第7話 危機的状況
「少しケイ君とお話ししてくるからぁ、イチゴちゃんはさっきの通りに剣を振るう練習をしておいてねぇ」
「はい!」
お姉ちゃんがイチゴちゃんから離れると、イチゴちゃんは黙々と剣を振り回し始める。
その姿を見て何かに納得したのかお姉ちゃんが大きく頷いた後、俺の方へと歩いてきたのでその場に立ち上がり話を聞く体勢を作る。
距離を取って話をするのかと思ったのだが、お姉ちゃんはそのまま俺に抱きつき腰に手を回してくる。
それは愛情表現というよりは、獲物を逃さないという強い意志を感じさせた。
だって手には匕首が握られたままなのだもの、何時でも刺すことができるのだ。
「お姉ちゃん、ケイ君がえっちな目で女の子を見ることは関心しないんだけどね」
声こそ甘いが目は本気だ。
狩る者の目をしている。
「お姉ちゃんを見ていたんだよ。本当さ、俺の目を見てみなよ」
「ホントに? ちゃんと分かってるんだよね?」
「うん……」
お姉ちゃんの目力の圧力は凄まじく、思わず言葉に詰まってしまう。
かくなる上はこうだ!
もにゅり、もみもみ――俺は空気に耐えきれずお姉ちゃんのお尻を揉むことに逃げた。
柔らかさの中に張りがあっていつまでも揉み続けていたくなる、そんなお尻だ。
その行為がお姉ちゃんの発情スイッチに火をつけてしまったらしく、吐息が甘くなりお目々にハートマーク浮かんでくる。
あまりの興奮ぶりに手に持っていた匕首を地面に落としてしまったくらいだ。
しかしそれが不味かった。
イチゴちゃんが素振りを真面目に行っていたのはほんの僅かな間だけで、ずっとこちらを窺っていた事を念頭に入れていなかった。
彼女の目には突如乳繰り合うカップルが映っているのである。
その顔は隠しきれない恥ずかしさの中に、見てはいけないが見てみたいという好奇心が見え隠れしていた。
そのような状態では当然の結果ではあるが、著しく集中力は欠け落ち剣を振るうこともなおざりとなる。
「あっ……」
イチゴちゃんの情けない声とともに破滅の時は訪れた。
剣を振り上げたその時、彼女の右手からシュポーンと剣がすっぽ抜けたのである。
それがよりにもよって俺とお姉ちゃんの方向に飛んできたのだから参るね。
救いがあるとすれば直線的に向かってくるのではなく、高く放物線を描きながら向かってきていることだ。
それは回避する時間的余裕があるということ。
しかしやけに高く放り上げられたな、どんだけ勢いつけて振り回してやがった。
剣が飛んで来るから危ないといっても、要は落下地点に居なければいいだけであり、一歩横に移動するだけで終わる話だ。
俺は足を一歩踏み出そうとする……一体何処に?
前方にはお姉ちゃんがいるので難しく、左右に移動するもお姉ちゃんにホールドされている状態では無理だし、後方も同じこと。
そもそも詰んでいる状況ではあるが動かねば命が詰む……いや、剣が刺さった位で死なんけどさ。
「お姉ちゃん、ちょっと……」
「なぁにケイ君、イチゴちゃんが見てるわよ」
「いや、見てるのは見てるんだけどさ……」
駄目だ説得を試みようとしたが会話になりそうにない――時間が無いしここは強硬策を取るしかない。
手段を問わず移動してしまうという寸法よ。
しかしこの状態で出来ることと言えば倒れるくらいだろうか。
その後で横にでも転がれば回避できる!
倒れるといっても、お姉ちゃんを押し倒すと怪我をしてしまう可能性があるから駄目だ。
そんなことをやっていいのはベッドの上だけだ。
だからこうして俺が後ろに倒れる。
ドサッ。
ばにゅん。
お姉ちゃんを抱えながら無理やり地面へと倒れ込む。
俺とおっぱいがクッションになって、倒れた時のお姉ちゃんへのショックは軽微のはずだ。
さて、あとは横に転がれば目的は達成されるぞ。
「あら、倒れちゃってどうするの。イチゴちゃんがいるのよ……それにわたしが上だなんて」
危機が迫る状況をお姉ちゃんが理解してくれていないので、お目々のハートマークをより濃いものにしてしまったらしい。
上半身を起き上がらせたお姉ちゃんは騎乗位の姿になり、ジャージの上着のジッパーをじわりと下ろし始めた。
もう完全に本気モードじゃんこれ。
俺の腰はお姉ちゃんの太ももでがっちりとホールドされて横に転がることなど不可能。
刻一刻と近づいてくる剣は、その軌道から俺の頭の近辺に落着するものと予測される。
首を左右のどちらかに曲げれば刺さらない可能性は上がるだろう。
しかしここでどうやら時間切れだ、もうこれ以上どうしようも出来ない!
今日の下着は紫か、って……ジャージの下にはシャツぐらい着ような!
エイッ!
ザクッ。
耳元で小気味良い音を立てて剣が地面に突き刺さる。
最後の一瞬で首を右に曲げていなかったら危うく刺さっていた所だ。
まあ首元に冷たい刀身が触れているのだが、なんとか薄皮一枚すらくれてやらないで済んだのでセーフ。
自分自身の見切り力に惚れ惚れしてしまう。
「あらイチゴちゃん、剣はちゃんと握ってないと駄目よ~」
立ち上がりながらジッパーを半ばまで戻したお姉ちゃんはイチゴちゃんの方へと振り返る。
ジッパーが半ばまでしか戻していないのは敢えてではなくて、そこでおっぱいが引っ掛かったからのようである。
どうやらそれ以上閉じるにはコツが必要みたいだ。
大きなおっぱいはこうなんだぞイチゴちゃん。
「もう少しで俺に刺さっていたんだから、気をつけろよなっ!」
俺も一応軽くだけど釘を指しておく。
一応というのは、イチゴちゃんに反省の色が見えたから手加減したのではなく、彼女の視線がお姉ちゃんの胸もとを凝視していたからだ。
やはりこれだけの代物であれば、胸もとの視線吸引力は同性をも巻き込むか。
「ご、ごめんなさい! いわゆるーケアレスミスってやつで―……」
「いいのよ。それより怪我は無いかしらぁ」
お姉ちゃんはイチゴちゃんに近寄り、彼女の右手を取って二の腕から手首までをじっとりと観察する。
安心した顔で手を話したところを見ると何の怪我もなかったらしい。
まあ集中力を切らしてすっぽ抜けただけだから、手首を挫いたとかあるはずもない。
[登場人物紹介]
ケイ君 この作品の主人公。
マスコット・チアーズ お姉ちゃん。
イチゴ 女子高生。




