遅刻のお手本
朝、俺は今日も電車を乗り過ごした。2年になって、1年の時よりも遅刻数が増えたような気がする。ちなみに、今日もよっぽどのことがなければ遅刻する予定だ。俺が学校に着くころには1時限目が始まるころだろうか。憂鬱だ。
かといって、別に学校自体が嫌いなわけではない。友達はそこそこいるし、授業は、まあ、それなりに受ければいいのだし、部活にだって入ってる。じゃあどうしてか。朝のバタバタとした雰囲気に押されてしまうのだ。家の中で、家族が忙しく動いているのを見ると、ベッドの中でじっと布団にくるまっていたくなる。ストレスになりそうな満員電車も、駅のホームを往来する人の波にも、俺はどこか不安を感じる。自分で言っておいてつくづく、俺って変な奴だなあと思う。もちろん、そんなことみっともないし、ちゃんとしないといけないのも、重々承知の上だ。それでも、気が和らぐことはない。残念なことに。単純に言ってしまえば、ただのサボりだ。でもどこか辛くて、俺は家を少し遅くに出て、人の込み合うのがましになった電車に乗って、学校に行く。
乗り換えの駅で、1年だろうか。俺と同じ学校の制服を着た、まだ通学に慣れない様子の女の子がいた。
こんな時間にここにいるってことは、あの子も遅刻か…。
キョロキョロと辺りを見回す彼女からは、見るからに「遅刻だ、どうしよう」といった色が窺えた。俺もちょっと前まではあんな感じだったな、と思いながら、携帯をいじった。
学校に着いた。怠い体を引きずりながら、それでもさっさと職員室前へと向かう。遅刻したものは遅刻カードなる紙を出さなければならない。俺は職員室前の机に置いてある紙を手に取り、記入し始めた。
理由か…。どうしよう。体調不良でいいか。
適当に丸をして、記入を終えると、向こうから女子生徒が歩いてくる。さっき駅で見たあの子だった。彼女はまた辺りをキョロキョロと見回し、その場に立ちすくんだ。
遅刻か?だったらこっち来て、カード書けよ。
え…?あ、はい。
彼女の声を聞いた瞬間、俺は我に返った。口に出てたようだった。しょうがないから教えてやると彼女は「ありがとうございます」と短く礼を言った。果たして、これが良い人助けかどうかは分からないけど、こういう遅刻はちょっと良いもんだなと思った。