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I'll be see you  作者: Diverくん
8/9

6話 ~大きな遺産~

 「なぁテオドールよ」

 「何だい?」


 一向が何故か手配されていた馬車に乗っていた最中の事。しかしその馬車を引いているのは馬ではなく四足のドラゴンだった。早朝に宿舎を出たという事もあり、シャルロッタはリカルドの肩を借りて二度寝

をしている。

 昨晩テオドールが言っていた助言をくれるかもしれないという魔女の所に行けば、少なからずは何か分かるだろうか。それとも何も情報を得られずに振出しから動けないままか。

 特に不安を感じていたつもりは無かったが、夜が明けるまでその事ばかりを考えていた。きっと意識はしていないが、本能的に不安を感じているのだとリカルドは思った。

 

 「ずっと気になってんだけど、その大荷物は一体何なんだ」


 すやすやと寝息を立てるシャルロッタを起こさぬように気にかける一方、リカルドは馬車の荷台に積まれた大荷物が気になって仕方が無かった。

 それは今朝突然、宿舎の前に置かれていた物だった。テオドールの工房を後にした初日、テオドール本人はこんなものは持っていなかったし、当然誰かが後から持ってきたものだと言う事は明白だ。

 リカルドは結局、昨晩は眠る事ができなかった。馬車で届けられたなら、その音で気が付くはずである。


 「あぁ、あれか。目的地に着いた時に、工具やら代替の部品が無いときっと困るだろう?だから昨日の内に知り合いに送るように頼んでおいたのさ。ついでに馬車もね。馬車と言うよりは……竜車かな?ハハハ」

 「でもどうやって」

 「最近は色々便利になっているからね。宅空便ってやつだよ」

 「確かに昔はそんなものは無かったな。そもそもグリフォン自体が希少な生物だった」

 「今はグリフォンを使った軍隊を作るまでだ。君の時代ともかなり変わっている。大丈夫だよ、きっと

トリエンナに着けば何か分かるよ」

 「何も言ってない……」

 「顔に出ているよ」

 「アホか、見えないだろ」

 

 ドラゴンが引く馬車を使ったこともあり、目的地に到着したのは昼頃だった。その頃にはシャルロッタも二度寝から目覚め、開口一番「お腹が空いた」と喚いた。

 彼女の家は粗末というほどではないが、中々年季の入った小さな小屋だった。しかしそれよりも遥かに大きく目立っていたのが、小屋の隣にある格納庫だ。

 それを見るなりさっそく格納庫へ足を踏み入れて行こうとするテオドールにシャルロッタは声をかけるが、テオドールは「先に見ておいた方が良いから」と言いながら大荷物ごと格納庫の中に消えて行った。

 リカルドシャルロッタと共に小屋の中で待つことにした。

 内装もかなり古く、使い込まれた家具や装飾の一つ一つに味が出ていた。


 「おじさん、シャルロッタはご飯を食べますけど何か食べますか?お茶にしますか?」

 「いや、両方いらん」


 キッチンで小さな体をちょこまかと動かしながら昼食の準備をするシャルロッタを眺めながら、リカルドはこの数日間について思い返していた。

 出会いも突然だったが、なぜシャルロッタは自分に声をかけたのだろうか。

 誰でも良かったとしても、人は普通、面倒ごとは避けたいが為にこんな兵士のような成りの男は警戒して近寄らない筈だ。声をかけたとしても、「金を恵んでくれ」などとは言わないだろう。

 リカルドはこれまでずっと一人で旅をしてきた。同伴する者どころか、飯の席を共にする者やこうして普段から何気ない会話をする相手など一時でもいた事は無かったのだ。それが今では彼女に会ってからというもの、この短期間で色々な人物にちょっとした事だが助けられた。一宿一飯の恩とは言うが、それ以上に感謝すべき事ばかりだ。 

 それにテオドールのおかげで初めて旅に目的を持つ事ができた。生きていた頃は何の気なしに旅をしていたが、本当は色々な人物の協力があったからこそ成り立っていたのだ。

 しかしウロマルドの街で出会った吟遊詩人。彼は一体何だったのだろうか。リカルド自身について何か知っているような素振りを見せていた。彼の声と言葉は今でも脳裏にこびりついて離れない。


 「うん……しょっと」


 頬杖をついて物思いにふけっていると、シャルロッタがお盆一杯に乗った料理をこぼさぬようテーブルに置いた。

 いつもの食欲は、一時的なひもじさから来るものではなく常時この食欲なのだ。


 「それ、一人で食うのか」

 「そうですよぉ?幸い、お祖父さんの遺産はあの飛空艇だけではなかったので食費には困ってないです。あ、勿論ですけど、師匠の分も作りましたからね!」

 「師匠?」

 「テオドールさんのことですよ!」

 

 そんなどうでも良い話をしながらも、シャルロッタは自身で用意した食事をがつがつと食べ始める。こうなってしまうと、シャルロッタは食べる事のみに集中してしまうため会話ができなくなってしまう。

 相変わらずの食べっぷりに関心半分呆れていると、結構な汗をかきながらへとへとになったテオドールが小屋に帰ってきた。

 ふらつきながら開いていた椅子に倒れ込むように座ると、シャルロッタがリカルドの為に注いだ紅茶を一気に飲み干しす。

 しばらく肩で息をしていたが、少し経って落ち着くと、今度は大きなため息を吐いた。


 「お、おう。どうだった」

 「……どうも何も、あれは、大変なものだ……」

 「何がどう大変なのか」

 「まずは動力源の魔法を貯蔵するタンクに穴が開いている。あれでは動かせない。他の老朽化した部品は持ってきた物で代替が可能だけど、一番難しいのがあのタンクなんだ……。あれがどうにかならない限りはどうにもならない……。あぁ、それと、船長室でこんなのを見つけた」


 テオドールはズボンの尻ポケットから、何やら色褪せた封筒を取り出し、シャルロッタに差し出した。

 それを見たシャルロッタは食事の手を止め顔を上げる。


 「君にだ」

 「私にですか?」


 シャルロッタは受け取った封筒から取り出した手紙を注意深く読む。

 その手紙は、シャルロッタの祖父からシャルロッタに当てた手紙だった。

お待たせ!少量の分しかなかったけど、いいかな。

もうそろそろウロマルドを発ちます。がんばれ。

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