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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第13話 暴虐の魔女

「へぇ」

「ほう」


 アンジェリカの話に対する俺とお姉ちゃんの反応は芳しくなかった。

 頑張って出来たのがありふれたアルミということで興味が失われてしまったのだ。

 一方イチゴちゃんはその話にノッてきた。


「アルミってー、このアルミのことですかー?」


 イチゴちゃんが財布から1と描かれた銀色の円形硬貨を数枚取り出しテーブルの上に広げる。

 それは純粋なアルミニウムの塊であり、彼女が元居た世界で一円玉と呼ばれていたものだ。


「これは銀貨ですか? それにしてはとても軽いし全く歪んでないですね。ボクこんなの初めて見たよ凄いなコレは」


 一円玉の物珍しさに釣られチェルシーがイチゴちゃんの隣に座って硬貨を観察する。

 今朝はいつにも増して冒険者が床でお寝んねしているせいで、食事の注文取りや給仕の仕事がないらしい。

 何か食べたければテーブルの上に広がる昨晩の余り物を食べればいいだけだし。


「でもですねーこんなの作ってーうれしーんですかねー」

「純粋なアルミが自然の状態では珍しいって話よねぇ」

「嬉しくなる予定だったんだろうが、アルミをどうにか出来る冶金技術が無かったんだろうな」

「ケイ様のおっしゃる通り使い途が無かったのでございまし。結果、アルミニウムのインゴットは今も王城の倉庫に鎮座しているのでございまし」


 希少性に着目して一獲千金を願ったのだろうが、希少なだけで用途がない金属が大量に手に入っても仕方がない。

 素材の研究が進めばいずれは使い途も出てくるだろうが、現状倉庫に眠っているようではしばらく期待できまい。

 ところで錬金術の話にすり替わってしまったが、今しておきたいのは魔法の話だ。


「聞いといてなんだけど錬金術はもういいや。ただの科学技術の研究みたいだ。それより本題の魔法について教えて貰えるかな」

「実のところお魔法については私めより専門家に直接聞くのがお早いのでございまし」

「この街に素質が判定出来る奴がいると言ってたっけ」

「ええ。名前をジェシカ・ハミルトンと言いまして、魔法を教えることを生業の一つとしているのでございまし。私めやアンジェと年齢が同じで性格はまあ……ケイ様達の目で確認してくださいまし」


 直接聞けなかったものの、何が不幸なのかということはベアトリクスの口ぶりからある程度察することが出来た。

 どうやら性格に癖があるようだが、俺とお姉ちゃんなら大丈夫みたいだし気にする必要はなかろう。

 イチゴちゃんが流されやすい性格であることは昨日の特訓を通して理解している。

 彼女だと心配になるということであれば、ジェシカさんは巻き込んでいくタイプと推測出来る。

 楽しみじゃないか。

 待っていろジェシカ・ハミルトン。



 そういうことで魔法を教えてくれるというジェシカさんを訪ねて街外れにある一軒家までやってきた。

 俺、お姉ちゃん、イチゴちゃん、チェルシーの四人だ。

 あれ? チェルシー?

 確かに一緒にベアトリクスの話を聞いていたけれどもいつの間に。


「どうしてキミが付いてきている?」

「最近昼過ぎには皆も酔いつぶれてるし結構暇してるんだよね。今日に至ってはあの惨状だしね。知っていると思うけど、あの人達ってお酒も樽から勝手に飲むからボクが居なくてもお店は回るんだよ」

「そうか、そういうものか」


 赤レンガに巣食う冒険者達はアホで飲んだくれではあるけれど恐ろしく紳士的だ。

 チェルシーの手が回らない時は自分で料理を取りに行くし、なんなら使い終えた食器は自分たちで片付ける。

 調理の手が回らないときは厨房に入り込んで料理を作る手伝いまでする。

 確かにチェルシーは居ても居なくてもさほど問題にならんな。


「いーじゃないですかー。勉強って皆と一緒にやると捗りますよー。テスト勉強とかそーでしたー」

「そんなものなのか?」

「そういうものなんじゃない?」

「そうなんですかね?」


 人それぞれ事情というものがあるが、イチゴちゃんの意見に賛同する者は三人の中にはいなかった。

 学校で教育を受けたことがない俺は当然テスト勉強のことなど知る由もない。

 チェルシーは隣街にあるという高等学校に進学する予定だったが、街道を封鎖されてプリメロに留め置かれていたおかげで学業の道を歩まず家の手伝いをしているという。

 この国では教育を受ける自由も受けない自由もあるらしく、当人は現在の境遇についてさほど気にしてはいないようだ。


 それではお姉ちゃんはどういうことだろうか。

 俺と同じ様に学校で教育を受けていないとも取れるし、学校に通ってはいたがテスト勉強をする必要が無かったとも取れる。

 前の世界でどのように生きてきたかという背景がまるで見えてこない。

 機を見て前の世界のことをそれとなく聞いてみたことは何度かあるが、その度に「フフッ」と笑って誤魔化されて終わるだけだ。


「あら? お客さんかしら。珍しいこともあるものね」


 俺たち四人の話し声で来客があったことを気づいたようで、建物の裏手から一人の女性が現れる。

 首元まできっちりボタンが留められた白い長袖のブラウスに濃いベージュのスキニーパンツ。

 つばが広い帽子は日よけのために被っているもので、革の手袋も手を汚さないためのものだろう。

 ハンドスコップを手に持ち革のショートブーツを土で汚している姿からは庭いじりをしていたことを思わせる。


「貴方がジェシカ・ハミルトンさんでしょうか。俺は協会の冒険者でケイといいます。今日は魔法について話を聞かせて貰いたくて来ました」

「協会の冒険者ということはベアトの所の御人ですか。私がジェシカ・ハミルトンで相違ありません。ありませんが……貴方が魔法に興味を?」


 ジェシカさんが怪訝な眼差しで俺の顔を見つめてくる。

 化粧っ気はないが顔立ちが整った美人さんなので少し恥ずかしくなる。

 俺が魔法のことを聞くことに何か問題があるのだろうか。

 ベアトリクスは何も言わなかったが、例えば魔法は女性にしか扱えない等の制限があり、男が魔法のことを知ろうとするのは失礼なことにあたるのかもしれない。

 何かを見通そうとするかの如く俺の体をくまなく確認する目をされると心配する気持ちが湧いてくる。

[登場人物紹介]

 ケイ君 この作品の主人公。

 マスコット・チアーズ お姉ちゃん。

 イチゴ 女子高生。元の世界の物を結構持ち込んでいる。

 チェルシー 食堂のウェイトレス。勝手についてきた。

 ジェシカ・ハミルトン 魔法使い。植物を育てるのが得意。

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