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一。おっさん、荒野に立つ


 目の前に、こじんまりと佇む古びた社。

 そして、その縁側で寝息を立てる幼女(熊耳付き)。


 対する俺。

 無精ひげまみれの29歳。おっさん。手には山刀マチェット。よく似てるといわれるイキモノは熊。

 せめて有名人とは言わんから人間に例えてほしい。


 振り返ってみる。

 鳥居。荒野。青空。


 ……ふぅ。

 目撃者はいない、か。これなら通報される心配はないな。


 ………って違うわっ!

 おかしいおかしいおかしい。

 俺は、ただちょっと趣味の山歩き(山道なし)してただけだ!

 そりゃ多少ヘンな目で見られることもあったが、やましいことなんて一つもしてない!

 ましてや幼女略取だかなんだかそういう犯罪に手を染めた覚えはない!


 違うっ!そうじゃないっ!

  荒 野 って何だ、 荒 野 っ て !! 


 そうだ。装飾でもなんでもなく、寝息に合わせてひくひく頭で揺れる熊耳だの、古風な和装の…狩衣風の服装だの、やたらと気になる要素がありすぎて幼女に気をとられてたが、そうだ。

 明らかに今いる場所がおかしい。

 趣味の藪漕ぎ、山歩きのおかげでたいていの場所なら帰り道を見失うことなんてないって自負はあるが。

 山中でたまたま見つけた鳥居潜って幼女に気を取られた隙に、下草まみれの獣道が荒野に早変わりなんて初めてだわ。

 ……初めてだわ。

 うむ。

 ………どうやって帰ればいいんだこれ。っつうか何が起こってるんだこれ。

 

 ほかにどうしようもないので考えてみるポーズをとってはいるが、考えたところで分かる気がしない。

 誰か。誰か説明プリーズ。


  ボゴォ


 そんな音が聞こえた気がして振り返る。

 そうかそうか、誰か説明してくれる奴が出てきたか、気が利いてるな。いやいや待て待て誰か目撃者に見られたら、今度こそ睡眠中の幼女をどうにかしようとしてる不審者扱いされるんじゃぁ…


 などと。

 葛藤しながら振り向いたのは全くの無意味だった。

 否、振り向いたのが超絶大事だったのはすぐに分かることだが葛藤は全くの無意味だった。


「うひょぅ!?」


 振り向いた瞬間、こっちに向かって高速で向かってくる何かを感じ、とっさに避ける。

 それは、なにか茶色っぽくて細長くて、けど腕一本分ぐらいの太さはありそうな…なにか、よくわからん何かだった。

 そいつは、避けた俺にかまいもせず、まっすぐにすっ飛ぶようにして通り過ぎ…

 …寝たままの幼女に向かっていることに気が付いた。

 

 すっ飛ぶ何か。

 幼女。

 ぶつかる。

 →大惨事。


 これ、放っといたらマズいやつだよな!?

 って考えは脳内で言葉になるより先に動きになった。


「ちょぇいっ!」


 避ける動作のまんま、細長いその横っ腹に、山歩きのために握ってた山刀の峰をぶつける。うおお、ブニってしたブニってした!きめぇ!

 ただ、それでも効果は十分あったらしく、まっすぐ幼女に向かってた茶色い細長いのがもんどりうって動きを止めた。


 お、先っちょがこっち向いた。

 ねちょねちょの粘液を滴らせる口が中央に。

 口を取り囲むように4対8本のぶっとく尖った牙が各々ばらばらにワサワサ動く。

 およそそれ以外の、鼻やら眼やらの顔面パーツをかなぐり捨てた造形。

 ああ、うん、知ってる知ってる。コンビニで600円くらいで買ったUMA図鑑に載ってたモンゴリアンデスワームが確かこんな顔だった。

 いや待て。モンゴリアンデスワームってモンゴリアンなんだからモンゴル在住のはずだろなんで日本にいるんだ。

 っつうかUMAだろうがお前は。そんなぽろっと顔出してんじゃねぇぞありがたみが薄れるだろうが。


 そんな、俺の内心のツッコミを知ってか知らずか、モンゴリアンデスワーム(仮)は、しばらくこっちを見つめるような時間を置いた後。

 ……うーわー…見れば見るほどこいつキモイ面構えしてるなー…などと、現実逃避めいた感想を頭に浮かべた俺を尻目に、再び幼女に向き直って、飛びかかろうとするように体をたわめた。


「って待てやゴラァ!」


 こんなキモイ・イキモノが幼女を襲うシーンなんて見た日にゃぁ、ご飯が向こう一か月はおいしく食えなくなるわ!

 そんな思いを込めて、山刀を、今度は刃の方むけて振りぬく。

 うおお、またブニって!ブニって! っつうか斬れてねぇ!それどころか刃が食い込んでさえねぇ!

 かってぇ!こいつ固ってぇ!


 一応それで動作を中断させることはできたみたいだが、いよいよ無視もできなくなったのか、モンゴリアンデスワーム(仮)は、今度はこっちに向かって体をたわめた、と認識してる間にもこっちに飛びかかってくる。

 バカお前、そういうのはせめてこの体験を武勇伝に変えられるような、武術の心得とかそういうのがあるヤツにしろ!

 なんて抗議しようが止まるわけもないので山刀を盾に何とかしのぐ。

 ここでまっすぐ刃を立てて、ズンバラリンと真っ二つにできるような技量でもありゃあカッコもよかったのかもしれんけど、あいにくそんな腕前の持ち合わせなんかあるわきゃない。

 少しでも面積の広い腹のとこで受けるのだってぎりっぎりだ。


「いっ……」


 受けた山刀を支える手が痛ェ


「ってぇなコノヤロウがッ!」


 けど、今度は真っ直ぐ、思い切り、押しのけ、振りぬく!

 気分的には〝グヮラゴワガキーンッ!”って効果音つけたいとこだが、せいぜい2mか3mかそこら吹っ飛ばしたくらいなもんだ。だが、まぁ、それで十分。距離は空いた。


 山刀食らって傷の一つもつかねぇやつの相手なんかしてられるか!

 俺は社に引きこもらせてもらう!


 行きがけの駄賃に、未だにのんきな寝息立てる幼女を引っ張り込むようにして、社の扉を蹴破るようにして飛び込み、飛び込んだらすぐに扉を閉める。


 ほかに逃げ込めそうな場所が見当たらねぇんだもんよ。

 社に祭られてる神様、もしもどこぞで見守ってたなら、なんだ、その、許せ。



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