文~繋がる冬~
私が住むこの丘にも冬がやってきた。
温暖な気候に恵まれた島に住む私にとって冬というのはあまり嬉しいものではない。
昔、家を建てる時、父さんは海がよく見える場所がいいといった。
たしかにこの丘は風景明媚だ。
でも、冬になると風が直接当たりとても寒い。
私はそんな場所にある家がとても嫌いだった。
ブルンブルン…。
ブルンブルン…。
外でバイクの音が聞こえる。
確認しなくても私には誰なのかわかる。
郵便配達員の人だ。
この丘には他に家はなく、配達員の人はわざわざ私の家に郵便を届けるために、往復数十分の道程をバイクで進んで来てくれる。
今日も来てくれた。
たった1通の手紙を届けるために。
次の日は強い雨が降っていた。
窓から見る外の風景は滴でとても曇っていた。
「こんな日でも配達員さんは外を走り回っているんだろうな」
窓を見ながら私はそうつぶやいた。
ブルンブルン…。
外でバイクの音が聞こえる。
「あっ!今日も来てくれた」
私はいつからかバイクの音を聞くのが日課になっていた。
その日、いつもの時間になっても配達員の人は来なかった。
もちろん、郵便がないと来ないことくらい知っている。でも、そろそろ来るはずなのだ。
私が待ってる手紙が。
文通相手からの手紙が。
トントン…。
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう…?
ドアを開けて見ると、そこには郵便配達員の人が息を切らしながら立っていた。
「すいません、途中でバイクが壊れてしまって…。走ってきました。速達が届いております」
配達員の若い男性は息を整えながら私にそう言った。
よく見ると寒い寒い冬なのに汗をかいている。
「ありがとうございます」
私はそう声をかけた。
この速達の手紙こそ私が待っていたものだった。
手紙にはこの前に出した返事と共に「遅くなってごめん。春先にまた会いましょう」と書かれていた。
私はとても嬉しくなった。
ふと、窓を見ると今年最初の雪が降っていた。
***
あれから21年の月日がたった。
今は文通をしていた人と一緒に都会で暮らしている。
機械の進化とはスゴいもので今ではすぐに離れた所にいる人と「繋がる」ことができる。
それでも、私はたまに手紙を書いている。
簡単な絵を添えて。
そして、郵便配達員の人が来たらこう言うのだ。
「今日もお疲れさま。ありがとう」と。