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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第28話 男の子救出作戦

「えっ? お兄ちゃん? 妹や弟じゃなくて?」


 お姉ちゃんが驚きの声を上げる。

 その声色からは困惑しか存在しない。


「ほら、アレだよ。妹を守るためにここは俺に任せろ! とか妹の代わりに俺を連れて行け! とか身を張ったんだよ……な?」


 俺のフォローを利かせた質問に対して、女の子は首をフルフルさせて否定した。


「ゴブリンがきたからいっしょににげようとしたら、おにいちゃんがあたしドンっておしてじぶんだけにげたの。そしたらつれてかれちゃった」

「「「「……」」」」


 お兄ちゃんクズだな。

 あまりのクズっぷりに掛ける言葉もなくて皆して黙り込んでしまった。

 普通自分より年下の肉親を囮に使って逃げるか?

 人間の生存本能とはとても恐ろしいものだ。


「……まぁだ。過程はともかくガキが攫われたの事実なんで救出する必要がある。が、どこ連れて行かれたか分かんねーんだヨ」


 アンジェリカが顔を指でポリポリかきながら困った顔をしている。

 彼女に限らず誰だって困るしかない案件だ。

 とりあえず山狩りをしてゴブリンを虱潰しにするってか。


「そりゃあゴブリンの拠点が分からず打つ手なしだった俺たちだ。逃げられたらどうしようもない……っているじゃないか拠点を見つけた奴が」

「そういえばそうでございまし」

「ごっきぃか。あいつは戦闘に参加してなかったから中で寝てるだろうヨ」


 証人となるごっきぃを囲んでの作戦会議を行うため皆で赤レンガの建物へと戻る。

 女の子からも何か聞けるかもしれないのでアンジェリカがそのまま手を引いて連れてきた。


「へんなにおいする……」


 赤レンガの中はカビとゲロと酒とよく分からない料理の匂いが充満している。

 慣れていない者にとっては違和感を感じるだろう。


「女の子はしばらくいいと思うから……イチゴちゃん、変わりにお世話してもらってもいいかしら」

「はい? どうしたんですかーその子?」


 お姉ちゃんがお茶を飲みつつマックをモフモフして休憩中のイチゴちゃんに声をかける。

 俺から事情を説明すると女の子を横に座らせてマックに触れさせている。

 こっちはこれで置いといて、次が本題だ。


「さて、次はこの男よね」


 テーブルに突っ伏して眠っているごっきぃの周りを四人で取り囲む。


「確か……二晩寝てないって話だったかヨ?」

「それも休まず走りっぱなっしのだ」

「起こして起きるものではないのでございまし」


 頬を捻ろうが肩を揺さぶろうがごっきぃが起きる気配は全くない。

 このまま火に焚べてみても燃え尽きるまで立ち上がらなそうな雰囲気だ。


「もっと強いショックが必要となると、スタンガンいってみようかしら」

「それだと痙攣で起き上がったように見えるだけでその後また眠っちゃうよ」

「気付けになるものでもあればいいが……食い物にそんなものは無いしヨ……」


 アンジェリカが心配して様子を見に来たチェルシーに伺うが彼女は首を横に振るだけだ。

 そんな中でお姉ちゃんがポーチをゴソゴソして何かを取り出そうとしている。


「何か良いアイデアがあるの?」

「ええ。これを使ってみましょう」


 お姉ちゃんが取り出したのは注射器と薬品の入った瓶だった。


「それでお姉ちゃんは使い方分かるの?」

「ヤク中なんて幾らでも見てきたんだから。注射器の使い方くらい知ってるわよ」


 当然と言った風に胸を張るのだが、俺が知っていて欲しかったのは注射器ではなく薬品の使い方の方だ。

 分量を間違たがために取り返しのつかないことになったら、情報を聞き出すことは二度と不可能となる。


「いや、薬の分量と注射する箇所のことを聞いたんだけども」


 お姉ちゃんが薬品のラベルを見る。

 そのラベルには薬品名と製薬会社の名前しか書いていない。

 箱と説明書はどこにいったんだ?


「50mlを静脈に注射とあるわ。で、どの血管が静脈なのかしら? 教えてよケイ君」


 どれが静脈なのかを答えることはとても簡単だ。

 しかしお姉ちゃんの言うことはデマカセであり、そんなことを教えることは出来ない。


「もういっそそれを飲ませてみると言うのは駄目なのでございまし?」

「それで効いてくれればいいんだろうけど、それでも分量とか分からなくて使い物にならないよ」

「これじゃなくても薬と扱いが分かる奴がいれば良いんだろ? 手近にはイネーな……」


 お姉ちゃんの暴走を止めた所でごっきぃを覚醒させる手段は現状なし。

 そんな頭を抱え始めた四人の前に救いの手が現れた。


「騒動は終わったと思っていたのだけれど一体何の騒ぎかしらね」


 やってきたのは魔法使いのジェシカだ。

 その手には何故か毛織のブランケットと枕を抱えている。


「良いところに来たのでございまし。この昏倒している男の目を覚まさせたいので魔法でどうにかならないのでございまし?」


 話を聞いたジェシカがごっきぃの様子を観察する。


「魔法では無理だけれど、薬でならいけそうよ」


 そういえばこの女、多種の毒草を裏庭で育てていたのだった。

 きちんと薬として使えるのであれば有用なのだろう。


「お前の薬って擦り傷作ったガキに飲ませて泡吹いて倒れたような奴じゃねーだろうなァ?」

「それは昔の話よ。あのときは丁度いい実験体が手に入ったと思って関係ない薬を使ったのよ」


 しれっと身の回りで人体実験は止めて欲しいものだ。

 頼むごっきぃ! どんな薬を飲まされても生きて目を覚ましてくれ!


「で、どれくらいの時間で用意できるのでございまし?」

「手元にあるので賄えるからすぐよ。チェルシーさん、ボウルとスリコギ、それにお水を持ってきてもらえるかしら?」

「はい。ただいま準備します!」


 チェルシーに必要なものを持ってこさせる間に、ジェシカがバッグから取り出した草や液体をテーブルの上に広げる。

 この状態だと見た目にはそれぞれが何なのかは分からないが、成分的には上手いこと混ぜるとごっきーの意識を回復させることは出来るだろう。


「すり鉢があったのでこっちのほうが良いですよね」

「ありがとう。そう言ったほうが良かったわね。後はそれぞれを混ぜてと」


 すり鉢のなかに薬品と液体を投入しスリコギですり潰しながらかき混ぜる。

 混ざりきったところで水で薄めてどうやら完成のようだ。


「コレを飲ませればいいので、ケイさんがこのひとの頭を持ち上げて貰っていいかしら」


 テーブルに突っ伏している状態では薬を飲ませることは困難。

 そんな訳で俺がごっきぃの頭を持ち上げ、無理やりと口を開けさせる。

 そこにジェシカが薬をスプーンで投入していく。


「どれくらいで目を覚ますんだ?」

「あと数秒もすれば……ほらっ」


 ごっきぃが瞼を開き、薄っすらと目に光を宿していく。


「あれ……もう朝だっけ……なんだこの口の中の……苦味は」

「起きてそうそう悪いが。意識は大丈夫かヨ」

「ああ……姉御……ぼんやりはしますがなにかありましたか……」

「どこまで記憶に残っているヨ?」

「ゴブリンに追いかけられて……街まで戻ってきた……ところまで。うん? ゴブリンのヤローどもはどうなりました」


 大分と意識がはっきりとしてきたごっきぃは赤レンガまでたどり着き、俺達にゴブリンの話をしたことを思い出したようだ


「街に来た連中はあらかた処分して、この場にいない連中で街に残った奴らがいないか捜索中だヨ。ただ問題が発生してゴブリンの拠点まで追いかけなきゃならんことになってヨ」

「ああ、あの洞窟ですね。必死だったのでどうやってたどり着いてどうやって逃げたかなんて覚えてないですよ」

「そりゃそうだな。もう一回寝てろヨ!」


 尋問していたアンジェリカはごっきぃの後頭部を掴むと勢いよくテーブルに叩きつけた。

 ということで薬を飲む前と変わらぬ姿が目の前に存在している。


「まさかここまで役立たずとは……思わなかったのでございまし」

「で、当てが外れちゃったけどどうする?」

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