表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
27/70

第17話 魔法についての考察

「魔法を見せてくれてありがとう。参考になりました。一つ伺いたいけれど、魔法で雷を出して岩に当てるという一連の行為は魔法を使える人にとっては簡単なのかな?」


 俺の考えが正しければ雷を岩に向けて放つという魔法には二つの要素が必要になる。

 一つは雷の元となる電荷を生成すること。

 もう一つは電荷の流れを操作すること。

 目標に対して雷で攻撃するためには二つ目の方が重要だ。。

 なぜなら雷は指向性を持たないため、落ちたい所にしか落ちないのだから。


「そうですね。こうやって雷を作ることは複数の元素を取り扱えることで可能になります」


ジェシカが右掌をパーに開くとその周りに負の電荷が集まっていく。

ある程度の量になってくると発光してはパチパチと音を立て始めたため人の目でも見て分かる。

手を中心に体中に電気が纏わりついている状態、つまり静電気を溜め込んでいる。


「凄いですねー。でも今とさっきのってー何か違うんですかー?」

「良い質問ねイチゴちゃん。例えば雷ってどういう所に落ちるのかしらぁ?」

「はいっ! マスコットお姉ちゃん先生。木のような高いところに落ちます」

「せーかいっ!」


 10ポイント獲得と言わんばかりにお姉ちゃんはイチゴちゃんを指差す。

 ちょっとしたクイズ大会が始まってしまったみたいだ。


「あと金属にも落ちやすいですよね。空がゴロゴロしたら剣と鎧を捨てろって冒険者の人達が話してました」

「うーん、それは条件付きで正解よ。雷は落ちやすい所に向けて落ちていくけど、金属を身に着けているから落ちる訳じゃないの~」

「どーゆーことです?」


 両手を広げて首を横にふるという、ややオーバーな感情表現で残念な感じを出しながら、お姉ちゃんは納得出来ない二人へ説明を続ける。


「イチゴちゃん自身が口にしたように電気が流れるというのは電子の移動のことよ~。雷が上から下に落ちるのは上から下に移動する電子が光っているだけぇ。ここで重要なことは電子、つまり負の電荷が正の電荷に向かって移動していくということねぇ。これがポイントよっ!」

「それと金属に雷が落ちないというお話はどう関係するんですか?」

「今ジェシカさんの手には負の電荷が多く溜まっている状態。それが抱えきれなくなると正の電荷が強い場所――今であれば地面に移動する」


 黙って頷いているだけだと仲間外れ感があるので俺からもフォローを入れておく。

 ぐっと握りしめたコブシを徐々に開いていくことで電荷の集まりを表現し、パーになるまで広がると同時に地面を指差すして雷が落ちることを表現する。

 イチゴちゃんとチェルシーの理解が進むことの手助けになればよいが。


「今だと地面に落ちるということは、先程だと地面より岩の方が正の電荷が強かったということですか?」

「そういうことになるわねぇ。わたしの目には電気が見えないから実際のところは分からないけれど~」

「確かにアクセサリーの金や銀。剣や鎧の鉄とか銅といった金属は電気を通しやすい。しかしそれ単体では電荷を持っておらず、その点で岩と一緒だ」

「そりゃー銅線に繋ぐだけでー電球が光ればー電池は要らないですもんねー」

「つまり金属そのものに雷を引きつける要素が無いということですか。それじゃあ高いところに雷が落ちるのは理由はなんですか?」


矢継ぎ早にチェルシーから質問が来る。

何かしらのスイッチを押してしまったようだ。

今日まで気にしなかったが知的好奇心が旺盛なのだろうか。


「それを説明するにはまず、空気は電気を通しにくいということが前提として大事よねぇ。いまジェシカさんの手に雷が留まっているのは、地面との間を空気の壁が邪魔をしているからなの~」

「絶縁体ってやつですねー」

「そう、絶縁体。雷は空気という絶縁体を破り続けて地面へ到達すんだけど~、その空気を破る時にピカッと光ってゴロゴロ音がするのよ~」

「けど正の電荷ですか? それが強い場所に落ちるんですよね。それだと高い所は低い所に比べて正の電荷が強いということですよね」

「そこがポイントだ。実のところチェルシーの頭のてっぺんと足がついた地面では、正の電荷量に大きな違いはない。だから――」

「高い所は雷雲に近い分だけ空気の壁を壊す回数が少なく済むので、雷が落ちやすいということですね。やっと分かりました」

「よく出来ましたっ!」


 この世界は電化された世界ではなく、電気を利用する機器は身の回りには無い。

 そんな世界に生まれ育ったチェルシーにとって電気は馴染みが薄いはずなのだが、少しの説明で理解出来ていることには驚きだ。


「けれど気になるのは雷って簡単に横に向かうものかしらぁ?」


 お姉ちゃんが下唇に人差し指をあてて小首を傾げる。

 5メートル先の岩より1メートル下の地面の方が落ちる要素は高いだろう。

 だから横に進んでいくより下に進むことが理に適っている。

 何より進む距離が短いんだからそれが道理だ。


「地面よりもー岩の方が電位差が大きかったってことですよねー?」

「ジェシカさんと岩との間に雷が進みやすい理由があったってことですよね」

「例えば?」

「見えない金属が岩とジェシカさんを結んでいたとか……ボクの考えだと苦しい説明になっちゃうかな」


 例えば魔法で電気の通り道を作ってやる――それこそチェルシーの考えのように導体で経路を満たすことが案の一つ。

 それ以外にも空気の厚みの分だけ絶縁されているのであれば空気を薄くしてやれば絶縁の度合いは低くなる。

 真空までいくと別の問題が発生するが、気圧を下げてやることで電気は確実に通りやすくなる。

 つまり――

 

「ああ、風の魔法を使えば成立するのか」

「分かったのケイ君?」

「岩との間の空気を薄くしてやれば雷はそこを通る。なにせ進行を阻む絶縁体が少ないんだからな。完全な真空を作ってしまうと話は変わってしまうが」

「そっか。風は気圧の差で起きるのだからぁ、風を吹かせられるなら気圧を下げることも出来そうねぇ」

「といったところで俺たちの考えは合っているだろうか?」


 腕を組んで静かに四人の議論を窺っていたジェシカに話を振ると、彼女はパチパチパチと軽く三度の拍手をする。

 勝手にやっていたクイズ大会ではあるがどうやら正解だったらしい。


「概ね正解よ。手の内が明かされていくのは怖いものですね。以前、空気を薄くすば雷は通りやすいと聞いて試してみたら上手くいきました。あとはデモンストレーションとして分かりやすいように岩にも雷の魔法を使っているところですね」

「それを教えてくれたというのが噂のアルミを作った冒険者か、それとも錬金術師の方かい?」

「錬金術師ですが……噂というのはベアトから聞いたのかしら」

「ちょうど今朝ね。そのとき初めてこの世界に魔法があるって知ったの」


 お姉ちゃんにカットインされてしまって聞けなかったが、俺が知りたかったのはこの世界の教育で得た知識なのか他の世界からもたらされた知識かである。

 教育という形で知識が継承されているのか、転移者がもたらした今はぽっと出の知識なのか。

 前者であればこの世界の教育水準を知ることの材料になったのだが、まあ正直知ったからといって使い途がない知識ではある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ