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I'll be see you  作者: Diverくん
3/9

2話 ~勝利~

 まもなく試合開始のラッパが闘技場内に鳴り響く。

 まずはお互い動きの読みから始まる。相手は身の丈4メートルもある巨体の持ち主だ。それに手には長い鎖のついたフレイルが握られている。

下手に近づけば強靭な足に踏みつぶされてしまう。かといっていつまでも距離を取っていると、鎖の先端につながれた鋭い棘のまとわり着いた鉄球が飛んでくるだろう。

 お互いに出方を窺っていたが、しびれを切らして先に動いたのはディジーの方だった。

 ミノタウルスは鈍足だが、力が強い。ディジーは力任せにフレイルをリカルド目掛けて振り下ろした。

 リカルドよりも何倍もの重量のある鉄球が地面にめり込み、盛大な土埃を上げる。

 間一髪で避けることができたが、鉄球はひっきりなしにリカルドを突け狙う。

 全く近づくことのできないリカルドに、ディジーは鼻を鳴らした。


 「今度の挑戦者はどんなものかと思ったら、貧相な人間ではないか。俺は巨人族だって一撃で倒したんだぞ。お前のような逃げてばかりの臆病者に俺が負けるわけがない」

 「へーへー、そうかい」

 「何だ?虚勢を張るのも今のうちにしておいた方が良い。後で泣きを見ることになるぞ」

 「うっせーよノロマ」


 リカルドがわざと挑発的な態度を取ると、ディジーはいとも簡単に激昂した。

 それが狙いだったのか、リカルドはは甲冑の下でニヤリと口をゆがませた。もっとも、ミイラのような筋肉で笑顔を作る事ができればの話だが。


 ちょっと前の話。

 

 「すみません。挑戦者のあの人に100ゴールド賭けます」

 

 コロシアムの受付に1枚の金貨が置かれた。

 

 「今のオッズはどのくらいですか?」

 「そうだな。まぁ100倍ってとこかな。でもお嬢さん、たった100ゴールドでいいのかい?」

 「はい。これしか持ってないので」

 「そうかい。毎回挑戦者に賭ける奴なんてほとんどいないから、あのリカルドとかいう挑戦者も泛ばれるだろうよ。それじゃこれ、チケット」

 「ありがとうございます」  


 ――――――――客席にて 

 

 こういう場所に集まるのは大抵が酒瓶を片手に試合を観戦する賭け好きの男性。あるいは道楽好きの金持ちだ。

 その中に混ざるにはあまりにも不釣り合いな少女シャルロッタは、客席にぽつんと一人座っていた。

 試合が始まってからまだ時間は経っていないが、チャンピオンと挑戦者の両者は動きの読み合いを続けている。

 

 「んも~……おじさんってばモタモタしすぎですよ!名前の割に弱そうなんだから、ちゃちゃっと倒しちゃえばいいのに!」


 少女シャルロッタは激怒した。彼女は邪知暴虐かは分からないが、あの牛男を何とかして倒してもらわねばならぬのだ。

 シャルロッタには戦いは分からぬ。しかしリカルドが勝たねば今晩の夕食が食べられない事は十分理解していた。

 険しい顔で闘技場の真ん中を見つめる彼女の顔は、歴戦を潜り抜けた勝負師のようであった。

 そんなシャルロッタを不思議に思ったのか、はたまた面白いと思ったのか。どちらでも良いが。

 一人の勝負師らしき男がシャルロッタの隣に腰を掛けた。


 「お嬢ちゃんみたいな女の子も賭けに参加する時代かね」

 「おじさん誰ですか?今、私はすごく真剣なんです」

 「ここに来る奴は皆真剣だぜ。なんせ今晩の酒がかかってんだからな。はっはっは」

 「私はそんなじゃないです!あの人と約束したんです!絶対勝つって!」


 シャルロッタは勝負師の男をまっすぐに見据えて吠えた。

 「約束」という言葉に何かを感じたのか、先ほどまで軽口を叩いていた男のにやけ顔は、急に真剣な表情へと変わった。

 

 「約束……かぁ。お嬢ちゃんは、あの挑戦者の奴を信用してんだな?」

 「もちろんですよ!だって、こういう闘いって自分が勝つって信じてくれる人がいるから頑張れるんでしょう?」

 「……そうだな、コロシアムってのは観客が選手を信じてやんねぇとツキも逃げちまうよな……」

 「おじさんはどっちに賭けたんです?」

 「実はなぁ、負けるのが嫌でチャンピオン側に賭けたのさ。でもお嬢ちゃんのおかげで気が変わったぜ。俺もあの挑戦者に賭けなおす。お嬢ちゃん、一緒に応援してやろうじゃねぇか!」

 

 何か通い合った二人。

 客席で騒ぐその姿はきっとリカルドには見えていないだろう。見えているはずがない。なぜなら彼は今、ディジーからの猛攻を避けるので精いっぱいだからだ。

 純粋な怪力は先ほどよりも速さを増し、容赦なく地面を削っていく。

 観客にはリカルドが、襲い来る鉄球に為す術も無く逃げまどっているように見えるに違いない。しかしどうであろうか。地面をえぐる鉄球は、よく見るとディジーの足元まで削っていた。

 リカルドはこれが狙いであった。

 挑発に乗り怒りで我を忘れている今のディジーならば、リカルドが少し距離を取れば間違いなく追いかけて来るだろう。

 深々と抉られた地面に、ディジーの蹄が引っかかりバランスを崩す。リカルドはそれを見逃すことは無かった。

 そのの隙をつき、リカルドはディジーの肩に飛び乗る。ディジーは何をされるのか直ぐに察しがついたのか、リカルドを振り落とそうと激しく暴れた。

 しかし、一瞬の出来事だった。

 ディジーは突然ピタリと動きを止め、砂埃を立てて地面に付したのだ。

 そしてディジーの首には、鋭い剣が深々と突き刺さっていた。

 数秒の静寂。

 誰もがあっけにとられて口を開けたまま呆然としていた。

 

 「やったーーーーー!!!おじさんが勝ったーーー!!」


 その静寂を切り裂いたのは少女シャルロッタだった。

 あまりの感激に人目も気にせず大喜びしているその姿を、リカルドは一目で彼女だとわかった。

 大きく手を振ったり飛び跳ねたりしているシャルロッタに手を振り返した瞬間、劈くような歓声が闘技場内を包んだ。

 誰も予想しなかった大番狂わせ。

 ほとんどの観客は、既に賭け事など気にも留めていない様子だった。

 最強かと思われたチャンピオンを倒した挑戦者に会場は、唯々、称賛を浴びせ続けた。

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