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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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第5話 補習授業

「飯三人分。酒は無しで」


 赤レンガの食堂でチェルシーに食事を注文する。

 この後の予定を考えて酒は飲まないことにした。

 飲んだところで酔いつぶれることも無いんだけど。


「ハイ、ご飯三人分お待ちどっ! 今日は珍しい人が一緒ですねっ!」

「今日からわたし達と一緒に働く事になったイチゴちゃんよぉ。歳はチェルシーちゃんと変わらないくらいかしらぁ」


 この世界での教育制度がどうなっているのか知らないが、チェルシーは一日中ここで働いている……そういえばこのひと月のところ休んでるとこ見たことねぇな?

 あどけなさが残る顔つきから若いと思っていたが、高校生くらいの年頃とは気づかなかった。

 まあ同年代といっても陰影のない体つきのイチゴちゃんと違い、チェルシーは出るところが出て引っ込むべきところが引っ込んでいるのだが。

 痛っ……お姉ちゃんに足を蹴られた。


「あまり宿から出ていないのか?」

「街にはなーんにもないですし、ご飯だって……」

「ケチャップよぉ」


 テーブルそびえ立つ山盛りのフレンチフライであるが、芋本来の味を十分に引き立たせるシンプルな塩味をしている。

 しかし肝心の芋本来の味がとても不味いので手は伸びにくい。

 そんなときはお姉ちゃんの助け舟、なんでも出てくる不思議なポーチから調味料を取り出してぶち撒けてくれる。


「あー、こーゆージャンクな味ってなんかー落ち着きますねー」

「そうだな……」


 しかしなんだ、今日は嫌に視線を感じるな。

 この感覚、まるでこの世界に来た初日のようだ。

 周りを見回すと昼間から酔っ払った冒険者連中が珍獣でも見るかのようにこちらに目を向けている。

 この場にいることが珍しいイチゴちゃんが目当てであることは明らかだ。


 それにしても視線がやけに下向きなのは何故だろうか。

 下に何かあることを察した俺は、いつもポケットに入れているお守りをわざと落として拾うことにした。


 カランと渇いた音を立てて落ちたお守り探すためにテーブルの下に潜り込む。

 むっ! ブルマって良いねぇ……このまま顔を埋めてしまいたい。

 ぐぇっ……、お姉ちゃんの膝が顎に入った。

 ジャージの生地ってスベスベしてていいよね。


「ケイ君、どうかしたの?」

「どーかしました?」

「いや、なんでもない。落とし物を拾っただけだ」


 顎にダメージは負ったものの、良いものが見られたので良しとしよう。

 どおりで武器屋の店主がゲスな声になっていたわけだ……いや、あれは素か?

 しかしあいつら太ももばかりじゃなくてもっと別の所も見てやれよ。

 具体的には……尻とか。


 上の方を見ても歪みのないゼッケンしか無かったので、見るところはやっぱりむき出しの太ももしかねぇな。

 むぅ……、俺の思考を呼んだのかお姉ちゃんに足の甲をグリグリやられて……ちょっと気持ちいい。


「それはそうと、これからどうするんだ?」


 お姉ちゃんに午後からの予定を確認する。

 特訓するということだが、どこで何をやるのかは出発する前に聞いておきたい。


「特訓と言えば山でしょう、ケイ君。山に入って買ってあげた剣に慣れることから始めるのよぉ」

「早速使ってみるんですねー。上手く扱えるかなー」

「大丈夫よ。剣なんて振り回すか突くぐらいしか使い途はないんだからぁ、すぐ慣れるわよぉ」


 なかなかと暴力的なことを口走るお姉ちゃんには参る。

 武器の扱いはそんな単純な話では無いと思うのだが、まあ最初はそんなものだろうか?



 かつて北に位置する隣国とを繋いでいた街道ということだが、魔物が跋扈する今では通る者もいないためか荒れ放題だ。

 大きな障害物としては倒木や土砂崩れがあり、完全に通行が出来ないところもある。

 そうでなくても大きな石が転がっていたり舗装の間から生えた草が茂っている。

 プラスして魔物が湧いてくるのだから、大体の場合で通行することが困難である。


 ここ最近は俺とお姉ちゃんが山に入るときに使っているので、街に近いところは馬車の通行に支障がない程には障害物は少ない。

 障害物の類は山に入る時に連れてきている、ディック達冒険者四人があらかた排除しているからだ。

 このまま続けていけばいずれ街道の復興も可能なんじゃなかろうか。

 公共の福祉のために働くっていいよね。


 そんな街道をしばらく歩いてたどり着いた少し開けた場所が今日の特訓に使う場所らしい。

 いつもお姉ちゃんが魔物を狩る間に馬車を置いている場所である。

 言い換えれば普通に魔物が出て来るエリアにとても近い場所でもある。


「これぐらい広さがあれば剣を振り回すにもいいんじゃないかしらぁ」

「まあそうだな」


 広さだけであれば体力測定した場所の方が、平地であるということもあって広い。

 この場所は山の途中にある、ちょっと平坦になっている場所でしかないのだから。

 つまり剣を振り回すために広さを求めるのであれば、ここまで来る必要は無かったと言っていい。


「なんかー、いかにも魔物ってやつが出てきそーな場所ですねー。ちょっとビビっちゃいますよ―」


 イチゴちゃんはキョロキョロと辺りを窺っているが、その足は少しブルブルと震えている。

 本当に魔物が出てくる場所なのだから、その怯え方は正しいのだが――


「それじゃあ剣を構えてみましょうかぁ」

「えっ? あっ、はい!」


 怯えるイチゴちゃんに構うことなく、お姉ちゃんは目的のために指導を開始する。

 その声で気を取り直したイチゴちゃんが、鞘から剣を引き抜き思うがままに構える。


 その姿はぎこちない様子であり、体全体に無駄な力が込められているのが見て丸わかりだ。

 初めてなんだからこんなものだろうとは思うが、今のままで魔物と戦闘することは難しいことも分かる。


「うん。いい感じよねぇ。でも、もっと肩の力を抜いて、剣先を地面に突きつける様に」

「こーですかー?」

「そうそう。左手で髪を掻き分けて、切っ先を睨みつけるように唇をキリっとねぇ」


 お姉ちゃんの言うがままに従ったイチゴちゃんは、構えというよりはある種のポーズを取るに至る。

 どう見ても戦闘のために敵と相対することを想定した構えではない。


「えっ? 髪の毛とか、顔のひょーじょーって関係あります?」

「それでこれは一体何のポーズなんだ?」

「地べたを這い回り命乞いする人間をどうしてやろうか考え中って感じかなぁ」


「「……」」


 思わず空を仰ぎ見る――雲ひとつない良い天気だ。

 どうしてこんなことをやろうとしたのか、お姉ちゃんの考えが分からない。

 イチゴちゃんに視線を移すと、ポーズを決めたまま固まっている。

 いや、手に込められた力が緩んで剣を取り落としそうな雰囲気がある。

[登場人物紹介]

 ケイ君 この作品の主人公。

 マスコット・チアーズ お姉ちゃん。イチゴちゃんで遊んでる。

 イチゴ 女子高生。剣を持つのは初めて。

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