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I'll be see you  作者: Diverくん
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1話 ~少女と闘技場と~

 ウロマルドの国は、ちょうど旅人がヴィクトリカを倒した伝説から500年経ったという「英雄祭」という祭りで賑わっていた。

 人込みという人込み。どっちを向いても人で溢れている。

 その人込みの中を少女が一人、俯きがちに歩いていた。

 どうやら少女は空腹の様子だった。しかし手持ちがなく、屋台で売っているおいしそうな食べ物を買うことができず、ただ遠くから恨めしそうに眺める事しかできなかった。

 祭りの中で人々を楽しませる大道芸や見世物小屋の数々は、無料で観ることはできるものの腹は膨れなかった。

 少女はとぼとぼと大通りを後にし、閑散とした城門付近の通りに出た。

 ふと少女が前を見ると、前からやや大柄な甲冑を着込んだ兵士のような成りの男が歩いてきた。

 他に人は見当たらないし、少女は恥を忍んで兵士のような男に金をせびる事にした。


 「あの、すいません。恵まれないわたしのような子供にお金を恵んではくれませんか。一食分で良いんです」

 「は?」

 「お金をください!お金が無いんです!お腹が空いているんです!昨日から何も食べてないんです!」

 「お、おい」

 「こんなにお願いしてるんです!だめですか!必死こいてお金をくださいって言ってるんです!」


 少女は脇目も振らず、一心不乱に兵士のような男に頭を下げた。

 しかし兵士のような男は戸惑うばかりでどうしようもない様子だった。

 男は少女の前にひざまずくと、若干申し訳なさそうな声で言った。


 「本当に済まない。俺は今この町に来たばかりでな……それに金も一文も無いんだ」

 「そ、そんなぁ……!」

 「何もできなくてすまんな……」

 「もうだめです……わたし、ここでお腹が空きすぎて野垂れ死ぬんです……」


 少女は絶望的な顔をして、その場にへたり込んでしまった。

 兵士のような男は何だかいたたまれなくなり、別に助ける義理も無いのに、この目の前の少女を助けなければならないような気になっていた。

 

 「わ、分かった。お嬢ちゃん。俺が何とかしてやるから落ち着け、な?」

 「本当に……?何とかしてくれるんですか?」

 「あぁ、してやるとも。お嬢ちゃんの名前は?」

 「名前を聞くときは、まずは自分から名乗るのが筋ってものですよ」

 「そ、そうだな。俺はリカルドっていうんだ」

 「シャルロッタです。じゃあおじさん、わたしの為になんとかしてください!」


 こうして少女シャルロッタは兵士風の男リカルドと行動を共にする事にした。

 まずは今日の宿と食事を確保することが当面の目的となった。

 しかし金を稼ごうにも突然雇ってくれる場所などないだろう。

 しばらく考えながら街道を歩いていると、シャルロッタは塗装の禿げた壁に、一枚の紙が貼ってある事に気が付いた。

 

 ~ウロマルド公認コロシアム~

 荒くれ者のミノタウルスへの勇敢な挑戦者求む

 見事勝利した者には賞金10万ゴールド


 「おじさん!10万ゴールドですって!」

 「あぁ?なんだこりゃ」

 

 この街道の先にある、国家公認のコロシアムのビラだった。

 荒くれ者のミノタウルスとは、コロシアムが始まって以来、長期的にチャンピオンの座を守り続けているミノタウルスの事である。名を「ディジー」と言うそうだ。

 数年前に突如現れたディジーは、初代チャンピオンだったルフリープという王宮騎士を瞬く間に倒し、以降は彼がこのコロシアムのチャンピオンとして挑戦者を打ち倒し続けている。

 しかしこのビラが今だに貼られているという事は、ディジーは今も頂点に君臨しているという事だ。

 彼を打ち倒そうと毎年多くの挑戦者が訪れるが、ほとんどの挑戦者が重傷、もしくは死亡しているのだという。

 シャルロッタはこの一獲千金のチャンスをリカルドに薦めた。

 大きな利益には大きなリスクが付きまとうものだが、リカルドはどうにも挑戦しようという気にはならなかった。

 なぜならリカルドは戦士ではないからだ。


 「な、お嬢ちゃん」

 「シャルロッタです」

 「シャルロッタ、こんなの無理だ。死んじまうよ。さっき生き返ったばっかなのに」

 「何意味わかんない事言ってんですか。なんとかしてくれるって言ったじゃないですか!日が暮れちまいますよ!」

 「でも」

 「でももヘチマも無いですよ。さっさとコロシアムに行ってエントリーするんですよ」


 実際日は傾きかけていた。

 リカルドはシャルロッタに手を引かれるまま、コロシアムに飛び入り参加という形でエントリーした。

 シャルロッタは客席にてリカルドを応援すると言っていた。


 「おじさん、頑張ってください!わたしもおじさんに賭けて応援します!」

 「金無いんじゃなかったのか」

 「100ゴールドだけ持ってます。じゃあ頑張って!」


 ―――――闘技場にて。


 闘技場のフィールドは何もない、一面の黄色い地面だ。風が吹けば砂埃が立つくらいには乾いていた。

 360度を客席に囲まれ、その客席をチャンピオンか挑戦者、どちらかに賭ける民衆で埋まっている。

 割れんばかりの歓声がコロシアムの外にまでも響いている事だろう。

 フィールド中央にはチャンピオン・ディジーと挑戦者であるリカルドが対峙している。

 勝負は一本勝負。どちらかが力尽きるまでのデスマッチが始まろうとしていた。

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