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ゆるふわお姉ちゃん(年下)と行く異世界紀行  作者: kdorax
3章 リアルJKとゴブリンの王
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4話 教材付き個人授業

「最初はイチゴちゃんのことを知るために体力測定から始めるわよぉ」

「あたし、体力にはー少し自信がありまーす」


 三人で街の外にまでやってきた。

 近頃魔物の数がめっきりと減っている南側の方である。

 開けた平地になっておりずっと畑が広がっているのだが、今いる場所は何もない野原でクローバーなどの雑草が一面に生え広がっている。

 魔獣も見当たらなくなったことで昼の間は家畜が放牧されている。

 絶対数が少ないのでその数もまばらなものではあるが。


 いつの間にか二人とも服を着替えており、お姉ちゃんは上下長袖のジャージ姿になっている。

 イチゴちゃんは白の半袖体操服に黒のブルマである。

 ゼッケンにひらがなで『いちご』と目立つように書いてあるが、学年と組の欄は空白で『 ― 』と何も書かれていない。

 これまでの経緯を考えると『1―5』とでも書いているのが自然な気がするが、そういうものでもないらしい。


 握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、持久走、シャトルラン、五十メートル走、立ち幅跳び、ハンドボール投げ。

 それらの結果を確認すると、彼女は平均的な十五歳女性に少し劣る体力ということだった。


「イチゴちゃんは何かスポーツをやっていたのかしらぁ?」

「いいえー、何も。中学のときは写真部でした!」

「……よくそれで体力に自信があるって言えたな」

「イヤだなーケイさん。少しですよー少しだけー」


 まあそこそこの体力があるということがわかったので良しとしよう。

 やってもらう仕事を考えれば十分役に立てるだろう。

 しかしこの結果から察するところ、彼女が神様から貰ったものは身体能力的なものではないようだ。

 いちごサポートはおまけでしかないという話だし、それであれば彼女は一体何を貰ったのだろうか。


「そろそろ切り上げて山に行ってみようか。適当な魔物を倒して金にしよう……」

「このままではダメよイチゴちゃん。魔物と戦っていくには全然力が足りていないわぁ」

「どうすれば良いんですかっ!?」


 貧困に喘ぐイチゴちゃんのために、何かしら魔物を倒す。

 俺の想いはそうなのであるが、二人は別のようで俺の話なんて聞いちゃいない。

 そもそも訓練するって言ってたし、まだその前段階が終わったところだし仕方ないか。


「戦っていくための力を得るために特訓よぉ。特訓あるのみよぉ」

「はい! あたし頑張ります!」


 いや、戦う必要無いんですけど?

 特訓なんて欠片も必要ないんですけど?


「魔物との戦いには体力も必要だけど、それ以上に武器の扱いも重要よぉ。まずは自分に合う武器を手に入れましょう」

「でもあたし、お金がないんですけど―……」

「大丈夫よ。そこのお兄さんが持ってるからぁ」

「まあ、そうなるな」


 俺が持つ金は全てお姉ちゃんが稼いだ金である。

 その使い途についてお姉ちゃんが決めることに、本来ならば異論を挟むことは出来ない。



 そんな訳でプリメロの街に一軒だけある武器屋にやってきた。

 お姉ちゃんは武器をポーチから取り出すし、俺に武器は不要なので街にある武器屋に顔を出すことがなかった。

 値札を見る限り、店に並んでいる武器はどれも金貨二十枚程度の代物ばかりだ。

 このあたりが値ごろ感のある武器で店としても売りたいラインナップなのだろう。

 どれも磨かれていて魅力的に見える。

 一方冒険者協会で貰った鉄の塊、もとい短剣と同じものが隅の方で銀貨五十枚の値札とともにホコリを被っていた。

 切れ味も何もない鉄の鈍器でそれも中古の割にそれなりの値段がするみたいだ。


「金貨千枚?」


 そんな中で一際異彩を放つ剣がショーケースに入れて飾られている。風の細剣という銘とともにとんでもない金額が書かれていた。

 今の物価であれば俺とお姉ちゃんが十年近く宿屋に泊まり続けられる。

 今にも宿屋を追い出されそうなイチゴちゃんには過ぎたものだ。

 過ぎたもののはずだった。


「これくらいのだとーあたしでも使えるかなー?」

「うんうん。お姉ちゃん、とってもいいと思うわぁ」

「ぐへへぇお客さんお目が高い」


 何故気にする――

 何故煽る――

 何故勧める――いや、商売なんだから店主の行為は正解か。


「こっちにある金貨二十枚って書いてあるのじゃだめか?」

「えいっ、はぁっ。いー感じかもー!」

「うんうん。とっても様になってるわよぉ」

「ぐへへぇお客さんのためにあるような剣でございます」


 イチゴちゃんは剣を手に取り振り回し、お姉ちゃんはその取り回し具合を褒める。

 二人とも俺の話を聞いちゃいない。

 金貨二十枚の値ごろ感シリーズだって悪くないはず……いや結構重たいな。

 手に取ってみるとイチゴちゃんの体力で扱えそうに無いことが分かる。

 だからといって風の細剣はイチゴちゃんには高価過ぎる代物であるので分かりたくはない。


「これに似合う鞘はあるのかしらぁ?」

「ぐへへぇ。それでしたらこちらの無地のものと装飾が入ったものとがございます」

「あたしはー無地のやつがいーなー!」


 鞘の方は安物のようで助かる。

 待て、既に剣を購入することは確定済みか。


「合わせて幾らになるかしらぁ?」

「ぐへへぇ。金貨一千とんで一枚にございます」


 あら鞘は結構お安いのね……じゃなくて、俺の想いとは裏腹にすでに支払いの段階に進んでしまっている。

 いや、今ならまだ止められる――お姉ちゃん!

 俺が熱い視線をお姉ちゃんに向けると、気付いたお姉ちゃんはニコリと微笑み返してくる。


 よし、想いは伝わった!

 と思ったら、お姉ちゃんが手をクイクイっとして何かを伝えようとしている。

 ああ――俺が持っている金を要求してるだけだこれ。


「はい。これで丁度ねぇ」

「ぐへへぇ、お買上げありがとうございます。またのお越しをお待ちしておりますよ」


 しぶしぶと俺がお姉ちゃんに渡した袋は、その中身の殆どが武器屋の店主のものとなった。

 これで晴れて風の細剣はイチゴちゃんのものということだ。


「でもいーんですか? こんな良いのを買ってもらっちゃってー?」

「いいのよぉ。お金なんて働いて返してくれればいいんだからぁ。そのためにいっぱい頑張ろうねぇ」

「はい! がんばります!」

「でも金貨千枚っていうと、最低ランクの魔物でも四千匹は倒す計算だぜ?」


 頑張ろうとするイチゴちゃんに水を差すようで悪いが、今までに何もしてこなかった普通の少女には難しい話だ。

 最初は小物から相手にするとして、それは一匹あたり銀貨四枚の収入になる。

 銀貨十六枚で金貨一枚と等価であるから、これだけの数を倒さなければならない。

 鞘の分はおまけでいいだろう。


「ぬるいわよケイ君。目指すは大物一発勝負よぉ」

「マスコットお姉ちゃんと一緒ならー、あたしどんな敵にも勝てる気がします!」


 俺とお姉ちゃんにとっては関係ないが、懸賞の額が上がれば難易度は上がるものだ。

 ただ一つ問題があるとすれば、一発で稼げる大物に心当たりが無いということだ。

 最近追っているゴブリンの集団でも報奨金の総額は金貨一千枚には程遠い。


 それにどこからイチゴちゃんの自信が湧いてくるかは分からない。

 しかしやる気が無ければ何も始まらない。

 いままで引きこもりだった女子高生が前向きに冒険者を始めることを褒めてあげよう。


「まあ、まずはその剣に慣れることからだな」

「お昼を食べたら剣の特訓よぉ」

「はい!」

[登場人物紹介]

 ケイ君 この作品の主人公。どうやって金貨千枚持ち歩いてたんだろ……重たい。

 マスコット・チアーズ お姉ちゃん。

 イチゴ 女子高生。いちごは名字ではない。

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