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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第16話 雷の魔法

「それで魔法の性質ってどういったものがあるんですか? ……ジェシカさん?」


 イチゴちゃんの方を見て何かに気を取られていたことで、ジェシカはチェルシーの問いかけへの反応が少し遅れる。


「……あぁ、すいません。基本的には地水火風の四元素であり、それらを単一または複合的に組み合わせて生み出します」


 彼女の口から出た言葉は俺には良く理解できないものであった。

 その区分けで十分なのかという疑問と、そもそもそれぞれの要素の根拠が何か理解できないからだ。


「例えば雷の魔法。そういうものがあるとは聞いているんだが、こいつはどんな元素になるんだ?」

「火と風の元素を組み合わせて生み出します。実際にお見せましょうか?」

「地じゃないのね」


 ジェシカの口から出た言葉では自分を含むみんなの疑問を晴らすには至らない。

 そんな要素で大丈夫なのだろうか、とむしろ謎がより深まっていくばかりだ。

 同様に納得がいかないらしいお姉ちゃんの口から漏れた言葉も、残念ながら俺には納得出来るものではない。


「イチゴちゃんは電気って何だと思うかなぁ?」

「電池やコンセントから取れるやつーって、もしかしてー真面目な話ですかー。それだと電子が移動することで逆向きに電流が流れる。理科の授業で習ったんですよー。これで合ってますよねー」

「そうだな」


 こういうときは簡単なところから整理していこうというのか、お姉ちゃんがイチゴちゃんに尋ねる。

 簡単な科学のお話だからかイチゴちゃんはスラスラと答えてくれる。

 同時に彼女がそれなりに教養を持ち合わせていることも分かる。


「やっぱり火と風なんて関係ないわよねぇ」

「あれじゃないですかー、火力発電と風力発電ってやつでー。それだと水力発電もあるからー水も必要な元素ですよねー」

「はつ……でん?」


 電気が一般的に使われていないこの世界の住人であるチェルシーには、イチゴちゃんの言ったことが理解出来ないようだ。

 説明したところで理解できるかは本人次第ではあるが、きちんと説明しておいた方が良いだろう。


「チェルシーには想像がつかないだろうが、雷、俺たちが電気と呼ぶそれは人の手で作ることが出来る。その行為を発電というが必要な要素はジェシカさんが言った元素で説明できるものじゃない」

「だから納得行かないのよねぇ。けど実際に魔法で電気が作れているのならぁ、魔法にわたしの知っている物理法則は重要じゃ無いのかも」

「魔法ってそういうもんじゃないんですかー。お願いを叶えるお手軽なやつって感じで―」


 この世界の魔法には理論があるとはいうが、お姉ちゃんが言うとおり物理学と関係性が無いのかもしれない。

 そう考えると自分の持つ常識に固執することよりは目の前で起きている事実を受け入れることが大事になってくる。

 先入観に囚われて目の前で起きている事実を否定していては何も得ることが出来ない。


「考えて分からないし実物を見た方が理解が早いかな。どうだろう?」

「それもそうね。ジェシカさんの雷の魔法を見せてもらえるかしら」

「では、外に出ましょう。屋内では面倒な事になりますから」


 お姉ちゃんからのお願いに、ジェシカは待っていましたとばかりに椅子から立ち上がって皆を外に案内する。

 入ってきたドアから屋外に出て、家の裏手のさらに奥の方へとジェシカに案内されるがままに進んでいく。

 その間にイチゴちゃんとチェルシーが自己紹介を始めたので、ついでにお姉ちゃんもジェシカと何かを会話していた。


 家の裏には手入れが行き届いた畑が広がっており、俺たちが訪れる直前にジェシカが作業していたのはこの畑なのだろう。

 栽培されている植物は野菜や穀物ではなく多品種に及ぶ草木であり、その全てが毒草と呼んで良い代物ばかりだ。

 お姉ちゃんはいくつかの植物に心当たりがあるようで、時折立ち止まって葉をつまんでは鼻を近づけていた。

 さっき入っていた葉っぱが青々と繁る木も数本生えている。


 適量であれば薬として使用することができるのだから、必ずしも悪用することを前提に考えてはいけない。

 一体何に使用する目的で育てているのか分からないが分からないままでいて良いだろう。

 きっと薬草農家なんだよ薬草農家。

 それだと本当に魔法を教えてくれるのか怪しくなってくるな。


 元々街外れにあるジェシカの家なので、それほど広くはない面積の畑を抜けると民家の類もなく荒れ地が広がるだけ。

 農地に向かないために手をつけられていないようであり、何をやっても文句をつける居住者もいないので多少の無茶が出来る場所とも言える。

 ところどころ雑草の茂りが薄い箇所に、野焼きして出来たような焦げ跡があるのは火に関連する魔法を使った形跡なのだろうか。


「この場所は人の迷惑にならないから魔法を試すに良いんです。では早速ですが雷の魔法をお見せしましょう」

「気持ちいい天気なんですけど雷を出せるんですか?」

「空から雷を落とすってことじゃないんでしょ」


 地形的に山が近いとはいえ、上空は雲ひとつ無い青空が広がっており急な天候の崩れは見込めそうにない。

 雷は空から落ちてくるものという認識を持つチェルシーはこの天気で雷が見られるとは思っていないようだ。


「そりゃー杖からビリビリってー……何も持ってないですねー」


 イチゴちゃんが言うようにジェシカは魔法使いの描写にありがちな魔法のステッキを持ち合わせていない。

 魔法を使うのには才能があればよく、特別な道具を必要としないのだろうか。


「雷を呼び寄せるのではなく作り出すので天気は関係ありません。それと杖を使う人もいますが雰囲気です。では、あちらの岩を見ていて下さい」


 ジェシカから5メートルほど離れたところの地面から岩が顔を出しているのが見える。

 ジェシカは岩に右掌を向けると、静かに息を吐き出し深く吸い込む。

 集中するための間が取られたことを感じさせたその瞬間、岩の方に向けられた掌から一筋の稲妻がピシッと音を立てて走り岩の先端を砕いた。


「うわっ」

「ひゃぁっ」

「やるな」

「ふーん」

「これが雷の魔法。どうです? 驚きましたか?」


 魔法のデモンストレーションを終えたジェシカはこちらへにこやかな顔を向ける。

 雷撃を発生させる前と変わらない顔をしているが、敢えて平静を装っているように見えるのは彼女の目から疲労が感じられるからか。

 パッとやってみせたものの、魔法を使うことは見た目ほど楽な行為では無いのかもしれない。

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