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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
1章 俺とお姉ちゃんと異世界と
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第2話 判断基準

 同じ集団に所属する者同士であれば、もちろん複数人でやってきてくれても構わない。

 しかしこの二人にそのような様子はなく、むしろ商売仇の様に見える。

 その証拠に目が合い互いの存在を確認するや否や、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。


「またテメーかこの淫乱雌豚(いんらんめぶた)。コッチの商売の邪魔しに来んじゃねーヨ」

「そちらこそこちらの仕事の足を引っ張らないでごさいまし万年処女」


 万年処女は白のブラウスにページュのタイトスカート。

 黒のタイツで引き締められた脚に大人しい赤のパンプスが目を引く。

 膝上丈のスカートに入った長いスリットはポイントが高い。

 

 首筋に光る細い金鎖のネックレスに青い石があしらわれた金のペンダントトップが数少ない飾り気だ。

 攻撃的にブラウスのボタンを二つ外しているのだが、まな板なことが残念。

 切り揃えられたサラサラの髪も合わせて、全体的に鋭利な印象を受ける。


 淫乱雌豚は長袖の黒のワンピースにフリルのついた白いエプロンドレス。

 長いスカートの下からは、白の靴下と光沢のある黒いラウンドトゥがちらりと覗く。

 重厚な黒と軽快な白のコントラストから全体的にシックな印象を受ける。

 

 白いカフスを留める金ボタンに嵌まる赤い石が異彩を放っている。

 守備力の高い服にも関わらず、エプロンが描くカーブの大きさからかなりのものが期待出来る。

 まとめられた髪も合わせて、全体的に柔和な印象を受ける


 攻と守、直線と曲線という違いはあれども、二人ともお金が掛かった服装をしていることは共通している。

 それは道行く人々の貧相な服装とは比較の対象にもならないほどだ。


 この二人からはお金の匂いがしている。

 そして彼女たちの目的は俺とお姉ちゃんにあるはずだ。


 お姉ちゃんが翻訳してくれた男の二人組の『また』という言葉。

 それはこの世界には別世界から送られて来る者が多くいることを意味すると俺は考えている。

 別世界から送られてくる者に対して、神は便利な能力なり物を与えているのは自分で経験済みだ。

 ともあれば、それを利用しようとする者たちもまた、存在するのではないかという仮定を持つに至る。


 その仮定を正しいとした場合、俺とお姉ちゃんが最初に取るべき行動が一つある。

 神から送られし者を利用したい存在と接触すること。


 右も左も分からない異世界において、自分たちが置かれている状況を理解してくれ、その上でこの世界のことを一から説明してくれる存在。

 そんな便利な存在こそ俺が求めていたものであり、目の前で喧嘩している二人がその存在であるはずだ。


 背が高くスレンダーな万年処女と、頭一つ小さくトップヘビーな淫乱雌豚。

 重心の位置は大体同じためだろうか、どちらが有利という事もみられず押し合っても拮抗を保っていた。


「ハァハァ……そもそもテメーなんかに構ってる暇なんてねーんだヨ」

「ゼェゼェ……それはこちらの言葉でございまし。そのままお返しするのでございまし」


 押し合いへし合いも疲労のために一段落。

 ようやく当初の目的を思い出したような雰囲気が出てきた。

 

 そろそろ声を掛けようかとも思ったが、俺はまだこの世界の言葉を話すことが出来ない。

 お姉ちゃんに頼むにしても、彼女が歌うのを止めて船を漕ぎ始めて久しい。

 起こして良いものだろかは悩みどころだ。


 二人は鬼の形相で、睨みつけるように周囲を見回し始めた。

 探している対象の俺たち二人は、他者と一線を画した服装をしているのに、中々見つけることが出来ないようだ。


 言葉が通じないなりにこちらから話しかけても良いのだが、俺は俺でどちらに声を掛けるか思案していた。

 どちらがアタリで、どちらがハズレか。

 両方アタリの場合もあるだろうし、両方ハズレの場合すらあり得る。

 ここから三人目が颯爽と登場してくれる可能性も否定できない。


 考えが纏まらないのは時間が有りすぎるからだが、判断材料が少なすぎるためでもある。

 ならば自分から動くことで、相手がどう出て来るかを見極めるまでだ!


「あんっ」


 突然胸に大きな力を受けたからか、お姉ちゃんが嬌声に似た悲鳴を上げる。

 そしてフンッ、と起き上がろうとした俺の頭はすぐにお姉ちゃんのおっぱいに押し戻される。

 そうだった……お姉ちゃんのお胸が視界の半分を塞ぐ大きさだったことを考慮しとらんかったよ。


「お姉ちゃんゴメン。驚かせるつもりは無かったんだ……」


 起き上がった俺は、少し涙目になっているお姉ちゃんの隣に座りフォローする。


「いいのよ。お姉ちゃんウトウトしちゃってた。ごめんネ」

「謝ることないよ。俺の注意不足が悪さしちゃったんだ……」


 全く悪くないお姉ちゃんが詫びる必要はない。

 女性に膝枕された経験が俺に無かったのが悪いんだ。

 いや、緊張感がないこの状況が悪かったことにしておこう。


「チッ、バカップルが見せつけやがって……」

「むっ! 怪しい二人組を発見しましたですよ!」


 二人でそんな茶番をしていると、ようやく彼女たちの目に止まったようだ。

 しかしスレンダーな方は口が悪いな。

 万年処女のお世話になるのは止めておきたい気分だ。


「あなた方はもしや、異世界からやってこられたのではありませんか?」


 淫乱雌豚が俺達に向かってくるやいなや、俺の手を取り語りかける。

 それを見たお姉ちゃんの目が鈍く光ったので、そのような行為はなるべく止めていただきたいところだ。


「ええ、そうだけれど一体何の用かしら」


 淫乱雌豚の手を俺から引き離すように、彼女と俺の間に割って入ったお姉ちゃんが代わりに応えてくれる。

 言葉尻がきつく感じるのは、彼女が俺を奪う敵に見えたからかもしれない。

 お姉ちゃんには俺の考えを話していなかったので仕方ない側面もある。


「ああ、お会い出来て光栄です。(わたくし)めは冒険者協会の者でベアトリクスと申します。以降お見知りおき頂ければ幸いでございまし」


 淫乱雌豚もといベアトリクスはスカートをつまみ上げて軽く頭を下げる。

 折り目が正しいのは好印象だ。


「ベアトリクスさん。冒険者協会、というのはどのような組織なので?」


 なんとなくだが言葉が分かってきたので、俺が彼女の相手をすることにする。

 ベアトリクスが笑みを浮かべる度、お姉ちゃんが俺の身体に回した手に力がこもることも理由の一つだ。

 話が進む以前に、喧嘩が始まってしまっては大変だしな。


「それを丁寧に説明させて頂きたいので、本拠までご足労頂いて構いませんでしょうか。ここではお茶の一杯もお出しできませんから」

「そうだな。喉も乾いてきたところだし、それがいいかもしれない。案内してもらえますか」

「ここでいいじゃない。お姉ちゃん、お水持ってるよ」


 引き留めようとするお姉ちゃんには悪いけれど、俺はベアトリクスの話に乗っかることにした。

 お姉ちゃんがポーチから取り出そうとしたボトルには驚いたが、今は気にしないでおこう。


「それではこの街をご案内しつつ、本拠に参ります。私めから離れず付いてきてくださいまし」

「よろしく頼む」

「えぇ……」


 少し不機嫌なお姉ちゃんを左に添えて、ベアトリクスの後ろに付いていく。

 その冒険者協会の本拠への道すがら、彼女は色々な事を教えてくれた。


 この街はプリメロという名前で、セントロという国の北のはずれに位置していること。

 ベアトリクスはプリメロの街の冒険者協会の分会長を務めていること。

 プリメロの街の外には危険な魔物が蠢いており、人々は自由を制限されていること。

 そしてセントロという国全体が、現在魔物の脅威に曝されている可能性があること。


 そんな話や街の施設についての話を受けていると、一つの立派な建物にたどり着いた。

 立派というのは人々の住居に比べてという話だ。

 赤レンガ積みの外観は堅牢な印象を受け、そこらの吹けば飛ぶような藁葺き屋根と違って力強く見える。


 ベアトリクスがドアを開けてくれ、彼女、俺、お姉ちゃん、万年処女の順に建物に入る。

 建物の中は中央にテーブルが並んでおり、カフェ、食堂、酒場の何に当たるか分からないが食事を提供する施設になっているようだ。

 テーブルに座っている者の中には食事を取っている者もいれば、酒と思しきものを飲んでいる者もいる。


 テーブルの合間には注文を取ったり、食事の皿や飲み物のジョッキを運ぶウェイトレスらしき女性の姿がある。

 奥のカウンターは調理場のようで人の立つ姿が見えるのだが、その両隣に仕切られてあるカウンターに人の姿は見えない。


 そのままベアトリクスに連れられ、空いているテーブルに四人で座る。

 俺の隣は当然お姉ちゃんで、向かいにベアトリクスと万年処女だ。

 万年処女がなんでいるかって? 知らんが勝手に付いてきた。

 出会った時は喧嘩していた二人が仲良く(?)隣り合っている姿には意外性がある。


「飲み物を三人分。三人分くださいまし」


 注文を取るために近づいてきたであろうウェイトレスの女性に対して、ベアトリクスが注文をつける。

 わざわざ二回言うことで強調してまで、テーブルに座る人間の数に対して一つ少ない注文としたのはそういうことだろう。

 その人物は隣でチッと下を打つ悪態をつき、このテーブルの様子を伺っている周りの人々に睨みつけている。


「オイオイオイ、ルーキーは女連れで登場とはな」

「太ももいいよね……挟まれてぇ……」

「見てみろよあの乳。牛か。アンジェに半分くらい分けてやってくれよ」

「メッチャいい匂いしたぜ! 都会の女なんか目じゃねぇ。俺は王都に暮らしていたことがあるから詳しいんだ」


 建物に入って来たときにも強く感じたのだが、この建物にいる人達のほぼ全ての視線は俺たち二人に注がれている。

 視線が向けられる割合は俺が二割で、お姉ちゃんが八割くらいの感じではある。

 男なら誰だって綺麗なお姉ちゃんの方を気になるだろうから、お姉ちゃんの品評会になっているのは仕方なかろう。

 しかし街中の視線が物珍しさであったのに対して、ここでは何者かを見極めようとしている雰囲気がある。


「お待たせっ、お水四人分! 食べ物は……いるなら頼んでね」


 ウェイトレスがきちんと人数分の金属製のコップをトレイに載せて運んでくる。

 最初は元気良い声だったのだが、ベアトリクスが少し睨んだせいもあって後半は控えめになった。

 万年処女の分の水も持ってきたことに対して、少し腹を立てたのかもしれない。


「それでは飲み物が来たことですし、冒険者協会のことについてお話ししますね。あと隣の万年処女はお気になさらないでくださいまし」

「ああ、よろしく頼む」


 俺はベアトリクスに続けるよう促すと、コップの水に口をつける。

 水の冷たさは室温と変わらない程度であるが、久しぶりに口にした水分は渇いた喉を優しく潤してくれる。


「コホン。それでは私め達の冒険者協会とは如何なる組織かというとですが、それは世の人々の安全を守るために存在しております」

「安全を守る?」

「ええ、あなた方がどのような世界から参られたかは存じませんし知るつもりもございませんが、この世界には危険な魔物で溢れております。街から一歩外に出れば襲われる危険があり、街から街への移動も簡単には参りません」

「それじゃあ不便よねぇ~」


 鬼気迫る顔で説明するベアトリクスに対して、お姉ちゃんが間の抜けた声で相槌を打つ。


「そこで冒険者協会の出番でございます。街から街を旅する商人を護衛することや、街の近くに現れる魔物を退治したりすることで報奨金を受け取ることができるのでございまし」

「お金を稼ぐことは大事だよな。今の俺たちは無一文だしな」


 彼女の説明では自分たちで旅をするというよりは、何かと戦っていくことの方が多いように聞こえた。

 冒険を何と捉えるかは人それぞれだが、自分たちの旅のついでにそれらの仕事をやることで日銭が稼げると受け取っておこう。


「そうでございましょう。ですからあなた方には当協会に入会頂き、ご活躍して頂きたいのでございまし」


 ベアトリクスは立ち上がると、テーブルに身を乗り出して俺の両手を取り目を輝かせて見つめてくる。

 そういうことをやられるとお姉ちゃんが俺の太ももを抓ってくるから本当に止めて欲しい。


「オイオイ待てや淫乱雌豚。こっちの話も聞かずに入会させんのはご両人に対してフェアじゃねーんじゃねーか?」

「そんなことは聞くまでもなく、私め達の冒険者協会へ入会することが正しくございましてよ」

「ついでだから話は聞かせてもらいたいかな」


 また喧嘩に発展しそうな雰囲気が出てきたので、諌めるためにも万年処女の話を聞いておくことにする。

 情報はいくらあっても良い、それだけ判断に使える材料となるからだ。


「アタイは冒険者共同体のプリメロ支部長アンジェリカっていう。共同体はクソ協会とは違って純粋な冒険を追い求めている組織だ」

「純粋ってどういう意味だい?」


 協会の仕事は十分に冒険の範疇に収まっているものだと、俺はそう考えている。

 であれば、それと違って純粋であるとはどれほどのものだろうか。


「簡単な話だヨ。西にダンジョンがあれば攻略して宝を掻っ攫って換金し、東に珍しい薬草があると聞けばそれを採集して換金する。人跡未踏に立ち入り、奇異珍品を独占する。それこそが冒険者の本懐ヨ!」

「なるほど実に明確で分かり易い冒険者の在り方だ。とても興味を惹かれるものがあるな」

「そうだろ? だから共同体に入っちまえヨ。誰でもウェルカムだぜ」


 協会の方針では仕事の結果が冒険であり、共同体の方針では冒険の結果が仕事である。

 冒険者としての醍醐味が味わえるのは共同体の方と言っていいだろう。

 なにせ実にダイナミックに冒険らしい冒険が出来るのだから面白いはずだ。


 しかし面白そうな事に目を囚われてしまって、大事なことを忘れてはいけない。

 だから俺の答えはこうだ――


「冒険者協会のお世話になります」

[登場人物紹介]

 アンジェリカ 万年処女。安易なキャラ付けのために若干口が悪い。

 ベアトリクス 淫乱雌豚。冒険者協会の冒険者はみんなが兄弟だ!(一人を除く)

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