組織への薄暗い道のり
これまでのあらすじ
堕混を倒し、ふと興味を持った鉱石探しの目的も達成した氷牙は、森の中で出会ったレンと共に再び組織に帰っていく。
少し進むとすぐにどこから来ているか分からない間接照明に照らされた、短い通路と扉のある空間に入ったのが分かった。
「あれ?」
レンが喋ったので後ろを振り返ってみると、レンは中世ヨーロッパ風の少女になっていた。
「ここどこ?」
「世界を繋ぐ道かな。それより変身したの?」
周りを見渡していたレンがこちらに顔を向けると、すぐに小さく眉をすくめて目線を落とした。
「だって最初からあの姿じゃ・・・」
まぁ確かにそうかも知れないか。
「でもいつかは見せなきゃいけないよ?」
しかしレンはうつむいたまま黙っている。
「・・・友達じゃない人には、見せたくない」
なるほど。
「そうか、姿を変えるのってどれくらいもつの?」
ようやく顔を上げたレンは何かを考えるように目線だけを上に向ける。
「集中してれば1日くらいは」
「そうか、じゃあ行くよ?」
「うん」
扉を開けると、そこにはいつものように巨大なモニターと睨み合っているおじさんが座っていて、こちらに気づいたおじさんは椅子を回して、ゆっくりと体をこちらに向ける。
「氷牙君お帰りなさい」
「あぁ」
「おや・・・その子は・・・」
おじさんがレンを見たので何となく後ろを振り返ると、レンはこちらの背中に隠れながらおじさんに顔を向けていた。
「レンって言って、組織に住まわせたいんだけど、良いかな?」
「はい、分かりました」
すぐに応えて立ち上がったおじさんは隅の方に行くとステンレスの箱からカードを1枚取り出し、こちらの方に持ってきた。
「どうぞ」
レンはカードキーを見ると黙ってこちらに顔を向けたので、とりあえずおじさんからカードキーを貰ってレンに渡す。
「これ何?」
「部屋の鍵だよ」
ゆっくりと受け取ったレンはカードキーをまじまじと眺めると、再びこちらに顔を向ける。
「あたしの部屋?」
「あぁ、後で使い方教えるから、無くしちゃだめだよ?」
「うん」
レンは半音高い声で応えるとベルトにカードキーを挟んだので、とりあえずレンを椅子に座らせた。
「おじさん、もう会議は終わってるかな」
「そうですね」
ユウジかアキが会議室に居れば良いけどな。
「レン、ちょっとみんなに説明するから待っててくれる?」
レンは不安げに会議室への扉を見ると、こちらに目線を戻しながら眉をすくめて小さく頷いた。
会議室への扉を開けると奥に居るマナミと目が合うと同時に、扉が開く音に反応したようにアキもこちらに目を向ける。
「氷牙ぁ」
笑顔になったマナミが口を開くと、ようやくユウジがこちらに顔を向けた。
「あぁお帰りー」
「あぁ、あのさ、1人、組織に住まわせたいんだけど、良いかな?」
「また?まあ俺は別に良いけどさ」
そう言うとユウジはすぐにテーブルに体の向きを直し、コップを手に取る。
「また異世界から?」
アキが冷静な口調で聞いてきたので、何気なく応えるとアキは片眉を上げて小さく頷いた。
「戦災孤児になってから1人で住んでたところでたまたま知り合ったんだ。歳は近いと思うから、マナミ、仲良くしてあげてよ」
「そっか、分かった」
満面の笑みで頷いたマナミを見ながらおじさんの部屋に戻り、寂しそうにこちらに顔を向けたレンの下に歩み寄る。
「行こうか」
レンは黙ってゆっくりと立ち上がったので、レンを連れて会議室に戻る。
「わぁ、かわいいね」
マナミが笑顔で喋り出すが、レンは眉をすくめてこちらに顔を向ける。
「この人がユウジで、こっちがアキ、この2人がこの組織のリーダーだよ」
「組織って何?」
何気なく喋り出したレンを、3人は少し驚いた表情で見つめる。
「特殊な力を持った人間が居る場所だよ。それであっちがマナミだよ」
「よろしくね」
マナミが笑顔で手を振るとレンは眉をすくめて黙って頷く。
マナミなら、恐らく大丈夫だと思うけど・・・。
「そしてこの子はレン」
「そっか、そういや何で日本語が話せるのかな?」
「前におじさんが、その世界に行ったらその世界の言葉で自然と話してるって言ってたよ」
するとユウジは腕を組んで考え込み出し、それを見たアキも目線を上にして何かを考えるような表情になった。
「ミサはホール?」
「多分ね」
ユウジがホールの方を見ながら何気なく応えると、マナミがこちらの体を眺めているのに気が付いた。
「氷牙何それ」
「ん、ああそうだった」
血の石を包んだ葉っぱをテーブルに置くと、マナミが嬉しそうにニヤついた。
「もしかして・・・お土産ぇ?」
「まあね」
「へぇー」
ユウジも興味があるみたいだな。
長い葉っぱを開いて2つの血の石の包みをテーブルに出すと、ニヤつきながらマナミがこちらに顔を向ける。
「開けて良い?」
「あぁ」
長い葉っぱを畳みながら応えると、すぐにマナミは血の石を包んだ葉っぱを解きにかかった。
「じゃあユウジ、レンをみんなに紹介してよ」
「そうかい?でも」
ユウジがレンを見ると、レンは眉をすくめて黙ってユウジに目を向ける。
「みんなの前に立つけど、緊張するなら明日になるまで待つ?」
まるでレモンのように上目遣いを見せながらユウジが優しくそう聞くと、レンは黙ってこちらの顔を伺うが、すぐにユウジに目線を戻して小さく首を横に振った。
「そっか、まぁでもすぐに終わるから、行こう」
ユウジが立ち上がり、歩き出すのを黙って見ていたレンはユウジの後について会議室を出て行った。
ユウジって意外と子供慣れしてるのかな。
「これ何ぃ?」
するとマナミが血の結晶の山を指差しながらこちらに顔を向ける。
「その石を持つと、精霊の加護を受けられるらしいよ」
「ふえぇ」
マナミは感心するように頷きながらそれを一粒取ると、明かりに照らしたりして眺め始め、そんなマナミを見ていたアキもつられるように血の結晶を一粒手に取った。
「皆さん、ちょっと良いですか?」
ガラス張りの会議室からユウジ達を見ると、会場の目がユウジ達に向けられていく。
「皆さんの新しい仲間を紹介します。レンって言います。どうぞよろしく」
黙って会場を見渡していたレンは、ユウジが歩き出すとすぐに後ろについて歩き出した。
「宝石かぁ、ミサちゃんなら喜びそうだなぁ」
「マナミは食べ物の方が良かったかな?」
するとこちらに顔を向けたマナミはどこか照れ臭そうに微笑み出して小さくうつむいた。
・・・図星ってことか。
バウンでも持って来れば良かったかな。
ユウジとレンが会議室に戻ってくると、ユウジはすぐに血の結晶を手に取り首を傾げる。
「精霊の加護かぁ」
血の結晶を眺めたままマナミがそう呟くと、ユウジが小さく眉間にシワを寄せてマナミを見る。
「何それ」
「え?これを持ってると、精霊の加護を受けられるんだって」
するとユウジが少し真剣な表情でこちらに顔を向ける。
「まじで?」
「まあね」
すると血の結晶を眺めながらユウジは嬉しそうにニヤついていき、そして何やら思い立ったように少し慌てておじさんの部屋に入って行った。
「レン、何か聞きたいこととかある?」
「あたし、ちょっと部屋に行きたい」
「そうか、じゃあ行こうか」
レンと共にホールに出て舞台を降りたとき、ふとレベッカの羽が目に入った。
あ、そうだ、レベッカに渡さないと。
「レン、ちょっと寄り道して良いかな?」
眉をすくめて黙って小さく頷いたので、レンを連れてレベッカの下に向かう。
「レベッカ」
振り返ったレベッカはこちらの顔を見るとすぐに笑顔を浮かべる。
「氷牙、どうしたの?」
「レベッカ、ニミィって妖精知ってる?」
すると一瞬眉間にシワを寄せたレベッカはすぐに目を大きく開く。
「ニミィ・・・あたしの、幼なじみだけど、ニミィに会ったの?」
どうやら同一人物みたいだな。
「あぁ、レベッカから貰ったお守り、すごく大事にしてたよ」
安心したように頷きながら小さくため息をつくレベッカだが、その表情からは寂しさが伺えた。
「それと、これ」
ポケットから慎重にニミイのペンダントを取り出してレベッカに渡す。
「ニミィにこれを渡して欲しいって頼まれたんだ」
「これ・・・ニミィのペンダント」
レベッカは掌の真ん中に乗った小さなペンダントをまじまじと眺めてそう呟くと、ゆっくりとこちらに笑顔を向ける。
「ありがとう」
「あぁ」
再び舞台に向かう途中、レンにカードキーを見せて貰うと、046と書いてあるので廊下に出て階段を上がる。
「じゃあ、カードキー出して?」
レンはベルトに挟んでいたカードキーをゆっくりと取り出して見せた。
「それをここに差し込んで」
こちらの顔を伺いながら、レンがカードキーを差し込み口に差し込むと、差し込み口の信号が緑に光る。
「緑に光ったらカードキーを抜いて、扉を開けるんだよ」
レンがドアノブを回して部屋に入るのを後からついていくと、レンは暗い部屋を見回しながらゆっくりと進んでいく。
「明かりはあるの?」
「あぁ、これを回せば明るくなるよ」
そう言って指を差すと、レンが回すタイプのスイッチをつまみ、ゆっくりと回していくと同時に部屋が徐々に明るくなっていく。
「へぇ」
小さく声を漏らしたレンは部屋を見渡しながら何気なくベッドに近づき、ベッドの前に立つとゆっくりとこちらに振り返った。
「何で2つあるの?」
「僕は分からないな。おじさんに聞かないと」
「おじさんって最初に会った人のこと?」
「あぁ」
小さく頷きながら再びベッドに目線を戻すと、レンはゆっくりとベッドに座った。
「こんなふかふか、はじめて」
「レン、時間って分かる?」
こちらに振り向いたレンは眉をすくめると黙って頷く。
「朝の7時に、さっきの広い場所に行けば朝ご飯が食べられるよ」
「時計無いよ」
レンが座っているベッドの隣のベッドに座り、2つのベッドの真ん中にある棚に内蔵されているデジタル時計を指差した。
「これが時計だよ」
「へぇ・・・」
不思議そうにデジタル時計を眺めているレンを見ながら立ち上がり、部屋を出ようと扉に向かう。
「ねぇ」
振り返るとすぐにレンが少し慌てた様子で立ち上がった。
「もう行くの?もっと色々教えてよ」
「そうか」
レンを連れて洗面所に向かい、洗面台の周りにあるものやトイレを見せた後、脱衣所に行き洗濯機を説明してから浴室を見せる。
「へぇ・・・これは?」
「そこからお湯や水を浴びれるんだよ」
不思議そうにシャワーヘッドの無数の穴を眺めたり、指でなぞったりしてからレンがゆっくりとこちらに顔を向ける。
「どうやって?」
「このレバーを回して温度を変えて、ここを回すと水が出るよ」
半音高い声で小さく唸りながらレンがシャワーヘッドを戻したので、浴室から出てリビングに向かう。
獣人ってお風呂とか入らなそうだな。
「この四角いのは?」
「テレビだよ」
そう言って画面の下のスイッチを押してテレビの電源を入れる。
「に、人間が・・・」
呆気に取られてテレビを見ているレンを見ると、レンの体や服装が少しずつ元の姿に戻っていった。
動揺して集中力が保てなくなったのかな。
「えっと・・・どうやって消えるの?」
「この赤いのを押すんだよ」
テレビを消すとレンは小さくため息をつきながらソファーに座った。
いきなり音と人間が出たのに驚いたみたいだな。
「レン、最初はレベッカから仲良くなれば?妖精なら大丈夫でしょ?」
こちらに顔を向けたレンは眉をすくめて目線を落としたが、ゆっくりとこちらに目線を戻すと黙って頷いた。
「じゃあ僕、部屋に戻るから」
「・・・うん、あ、朝って何時だっけ?」
「7時だよ」
ほんの少しだけ口角を上げながら、小さく頷いたのを見てからレンの部屋を後にする。
これだけ世界が変わっても、この人達はまったく変わってない。
あのいかにも仕事に無気力そうなサラリーマンだって、こんな時間でも街を出歩く化粧の濃いあの女子高生だって。
これからどうなるかも分からないこんな世界でも、まるで変わらずに普通に生きてる。
でもしょうがないのかな、能力者じゃないなら、どうすることも出来ないし。
でもあの女子高生のことはとやかく言えないか、僕だってこうやって夜の街を歩いてるし。
第五章に入りました。主人公のパターンにも目を向けながら読んでも楽しめるかも知れないところまで投稿出来てると思います。
ありがとうございました。




