお姉ちゃんの元へと近づきながら文句をたれる。
事前の打ち合わせの際にお姉ちゃんが言っていたことを省みると彼女の言うことはもっともだ。
「お姉ちゃん。相手のガタイが良いからって弾が止まるとは限らないよ」
「あらぁ、今回はホローポイントを使ってみたの~。これならケイ君のフルメタルジャケットと違って体内に留まるはずよ~」
「外れたときの話もだよ……」
「わたしの腕じゃこの距離なら外さないわぁ」
突き抜けた時だけじゃなくて外れてどっか飛んでいったときのことを考えて欲しかったが、お姉ちゃんは聞く耳を持たない。
「終わったからヨシなのでございまし」
「なんかー反則気味でしたけどねー」
「皆の虚を突いたということです」
上に残っていた三人が、全てが終わったとみて合流するために降りてくる。
矢を射ち尽くしたベアトリクスは疲れが見られるものの、傍観していただけの二人の顔は余裕だ。
今回何もやっていないし当然だね。




