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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第18話 ケイ君の実力

「わたしが知りたいのはぁ、複数の元素を扱う使うのがどれほど高度なのかってことかなぁ?」

「魔法使いは二つの属性をそれぞれ単独で使えれば合格です。私は全元素の混合魔法が使えますが、それは神に愛されたが故の才能かもしれません」


 本当に神に愛されているのは毎週神様からお小遣いを貰っているイチゴちゃんのような存在なのだが黙っておこう。

 それに最近は金欠で苦しんでいるみたいだし。

 

「つまりー火を出したりー、風を吹かせたりー、水を出したりー、土……を何とかするくらいってことですかー。なんかー思ってたのと違うっていうかー」

「安心して下さい。扱える才能は魔力に拠るものではありません。修練を重ねることで、ご自身の役に立つ魔法に巡り合うことは出来ます」

「ボクは火の魔法を使えたら便利だって思う。あと水の魔法って氷を作れるんですよね? お仕事で役立ちそうだし習いたいです!」


 四元素を言葉通りに受け取ると科学の力でどうにか出来るため、イチゴちゃんにとって興味を沸き立たせるもので無いかもしれない。

 インフラが整った世界に住んでいればガスコンロで火を扱えるし、氷は冷凍庫で作ったものをいつでも使うことができる。

 この世界で生まれ育ったチェルシーにとってみれば、イチゴちゃんにとってありふれたものでも便利なものとなる。


 しかしそんな便利な魔法を一般人が常用していないところから考えて、何か落とし穴があるとみていい。

 そもそも普通の魔力を持っているチェルシーが、これまでに魔法に触れる機会を得ていないのである。

 雷の魔法を使用したジェシカの疲労具合から体力や精神力を削ってくるのは間違いない。

 魔法を使えないし使う必要もない俺には関係のない話だが、その落とし穴故に魔法を使う人間が少ないのであれば魔法の脅威は無いものとして扱って良い。

 才能あふれるジェシカですらこの程度のことを行うだけで一苦労しているのだから。


「そうそう。雷の魔法に限らずあらゆる種類の魔法を使えますが、私が得意としている魔法はコレですよ」


 ジェシカが俺たちに向けて手をかざすと同時に自分の体が徐々に重くなっていく感覚を得る。

 俺にも魔法が効いてるじゃねぇか……嘘つきやがったかこのアマっ!


「これは……重力を弄っているのか」

「すぐに気づきますか。転移者というのは物を良くお知りのようで。自分で使っていてなんですがケイさんにも効果があるのは興味深いです」

「俺も驚いたよ。原理はあとで落ち着いてから説明しよう」


 ジェシカは冷ややかな目をこちらに向ける。

 その間にも体にかかる重力は時を経るごとに強さを増していく。

 魔力を持たない俺には魔法が効かないはずだが、現実に効力を発揮しているのは発生した現象の影響を受けているからだと考えられる。


 それでは発生した現象とは何だろうか。

 万有引力の法則に照らし合わせて考えた場合、地面が俺の体を引く力が増しているのである。

 俺が地面を引く力に変化は無いので俺自身に魔法の効果が無いということが現在進行形で証明されている。

 一方俺とは違ってお姉ちゃん達三人は、自身が地面を引く力も増加しており、俺に掛かるよりも強い重力加速度が働いているということになる。

 するとどうなるかと言うと――


「なんかー体がー物凄く重たくなってー来たんですけどー」

「何だろう。体がとてもだるくて立ってられないよ」


 ジェシカがどこまで重力を強く出来るのかという興味はあるが、このままでは彼女たちはいずれ意識を失う。

 地面に膝を落とす二人を尻目に、お姉ちゃんはポーチからブレスレットを取り出してカチャッと左手首に巻きつけている。

 どんな特別なブレスレットなのかと詳細を確認すると、一人用(パーソナルユース)重力調整器(グラビティ・コーディネータ)だ。

 これにより自身に掛かる重力を打ち消したお姉ちゃんはこの状況でも涼しい顔をしている。

 魔法で発生した重力だけでなく通常の重力の一部も打ち消しているようで、それならば十二分に涼しい顔ができるというものだ。


 整理するとお姉ちゃん(通常の八掛け)、俺(通常の倍)、イチゴちゃんとチェルシー(俺の倍)の順に強い重力を受けており、ジェシカを中心とした周辺の重力場の分布の歪さときたら眉をひそめたくなる。

 推定4G。

 つまり通常時の4倍の体重を実感出来るまでになってくると、イチゴちゃん達の具合の悪さは相当酷いものになってくる。


「そろそろ体が限界を迎える筈だけれど、どうして大人二人は大丈夫なのかしら。若い子たちみたいに苦しむ様子を見せてくれると良いんじゃない?」

「マゾヒストかお前は。答えるならば、俺には彼女らの半分しか効いてないしこの程度の重力は経験してきた中じゃ軽い方だ」

「これ位でわたしをどうにかしようというのが間違いよ~」


 魔法が効かないことを知っている俺はともかく、軽く強がりを言うお姉ちゃんが道具で重力を弄っているとはジェシカは考えもしないだろう。

 そのことから相手にどれだけの重力が掛かっているかをジェシカ自身が識別出来ないように見受けられる。

 ある程度の範囲に対して一律の重力を発生させることが可能なだけの魔法なのだろう。

 人の目に重力は見えないし、センサーでもなければ重力の掛かり方が分からず細かい調整は不可能といえる。

 つまりかなりざっくりとして大味な魔法ということだ。


 そうこうしているうちにジェシカの額には脂汗が浮かび始めており、魔法を使い続けることで疲れが溜まってきていることが分かる。

 このまま限界を迎えるのを待っていれば終わるだろうが、若い二人が限界を迎えるのが先なのでさっさと打ち切ってやる必要がある。

 お姉ちゃんにはどうにも出来なさそうだし、たまには俺が何とかしよう。

 ほんのちょっとだけ実力を開放するだけだ。

 


「……重力反転」


 魔法が物理現象に影響を与えているのだから、物理的な手段で効力を打ち消すことが可能ということだ。

 だからジェシカの魔法が及ぶ範囲を目処に反重力を掛けて相殺する。

 ヒーローの極め技ではないので分かりやすく言葉にする必要はないが、ボソッと口に出してみたのは愛嬌みたいなものだ。

 なんなら手を上にクイってやってもいいくらいだろう。

 やらないけど。


「はぁっ、はぁー……」

「あれ? 急に楽になったや」


 強い重力が無くなり苦しみから開放されたイチゴちゃんとチェルシーは安堵の声をあげる。

 お姉ちゃんは特に何も変わらず涼しい顔をして空を見上げている。

 ジェシカは音もなく何処かに消えた。

 目の前から消えた。

 消えた?


「いきなりシュポーンって飛んでっちゃったけど……大丈夫かしらぁ?」


 お姉ちゃんが左手でスカートの裾を抑えつつ、右人差し指で雲ひとつ無い青空を指差している。


「なんかあるっけ?」


 空を見上げた先に存在する微かな黒点が何であるかが確認できたところで、俺はようやく何が起きたのかを理解できた。

 反重力を掛ける対象を面積指定したのが災いし、元々魔法の影響を受けていないジェシカも対象になってしまっていた。

 それによりイチゴちゃんとチェルシーに掛かっていた重力加速度4Gを打ち消すだけの力、すなわち3Gの力を受けたジェシカは上方向に引っ張られていったという寸法だ。

 差し引き推定2G。

 つまりは自由落下の倍の加速度で引っ張られて空に向かって飛んでいった訳だが――生きて還って来られるといいな。


 お姉ちゃんに掛かった力はジェシカより大きく差し引き2.2Gの力を受けて上昇したはずだが、瞬時に重力調整器が逆方向に働いたため被害程度はワンピースの短いスカートが景気良く捲れたくらいだ。

 お日様の下で見るパンモロって凄く良いよ。

 怪我の功名の一つというやつだね。

 しかしベルトが無かったらもっと上まで目指せていただけに惜しかった。

 ついでに俺自身はこの程度のことで想定外の事象になることはない。


「あれー? 雨が降ってきましたかー?」

「そんな感じもするけど気のせいじゃないかな。この良い天気で雨は降らないよ」


ジェシカを吸い込んだ雲一つない青空から不思議と雨が降ってくるのは事実だ。

2Gも加速度があれば5秒ほどで秒速100メートルに達し20秒と経たず音速を超えるんだから気絶くらいするよね。

失禁も止む得ないというもの。


あとはどれくらいの時間、反重力の影響を受けるかだけど……分かんないや。

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