第1話 とりあえず揉んでみよう
「若くて綺麗で可愛くて、いつでも俺を甘やかしてくれる優しい巨乳のお姉ちゃんをください!」
開口一番、俺は目の前の神に早口で告げた。
一緒に俺は土下座していたのだから、告げたというより嘆願したと言っていい。
状況を表すならばそちらの方が適確なはずだ。
◇
というわけで今、そのお姉ちゃんが俺の隣にいる。
お姉ちゃんといっても血がつながっていない上に年下だが、それは些細な問題だろう。
いや、むしろ褒めるべき点でしかない。
とりあえずどうしよう。
おっぱいでも揉んでみようかな。
「おっぱい揉んでみていい?」
「揉むだけでいいの?」
「えっ?」
それ以上のことをしてもいいのか?
色んなことを頭に描く俺の右手に両手を添え、お姉ちゃんは自分の胸へとあてがう。
もみもみ。
にゅわり。
いや、ふにゃり。
重く厚く柔らかく。
いまだかつて味わった事が無い感触が俺の右手に伝わる。
揉む度に上気していくお姉ちゃんのテレ顔と併せると凄い破壊力だ。
お姉ちゃんのおっぱいを揉みながらではあるが、落ち着いて今の状況を整理してみよう。
深く息を吐いてー、そして大きく吸いこむ。
吐いてー吐いてー吸ってー吸ってー。
吐いてー吐いてー吸ってー吸ってー吸ってー吸ってー……
よし、苦しさが俺の頭をクリアにしてくれる。
俺に何が起きたのか、まずはそこの振り返りから始めよう。
ほんの先程まで、俺は健気に不毛な社会を無理くり生きていた。
そこで気持ちばかりの休暇を貰ったはずなのだが、不慮の事故で社会からサヨナラしたらしい。
サヨナラした時の記憶は無いが、今となっては既にどうでも良いことだ。
自分の様子が何かおかしいということに気が付いたとき、神を名乗る存在が目の前にいた。
神は俺に告げた。
「第二の人生を別の世界で送らせてやろう。向こうで生きていくにあたって、お前の望むことを何でも一つだけ叶えてやる」
俺が願ったお姉ちゃんは、まさに理想通りの女性だった。
肩まで掛かる長さの明るい色の髪は、毛先にウェーブが掛かってとってもエアリィ。
顔のパーツは形が良く、そのそれぞれが大きく見えるのは顔が小さめのためだろう。
少しタレ気味の大きな目をしており、左目には泣きぼくろも添えてセクシーだ。
キリッとした鎖骨の下に待つ胸は、でっかい巨乳のおっぱいだ。
自分で何言ってるか分からなくなっているが、おっぱいは大事な部分だから仕方がない。
服を菱形に切り取る二つの穴から、北半球と南半球がチラリとしている。
彼女はノースリーブのワンピースを着ているが、菱形の切れ込みのおかげもあって今にもはち切れそうに見える。
綺麗な小顔、豊満な胸、滑らかな腋、摘みたくなる二の腕、小さな手のひら。
そんな上半身を支えているのは、折れそうなほど細い腰。
お腹は計三個目の菱形の切り込みによって、縦に割れたおヘソが露出している。
服が身体に密着している上、布地も極度に薄いためか鼠径部が浮かび上がっている。
その陰影と露出した太ももとの距離からみて、スカート部分はとても短いと推測される。
腰との対比で大きく見えるお尻は、力任せに掴みたくなるほどだ。
レースのストッキングに包まれてスラリと伸びる足の先は、ワンピースと同系色をした高いヒールのパンプス。
飾りのついた黒いポーチが唯一の所持物で、ポーチから伸びる金色の鎖を肩に掛けている。
対して俺の方はというと、総じて着の身着のままだな。
意識が途切れる前に着ていたいつもの服に、持ち物もお守りの代わりの十センチ長の長方体だけ。
神様は本当にお姉ちゃん以外は何もくれなかったようだ。
そんな乳繰り合う二人がいる所はというと、軽く見渡した限りでは辺鄙と言って良い場所だ。
人々が住んでいると思しき家は、白く塗られた壁に藁の屋根が載っている。
窓にはガラスが嵌められていて、そこから住人がこちらを覗いている……が住人と目が合うと同時にカーテンを引いて隠れられた。
足元には石がモザイク状に敷かれていて石畳を形成しており、車輪によるものと思われる轍が刻まれている。
人の往来もあることから、どうやらここは道路らしいことが分かる。
道を行くそれらの人々の服装は簡素であり、ほつれを繕ったのだろうか当て布がされているものも多い。
服の作りをみても大量生産されたものではなさそうだ。
色使いが鮮明な服はなく、所々に汚れも見られるため綺麗とは言い難い。
ついでに人々の背中は丸く目線は俯きがちだ。
町並みと人々の服装から推測するに、機械による自働化が行われていない世界と見ていいだろう。
工業が発展していないだけであり、それに代わる何かが発展しているのかもしれない。
ここがどういう世界なのかということは、これからの楽しみにしておこう。
ということで状況整理終了。
お姉ちゃんのおっぱいを揉み続けて、かれこれ五分ほど経っただろうか。
五分という表現がこの世界で正しいのかは分からないが、それ相応の時間が経過したように思える。
ちらほらと立ち止まっては、俺たち二人を観察する人々が増えてきた。
立ち止まっているのは男ばかりだからお姉ちゃんが目的であることは明白だ。
明白であるのだが、人々が話す声を聞き取ることはできないから自信はない。
この世界の言葉が理解できないから、何を話しているか分からないのだ。
ここは一筋の望みに期待してみよう。
俺はおっぱいを揉むことを止め、お姉ちゃんと見つめ合う。
「お姉ちゃんはさぁ、ここの人達の言葉が分かる人?」
「お姉ちゃん、何だって分かるよ。なんてったってお姉ちゃんだからねっ!」
この頼もしい口ぶり。
とても期待ができそうだ。
目だけを二人組の男たちに一瞬だけ向けてお姉ちゃんに合図をする。
「それじゃあ聞くけど。道路脇の二人組が真剣な顔を何を話しているか教えてくれるかな?」
「またおかしな奴らがやってきたぞ、って感じの話だよ」
そりゃそうか。
ニコリとして告げられたお姉ちゃんの言葉は、正直察せるレベルの内容だった。
白昼堂々と往来の真ん中でおっぱいを揉んでいる男と揉ませている女は不審でしかない。
いつまでもこの場所にいるのも住民の迷惑になるだろうし、かといって行く場所もない。
しかし二人組の会話の内容がお姉ちゃんの言う通りであれば、無駄に動く必要はないはずだ。
『またおかしな奴ら』ということは、以前にもおかしな奴が現れているということだ。
であれば、この出来事に対処するための人なり組織があって然るべき。
俺とお姉ちゃんはそれを待っていれば良いとなる。
「お姉ちゃん、あそこのベンチで休憩しようか」
「うん、いいわよ」
そこで路傍に置かれている手頃な感じのベンチに座ることにした。
木製の四人掛けぐらいの大きさで、二人で座るには十分すぎる。
普段は街の人々の憩いの場所であったりするのだろう。
「むっ!」
座ろうとしたときになって不味いことに気がついたので、俺はお姉ちゃんに一つ頼み事をした。
決して欲望に身を任せただけではなく、それは半分くらいである。
「あのさ、お姉ちゃん。膝枕してもらってもいいかな」
「いいわよ。じゃんじゃんお姉ちゃんに甘えて頂戴!」
お姉ちゃんはポーチからハンカチを取り出してベンチに敷くと、自分はその上に腰掛ける。
そして嬉しそうな顔をしながら太ももを右手でパンパンして合図をする。
ベンチに仰向けに身体を横たえて太ももに頭を載せると、ムニュリとした柔らかい感覚が後頭部に伝わる。
視界の半分がお姉ちゃんの大きな胸で隠されているが、それは些細な事に過ぎない。
いま大事なことは俺の視線ではなく、人々の視線がお姉ちゃんの脚に注がれることを防ぐことにある。
特に股とかね。
「チッ」
「あーあ…」
「クソが」
何かを期待していたのであろう、時化た顔をした男達が捨て台詞を吐いて去っていく。
ろくに言葉を知らない俺であっても、その意味がなんとなくであるが分かってしまう。
こういった時の言葉遣いはどこでも似たようなものなのだろう。
俺だって中身の色は知らないんだ。
よそ者に見せてやれるか。
お姉ちゃんは俺の頭を撫で撫でしながら唄を歌い始める。
歌声は軽やかで耳に心地よいのだが、俺の知らない言語での歌であるらしく歌詞の意味は分からない。
凄惨な歴史が叙述された重厚な歌詞かも知れないし、まったく無意味な歌詞かもしれない。
俺は歌を聞き流しながらお姉ちゃんの服に空いている穴へ、指を差し込んだり引き抜いたりして遊んでいた。
そんなことをしている間に十分ほどが経過し、ようやく俺が望んでいた人物が駆けつけてきた。
「ハァハァハァ……ここら辺りに突如おかしな連中が現れたって連絡があったんだが……誰か消息を知らねーか!」
「どちら様か、ここに出現したというおかしな人物を見かけられた方はおられませんか?」
慌てた様子でやってきた人物達は、それぞれ道を歩く人達に呼びかける。
しかし考えていなかった問題が発生した。
どうして二人もやってきたのだろうか、と。
ゆるゆると更新していきます。
1章は全4話で4日連続更新です。
[登場人物紹介]
主人公 この作品の主人公。
お姉ちゃん お姉ちゃん。主人公の名前を知らないぞ。