第10話 赤ずきんちゃん?
アンジェリカが指差す方を見ると、そこには二足歩行するオオカミの姿が!
なんで!? と思いきや、それはオオカミの毛皮を纏った冒険者のディックであった。
さっきの今で既に毛皮を剥ぎ終わっているとは手際の良い奴がいるんだな。
それはともかくとして、剥いだばかりで血肉や脂が残っているであろう毛皮をよくもまあ被れるもんだ。
頭酔っ払ってんのかよ……ってこいつら朝から飲んだくれているんだから相当酔ってるか。
「ワオーーーン!」
「てめぇのナニみたいにもっとでかい声で吠えるんだよ!」
「長さもそんなもんじゃ足りねぇだろうが」
「ワオーーーーーーン!!」
「もっともっとー。もっといい声で鳴くんだよ」
「ワオーーーーーーーーーン!!!」
いくつかのテーブルを合わせ付けて作られた即席の舞台と思しき高座の上で、ディックは遠吠えするオオカミの真似事をしている。
その周りに冒険者連中が取り囲む様に集まって汚い野次を飛ばす。
俺は酔った二人に連行されるように集団の中に割って入り、いつもはテーブルとセットになっている長椅子に座らせられる。
宴会の余興として行っている即興劇のための観覧席という訳だ。
「爺さんも婆さんも嫌がっていた割にはいい具合しているガオ。うん、誰か来る気配がするガオ」
「ノックノック、ガチャ。たっだいまー。あれ? お爺ちゃんもお婆ちゃんもどこにいるのかしら? バタン」
ドアを開けて閉めるフリをして赤い布を頭に被ったチェルシーが舞台に上がっていく。
登るとスカートをヒラヒラさせて群がる観衆に向けて一礼する。
チラチラッと見えたパンツはサービスの一環だろう。
胸も良いものを盛っているが太ももも良いんだよこの娘は。
なんか今日は若い娘の太ももばかり目につくがきのせいだろうか。
「逃げろ赤ずきん! ここはお前が来ていい場所じゃない! あっ……ダメ……」
「今なら間に合うわ、私達二人のことは構わず街に帰るのよ! アンッ!」
舞台の袖でエクシオとフッサが気色の悪い声を発する。
チェルシーの役名からこの寸劇はどうも『赤ずきん』らしいが、俺の知っているそれとは随分違う内容に見える。
しかし最後の喘ぎ声は何だよ?
「ガハハ、何も知らずに小娘がやってきたガオ。おめーも一緒にメスにしてやるガオ」
「きゃあっ! あなた一体何者? おじいさんとおばあさんをどうしたの!」
「俺様はギンイロオオカミだガオ。山から降りては老若男女を喰い散らかす極悪オオカミだガオ」
ああ……喰い散らかすってそっちの意味で……。
ギンイロオオカミに対する風評被害が激しい舞台設定だな。
「今からオメーには今日まで知らなかった味を教えてやるガオ。服を脱いでこっちに尻を向けるガオ」
ディックは尻尾を前後にぶらりぶらりと大きく揺らしてチェルシーに襲いかかろうとする。
何あれ、すげー。
どういう仕組みでそんなことができているのか考えてみたくもない。
「そうは問屋が卸さんごっ。マタギのおいが相手になるでごぐぇっ」
酒焼けした喉からカスレ声をあげてハヤトが壇上に上がっていくが、その足はおぼついておらず案の定転けた。
四つん這いになったもののなんとかテーブルからは落ちずに済む。
「ガオガオ。自分から尻を差し出すとは殊勝な猟師ガオ。この間抜けも美味しく頂いてやるガオ」
「うおぇあぁぁ……」
「あらまぁ、なんて役に立たない猟師なんでしょう!」
チェルシーが大げさな身振りで演技をする横で、ディックは揺らした尻尾の先でハヤトの尻を叩く。
ハヤトは転けた時のダメージに悶絶していて演技どころではない。
それにしても酷い絵面なのだが、それ以上に酷いのはディックの尻尾が揺れるたびに風が巻き起こっていることだ。
どうしてそれが俺の顔に当たらないといけない……近くにいる連中も酔っているはずなのに真顔になってきているぞ。
「なぁ、これってオオカミの完全勝利で終わらねぇか?」
「そうでございましね……」
「たまにはそれも有りだろーヨ。普通の人間が野生の魔物に勝つのに無理があるってこった」
赤ずきんを助けるために登場した猟師はオオカミに食べられる寸前であり、このままでは赤ずきんも物語と同じくオオカミに食べられてしまう。
両脇を固めるアンジェリカとベアトリクスに聞いてみたものの、どうやらストーリー展開へ口を出すつもりはないようだ。
[登場人物紹介]
主人公 俺。ケイと呼ばれている
チェルシー 冒険者ギルド併設食堂のウェイトレス
アンジェリカ 冒険者共同体の人
ベアトリクス 冒険者協会の人
その他はモブ




